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「美しい彼」の沼へ〜BLという枠を超えた、真っ直ぐなラブストーリー〜


BL初心者が、「BL」という括りではなく一つの作品として「美しい彼」に心を震わせた、ただそれだけのお話を、長々とまじめに綴っていきます。


ドラマ「美しい彼」との急な出会い

確かTikTokをぼーっと眺めていたら、ドラマ「美しい彼」の切り抜きが流れてきたのだと、ぼんやり記憶している。
ドラマのタイトル名だけは薄らと知っていたものの、主演キャストのお二人のことは名前も顔も存じ上げていなかった。
けれども、その切り抜きを見た瞬間に、センサーがビビッと反応したように「このドラマを見なければ!」という使命感に駆られた。
私には、お気に入りの小説や映像作品に出会うにあたって、そのような瞬間が時たま訪れる。

BL作品との馴染み

そもそも、私はいわゆる「ボーイズラブ」にどこまで馴染みがあっただろうか。あまり意識したことがなかったので、これを機に振り返る。(単なる自己満足だが)

特段「BLが好き」とも「BLは嫌い」とも意識したことはないが、ドラマや映画を通して、なんだかんだBLに触れてきたことに今更気づいた。
(ちなみに、漫画やアニメに関しては、何故か体が受け付けないため、言うまでもなく、BL漫画やBLアニメは全く知らない。)
自分は中学生の頃からジャニオタで、ジャニーズについてはグループ問わずそこそこ精通していることもあり、「消えた初恋」(Snow Man 目黒蓮×なにわ男子 道枝駿佑)、「高良くんと天城くん」(IMPACTors 佐藤新×少年忍者 織山尚大)は視聴した。
ジャニーズ同士でBLか~時代も進んだな~なんて呑気な顔して見させてもらったが、かなり真剣に見ている自分がいた。負けた。

そして、海外の映画やドラマを貪るように見ていた時期にも、ボーイズラブを取り扱った作品に出会ったことがある。
ブラジル映画の「彼の見つめる先に」、フランスドラマの「スカム・フランス」が今でも強く印象に残っているが、双方とも、最初からBLを意識して見始めた訳ではなく、気づいたら男の子同士の恋愛模様を目の当たりにしていた、という感じだ。

こう振り返ってみると、多少はBL作品に触れてきた。
ここまで来れば、おそらく「無関心」のレベルではない。
正直言うと、こういう類の作品で男の子同士が結ばれた時、毎度私は思わず泣いているのだ。
自然と涙が込み上げてくる。
それはそうと、私はいわゆる「普通」の恋愛を描くドラマや映画において、男女が結ばれるまでの過程を見るのは楽しめるのだが、お互いの「好き」が合致して結ばれた瞬間に冷めてしまうのだ。
涙なんて出やしない。
ひねくれているに違いないが。
「あいつなんか好きになるはずないのに…どうして…」(定番すぎる)という、まだ「恋」という名前がつく前のモヤモヤ、本当は好きなのに無愛想どころか常に牙を剥くような態度をとるという矛盾した行為、こういうのは思いっ切り楽しんで見られる。
しかし、結ばれた途端、愛の行為が始まると、「あーはいはい。よかったねー。」と急激に自分の中のバロメーターがグンと下がる。
昔はこうではなかったのに。何故だ。

でも、BLを見た時は真逆なのだ。
純粋に、祝福!歓喜!の気持ちでこちらも胸がいっぱいになる。
「男の子同士の恋愛」の方が興奮すると言い表すのは違う気がしており、上手く言葉が見つからないのだが、恐らく自分にとって、彼らの恋愛がいわゆる普通の男女の恋愛以上に「本物」に見えて輝かしかったから、とでも言えば良いだろうか。
(「男女がくっつくことは当たり前」という価値観がマジョリティである社会で生きているが、未だかつて人とお付き合いしたことがない自分にとって、恋愛というものの実態が未だに分からない。だからこそ、便宜上の関係とか、そういうものを全部抜きにした同性同士の恋愛というのはかけがえのない、途轍もなく眩しいものに見えた。)

【本題】「美しい彼」がどこまでも美しかった

前置きがかなり長くなったが、このドラマを見ないと!という使命感に駆られた私は、まずTverを開いた。すると、このドラマは、現在シーズン2放送中で、最新話は第2話であることを知った。(前提知識の無さ)

とりあえず、シーズン2の第2話を視聴。

見入る、とにかく見入る。吸い込まれる。

TELASAの2週間無料キャンペーンを利用し(ケチ)、シーズン1全話視聴。

このプロセスを一日で見事完遂した。
要は、スピーディーにまんまと沼にハマった訳だ。
自分でも想定外だ。
ある程度馴染みのあるキャストがいたらまだしも、全く名前も顔も知らないお二方による作品に、ここまで夢中になるとは。完敗。

ここで、一応あらすじを確認しておく。
きっとこのページに辿り着いた方の殆どは、あらすじなんてもう知ってますよ~と思うかもしれないが。

物語の主人公は、思うように言葉を発せない「吃音症」を持ち、幼い頃から周囲に馴染めず“ぼっち”を極める高校3年生・平良一成と、学校のカースト頂点に君臨する圧倒的カリスマ・清居奏。高校3年の春、クラス替えの自己紹介で緊張のあまり吃音が出てしまった平良は、クラスで透明人間のように扱われ、清居らのグループからパシリにされるようになる。しかし、そのことを気に留めるどころか、むしろ嬉しく思っていて─?!実は、平良は清居をひと目みた瞬間から恋に堕ちていたのだった。クールで美しい清居のことをひそかに、王(キング)と崇拝し、昼食の調達に使いっぱしりと忠誠を尽し続けていく。この思いは、憧れなのか、何なのか─。自分の気持ちに整理ができずにいたが、クラス内で力関係が変わるある出来事をきっかけに、二人の関係は急展開していく。

https://www.mbs.jp/utsukushiikare/intro.shtml
「美しい彼」イントロダクションより

ここから、3つに分けて、この作品が素晴らし過ぎる所以について語る。

①さまざまな美しさ


いうまでもなく、タイトルの「美しい彼」は清居奏のことなのだろう。

平良は、清居に、幾度となく「美しい」「綺麗だ」と見惚れ、時にそれを言葉にして真っ直ぐと伝える。

平良を見ていると、誰かに対する気持ちを「好き」「嫌い」「うれしい」「切ない」などという言葉のほかに「美しい」という言葉で表していいのでないかと、もはや「美しい」という感情があっていいのではないかとさえ思わされる。
その人、その人に関係するもの、自分がその人を思う気持ち、すべてが「美しい」と。

でも、「美しい」のは決して清居だけではなかった。
もう作品の何もかもが美しく見えた。

描写が美しい。
まるでその世界には2人だけしかいないようなのシーンが多々あり、どの瞬間を切り取っても、額縁に入れて飾りたくなるような美しさだった。
光、水、淡い色…
2人は形のないものに囲まているように見え、より一層2人の輪郭が際立つ。
その関係に名前は無かろうと、誰も入ることのできない、2人の世界が出来上がっているのだと、暗示しているよう。

言葉が美しい。
小説を読むことが好きな自分にとっては、平良や清居のそれぞれの目線からの「語り」がとても好きだった。
相手に対して、本心ではどういった感情を抱いているのか、因数分解したような一言一言がとても美しく、言葉が逃げないように心に留めておきたくなった。

音楽も美しかった。
作品の世界観をさらに美しいものにするための、補助的な役割を果たしているのだろうと思ったが、後日散歩中にサウンドトラックを聞いてみると、その音楽自体が単体でも美しいと思えた。

二人がすれ違う様さえ美しい。
清居と同じ世界に到達できる訳がないと思い込んでしまう平良と、実は平良に自分のことをもっと理解してほしいと願う清居。
この二人のすれ違いは何度も起こる。
すれ違う様もこんなにも美しく描けるのか…と衝撃に近い感動を覚えた。
二人で楽しく作り上げていたトランプのタワーが、あと一枚というところで、全て崩れてしまうような、そんな二人の楽しい時間や空間の脆さ、儚さを感じた。
けれど、その儚さを美しさに昇華して描くのが著者の魅力だ。

そして何より、平良の感性、世界の見方が、とても美しいと感じた。
清居と平良の二人によって完結された世界であり、こちらには入り込む余地すら無いと思っていたはずなのに、平良一成という一人の人間に強く羨望の念を抱いてしまった。
吃音の悩みを抱え、学校では「無害」な存在でいられるよう、ひっそりと過ごす平良。
価値のない人間だと判断されるような存在として描かれているが、私から見ればそんなことはない。
彼が唯一の趣味とするカメラに関しては、ファインダーを覗くと、この世界から自分が切り離されたように感じられると、彼は言った。
そんな彼の感性に、私はときめいた。
また、内に秘めた彼の強い信念が時折表に姿を現すことがあり、そんな瞬間の彼の揺るがない表情、鋭い目、力強い口調、全てにやられる。

②構成が良い


キングと称される清居が、平良のことを自分勝手な王様だと言うように、実は平良の方がエゴイスティックな部分がある。

自分の独自の世界を持っていて、簡単にその領域に人を入れることはしない。
ただ、清居だけは特別。彼だけを自分の世界に入れた。

全体的な描写としては「平良<<<<<<<清居」の構図であるが、平良の「俺様」な側面に着目すると、平良の優位性が浮かび上がり、また違った視点で楽しめる。二面性があり、面白い。

題名である「美しい彼」が意味するのは平良から見た清居であり、物語は平良の目線を軸として進むが、清居の目線から語られることもある。
このような二面性も面白い。

一つの作品にオモテとウラがある。

シンプルに、構成そのものが優れた作品だと確信できる。
流石、やはり原作が凪良ゆう先生の小説だからか。

恐らく、原作が漫画ではなく小説であるところに、私がこの作品の世界観にここまで没入してしまった理由があるのだと思う。
恋愛ドラマ特有のラブコメっぽさはほぼ排除され、「純愛」が壮大に描かれていた。
だからこそ、これ程までに余韻が残るのだ。

③究極にベストな配役

そして、この作品に感銘を受けた大きな理由の一つに、もう彼等以外は考えられない、1mmも違和感を感じることのなかった素晴らしいキャスティングであるという点を挙げたい。

まずは、清居奏を演じる八木勇征くん。
このドラマで彼のことを初めて見たが、まあ「美しい」という言葉がよく似合うルックスとオーラだ。
ただ顔立ちが良いだけではなく、圧倒的な華がある。
そして、そのオーラが「清居奏」に最大限に生きている。
ドラマの中でも彼はいわゆる芸能人のような存在であり、FANTASTICSでアーティストとして活動する八木勇征くん自身の普段のオーラを殺す事なく、作品の中に溶け込めるのだ。

時たま、キラキラアイドルがドラマや映画の中でそこら辺にいるようなごく普通の会社員などを演じていると、どうもミスマッチ感が際立ち作品全体の均衡が保たれてないように見えてしまうことが多い。
オーラが消えてないのだ。
端正な顔立ちでもオーラを消せることが出来るタイプの俳優やアイドルがいる一方で、やはりそれを消せないタイプもいるのだ。
だからこそ、後者のタイプである八木勇征くんがオーラをわざわざ消すことなく、カリスマキングな高校生、やがてテレビや舞台に立つ若手イケメン俳優を演じられたことは、まさに適材適所だった。

そして、平良一成を演じる萩原利久くん。
彼は先述したオーラ消せる/消せないタイプの話で言えば、前者のタイプだ。
ただ、存在感が無い訳ではない。
オーラがなくとも、目・表情・声がもたらす強い存在感に圧倒される。
まさに萩原利久くんは、それを最大発揮する、素晴らしい素材を持ち合わせている。
吸い込まれそうな瞳や、力強さと繊細さを兼ね備えた声色。
更に、私なんかがあれやこれやと語る資格すらないように思えるほど圧倒的な演技力で魅せてくる。
調べてみたところ、子役としても活動してたらしく、それはもう演技に関しては大ベテランではないか。
彼の飄々とした姿、重みのある語りに幾度となく魅了された。


ここまで長くなるとは思わず、自分でも驚いている。
これ程までに思いが溢れてしまうほど「BL」というジャンル抜きにして、心の中にずっと留めておきたい作品となった。
そして、この作品及び2人の姿は、私にとっていわば美しい光だった。
劇中で、平良は「清居がいたから、淀んだ空気の中でも前を向こうと思う。」と語り、清居もまた「平良がいたから、淀んだ空気の中でも前を向こうと思えた。」と語る。
体力も気力も何もかもが落ちてしまっている時期に出会った本作品が、私にとっては淀んだ空気の中でも前を向こうと思えた存在になった。

まだ原作は読めていないのだが、興奮が冷めないうちにドラマについての感想を書くだけ書かせてもらった。

とりあえず、「劇場版 美しい彼 〜eternal〜」が楽しみでならない。


p.s. 見出し画像は「美しい彼」と「汝、星のごとく」(凪良ゆう最新作)のイメージに合うと思い、選びました。



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