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アイディア出しにおける「多様性」の論文を読んでみる

こんにちは!株式会社NTTデータのデザイナー集団「Tangity」で、サービスデザイナーをやっていますGoroです。
サービスデザインでは随所でアイディア出しが行われます。さて問題です。アイディア出しにはどんな人が参加するとよいのでしょうか?

今回の記事では、「アイディア出しの参加者」について考えます!

1.はじめに

アイディア出しについて時々聞くのが以下のような説です。

参加者の専門分野の多様性が高いと、平均してイノベーションの価値は下がる。しかし、ブレークスルーが生まれる可能性は高くなる。

そして、以下の論文が引用されることが多いようです。
Lee Fleming, Harvard Business Review, Vol.82,Issue 9, Sep2004

この言葉だけ受け取り、「よし!じゃあできるだけいろいろな人に参加してもらおう!」と私などは考えるわけです。
しかしある時ふと疑問に思いました。論文は具体的に「ブレークスルー」としてどんな例をあげているのだろう。「多様性がブレークスルーを生むのに効果的」とは実際のところどういう意味なのだろう。

在宅勤務の合間、外に出ると近くにある老人ホームに入所している方たちや、保育園の園児が散歩しているのを見かけることが多くあります。多様性といえば、これほど多様性に富んだ人たちはいないでしょう。
ではあの人たちにブレストに参加してもらえばイノベーションが生まれるのでしょうか?(考えただけで実際にはやってません)
そもそも論文ではどういう主張がなされていたのでしょう?

というわけで、在宅勤務で節約できた通勤時間相当の時間を使って論文を探しました。無料で見つけることができたのはPerfecting Cross-Pollination by Lee Flemingだったので、以降はこのページに記載されている内容に沿って記述します。

2.メンバー集めの条件

Flemingらは17,000件以上の特許を調査した結果、以下の結論に至りました。

多様性を持つメンバーを集めれば、イノベーションの平均価値は下がる。しかし、価値の高いイノベーションが生み出される可能性は上がる。

ではどうすれば多様性をもったメンバーを集めた上で、価値の高いイノベーションを生む確率を高めることができるでしょう?

まず前提条件として、「多様性を持ったメンバー」とは単に年齢、性別などが異なっているだけではなく、「様々な分野の専門家」を想定しているようです。

その上で、最初の条件は、それぞれのメンバーが専門にしている領域が確立され、その領域はよく研究されていることです。
半導体製造技術という分野と機械工学の専門家が協力した結果、ナノテクノロジー分野で素晴らしい進歩がもたらされた例が挙げられています。逆に、当時まだ発展途上にあった核エネルギーが他の分野と結びつくことによって生まれた原子力自動車、原子力トースターなどは失敗に終わったともあります。

別の条件は、それぞれの分野について深い知見を持つ専門家を集めることです。
専門家は、異なる分野の専門家との協力に消極的なことが多いのですが、うまくいった場合には素晴らしい成果を生むことがあります。
例として挙げられているのは行動経済学です。従来、経済学は「消費者は合理的に判断し、行動する」という想定の元に築かれていました。対して心理学では、「人間は多くのバイアスによって合理的ではない判断をする」ことが「常識」とされています。そしてこの2つの分野の協力から、行動経済学が生まれました。

ではなぜそれが可能だったのでしょう?
それは、1つの分野に深く精通した専門家は、「その分野がどのような仮定に基づいているかという点まで理解している」からです。それゆえ、他分野の専門家と協力することで自分の専門分野が拠って立っている仮定を見直すことができたと考えられます。

3.ブレイントラストのメンバー集め

さて、こう見てくると、少なくとも有名な論文が「多様性に富むメンバーを集めればイノベーションが生まれる」と単純に主張していなかったことがわかると思います。なるほど。では他にそうしたことを主張している人はいるでしょうか?

ピクサーという素晴らしい映画をいくつも世の中に送り出したスタジオがあります。そこではブレイントラストという方法でアイディアを磨き、映画作りに生かしているとのことです。

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そのブレイントラストのメンバーはどのように集めるか、以下のような記述を発見しました。

それが守衛さんだろうと、見習いだろうと、一番信頼のおける側近だろうとかまわないんです。それを助けてくれる人なら参加してもらいます。
(引用元:エド・キャットルム+エイミー・ワラス著 「ピクサー流創造するちから」 p150)

そうか、やっぱり細かいことを問わない多様性が重要なのか。さっそくうちの会社の守衛さんに声をかけてこよう。きっと「枠に囚われない自由な発想」からすごいアイディアがでてくるぞ!

と期待した方には申し訳ありませんが、前述の言葉にはちゃんと条件がついています。

メンバーに必要な資質は①その人がいることによって自分が賢く考えられるようになることと、②短い時間でたくさんの解決案を提案できることです
(引用元:エド・キャットムル+エイミー・ワラス著 「ピクサー流創造するちから」 p150)

4.まとめ

サービスデザインの手法にはいろいろな説が存在します。いわくブレストでは批判禁止で楽しみましょう!
しかしながら実際にそうした手法を用いてみると、疑問を感じることも多いです。そうしたちょっとした違和感は探求する価値がある、というのは経験上正しいサービスデザインの姿勢です。
これからもサービスデザインで「常識」として扱われている説であっても鵜呑みにすることなく、違和感に目をつぶらずその意味するところを調べ考えることを続けていきたいと思っております。

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