400字の部屋 ♯20 「富 1」

 配達人から受取った小振りの箱をカッターで丁寧に開けると、ダークグレーの緩衝材の中心が少し窪んでいて、そこに一枚の黒いカードが収まっていた。ブラックカード。込み上がる感動に任せて「よっしゃあぁ!」と叫んで躰を激しく揺さぶり、Penyはジッと漆黒のカードを眺めた。カードの真ん中に兜を被ったヘラクレスの肖像が描かれていて、下の方にゴシック大文字で「PENY TOMITA」と名前が刻印されている。遠目近目でジッと見詰める。クレジットカードの頂点。TVや雑誌で図抜けた富豪や著名人がこのカードを使っているという事は昔から紹介されており、カード所有者は正真正銘巨富の象徴として世間に認識されている。緩衝材から取り出し、手に取るとチタン製のカードが人体に反応したかのようにピタリと掌に吸い付き、冷んやりしたカードの質感が堪らなくセクシーだった。Penyは思う。これで自由になった!資本主義の軛を断ち切れた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?