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能登から認知症の父がやってきた(24)

桜開花目前なのに荒れる天候が続く季節。
ショートステイ中の父の面会の日。晴天かと思いきや、出掛けに雨が降り出した。

雨と冬にもどったような寒さのせいか、道すがらなんとなく物悲しい気持ちになる。乗り換えの駅は祝日だったこともあり人でごった返していたが、この町は歩いている人も少ない。より寂しさが増してきた。もうすぐ家族も能登に帰る。なんだか初めて上京した時のことをふと思い出してしまい、ひとり取り残されたような気が重い道のりになってしまった。

父はヘルパーさんに連れられて、エレベーターの前で出迎えてくれた。
「お父さん、元気やった?」と声をかけるが、返答がない。やはり私のことは分からないようだ。少し痩せた気もしたが、元気そうだった。ヘルパーさんと少し話し、父とふたり、テーブルにつく。「食べる?」好物だと言う「きなこねじり」というアメを口の中に入れてあげた。

父「あま〜い」
私「おいしい?」
父「うん」

「今日は応援がいっぱいきとる。いい日やな」と父。「そやね。もうすぐ桜も咲くね」同じようなことを繰り返しポツリポツリ話す父。顎に昼食の跡なのか乾いた白いカピカピが付いていた。テーブルあったウェットティッシュで拭いてあげる。
「ここはなんの心配もない。安心しておられるわ。ケチケチしとったらだめやね」え?ちゃんと話している。ここがどこか分かっとるんか?私を気遣っとるんか?お母さんことを言っとるんか?
いずれにしてもこんな言葉が出てくるのは、施設の方々によくしてもらっているからだろう。不安なく過ごせているようで安心した。

とはいえ、話しは長く続かない。30分ほど居て帰ることにした。
元気な様子を見て安心したのか、面会という作業を終えてすっきりしたのか分からないが、帰り道は雨もやんですっかり気分が晴れていた。途中の駅で買い物でもして帰ろう。

と、電車の中で電話が鳴る。施設からだ。
なに?なに?何?今行ったばっかなのに、なんかあったのか!?
電車を降りて、電話に出た。
「言い忘れてすみませんが、便秘薬が無くなったので、補充をお願いしたいのですが」
あ〜、びっくりしたよ〜。面倒だけどわかりました。もう一回行きますよ〜。おやすい御用です、コーラック買ってもう一回いきますよ〜。
場所が変わったせいか、また便秘になっているそうだ。うちでは便が出て苦労していたのだが。

やはり私の人生は「尻拭い」の連続である。


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