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#24私は正社員を捨てた

結婚と同時に不妊治療を始めた。

私は子供が好きで、夫との生活の中で子供がいることを想像できたので結婚した。この天真爛漫な人の子供はどんなタイプの子供になるんだろう。それだけでも十分に結婚を決めるのに決定打になった。

婚姻届けを提出し、それまで使ってきた苗字とは違う苗字になって、印鑑を変えて、通帳を変えて、免許証も変わった。

「〇〇さーん」と待合室で呼ばれてもすぐに反応できない自分がいた。もどかしかった。恥ずかしかった。

通院して1年が経とうとしたまだ寒い時期。

職業上繁忙期に差し掛かり、職員が一生懸命残業していたとき、上司に「すみません、通院で注射なので早退させてください」と申し出た。

もちろん職員全員に不妊治療で通院してあることは通知済だ。早退させてもらう前日にも「明日早退させていただきます」の根回しはいつも毎日している。そう、毎日。

毎日注射で通院していた。ある一定の期間。卵胞を大きくする注射をして、既定の大きさになった排卵させる注射を打つ。それが私の妊娠への近道だった。それをもう1年以上やっていた。

日本では不妊は病気ではないと言われているようだが、WHOは不妊をしっかりと「疾患」と定義している。

「疾患」なんだよ。

世の中では「不妊様」なんて言われることもある。悲しい。

話は逸れてしまったが、上司に「すみません、通院で注射なので早退させてください」と申し出たとき、上司の返答は


「もーさーー、このくそ忙しい時に毎日毎日早退して。子供欲しいのはわかるけど、旦那とよろしく回数こなせば子供なんてできるから、あなたは仕事してください」

だった。

気持ち悪かった。そんなことをこの場で言える上司も、そういう考えを良しとしている社会も。

翌日退職届を提出した。

仕事は好きだった。きちんと責任をもって仕事に取り組んでいたつもりだし、少ないなりにも担当のお客様も抱えていた。

そのお客様に退職の話をする時に「夫が転勤になりまして」と言わなければいけない私の心のうちを誰も知らなっただろう。

正社員として働き、結婚当初夫よりお給料をもらっていた。ボーナスもきちんと出ていて、有給休暇もあった。

退職届を出してから、退職日まで余っていた有給休暇は使わせてはもらえなかった。

「辞めるんだから、あとの人に迷惑かけないように退職日の日付変わるまで仕事していけ。残していくな」と言われた。

その職場を退職してから、体外受精にかかる治療のスケジュール管理で正社員にはなれていない。

きっとこれからもなれないかもしれない。不安だ。

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