見出し画像

能登から認知症の父がやってきた(14)

だめだっ!今日はもう無理!呑みに行こう!
手をたたきながら、独り言を延々と繰り返す父。イライラが絶頂に達し仕事をやめて家を出た。

私はコロナ以降、在宅勤務だ。介護の手伝いや地震の事務手続きもしやすい環境ではあるが、正直、デイサービスの時間以外仕事にならない。
電話番もしているので、ワークスペースで仕事するわけにもいかず、トイレを探して別の部屋をうろついてしまうこともあり、目が離せない。

その日はもう我慢できず、よく行く飲み屋で一気にビールを飲み干した。「夫婦って特別なのかな?なんで母は我慢できるんだろ。さっさと施設に入れればいいのに」とママさんに聞いてみた。「うーん。夫婦ってのもあるけど、長い間お世話して付き合い方に慣れてるんじゃないかなあ。私もそうだけど、好きなことして気を抜く方法も分かってるし」と。店主(夫)がアル中だったママさんは、続ける。
「あちこちに言い散らかせばいいのよ。私なんて誰にでもすぐ言っちゃうもん」しっかり者で長年店を切り盛りしてきたママが、さらっと言ってのける。「言い散らかす」いい表現だ。

この店で一緒になったお客さん達にも教えられたことがある。
認知症ではないが、それぞれ親の介護を経験していて、弟、妹がいる長男長女さんの話。「たまに帰ってきて親の世話をちょこっとするだけなのに、親はやたらと褒めちぎるんだよねー。しかも、ああしたらいいこうしたらいい、って意見言いやがって。お前がやれよ!て」妹の私は苦笑いだった。兄や姉はそう思ってたんだ。思いもよらない話だったが、姉の気持ちが少し理解できた。貴重な飲み屋である。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?