論文メモ 桃呪術の比較民俗学(1) ―日本の事例を中心として―
桃崎祐輔による論文。
問題設定
東洋の桃は、西洋における林檎と並び、その聖性が強調されてきた。日本においても『古事記』『日本書紀』の黄泉国神話や『桃太郎』などで桃の信仰や呪術の片鱗に触れることができる。桃の呪術・信仰が中国に源を発するであろう事は先行研究によって明らかになっているものの、そうした研究の多くは、桃を短絡的に道教的・神仙思想的なものと解釈する傾向にあった。安易な性格付与が実体の解明を妨げるという事態がある。本論文は、こうした現状の打開のため、研究学史上の問題点を明らかにし、日本の桃の民俗事例を抽出・分析し直し、今後の比較民俗学的考察の操作に耐え得る基礎資料を集成し提示する。
メモ
民俗学史については割愛
桃信仰の起源については、これまでこのような考察がなされてきた。
(一)桃花の早春開花に伴う、農耕・婚姻などの時期のしるしとなった説。李も同条件で区別できない。
(ニ)桃の花や実の色が吉祥のものと思われる説。他の美麗な花と区別できない。
(三)桃・逃音説。信仰の起源には関係ないが、桃が同類中の代表になった理由として重要
(四)桃の薬用説。神仙説流行以後の考案で、後世的な解釈。
(五)桃樹の繫殖力の旺盛さや果実の多さによる説。
(六)桃の実の女陰類似説。日本に発生した卑猥な俗説とされる。
(七)懐妊効果に信仰の起源を求め、その信仰の系譜にある桃材の駆魔の呪物・門神説話として度朔山伝説の展開を明らかにする説。
上記に本論で行った分析と考察を加えると、
(八)「桃」字成立以後、その妾「兆」により、桃字の意味ではないト占との関わりが 発生し、(一)説と結び付き、神霊(穀霊)の依代としての性格を帯びた。また日本では、穀霊 と同一視される雷神(或いはこれと同一視される蛇)と桃が結び付いたが、陰陽五行説の介在で 関係が形骸化、眉辛雷(辞蛇)呪術が残された。更に後には神仙思想も付加された。
日本の桃の呪術は、中国に起源を持ちながらも日本で特異な展開を見せている。
事例
論文中の事例を目録的にまとめておく。
追儺・節分における桃呪術について
茨城県笠間市笠間 笠間稲荷神社の節分会
茨城県稲敷郡桜川村阿波 大杉神社の節分祭
東京都世田谷区喜多見 氷川神社の節分会
埼玉県川越市老袋 氷川神社の弓取り式(甘酒マチ・豆腐サシ)
埼玉県秩父市大字大宮字母巣森 秩父神社の追灘節分祭
埼玉県秩父郡小鹿野町伊豆沢沢浦 伊豆沢の天気占い
埼玉県児玉郡神川村二ノ宮 金鑽神社の追儺祭
山梨県南都留郡道志村長又 長又のオビシャ(御弓射)
神奈川県川崎市高津区長尾 長尾神社の射的祭
神奈川県川崎市高津区平 白幡八幡神社の初卯祭
京都府京都市左京区吉田神楽岡町 吉田神社の節分祭(火炉祭)
愛媛県川之江市川之江町 八幡神社の百々矢(百々手)(桃手)
愛媛県松山市南高井町 正友神社の節分祭
愛知県稲沢市国府宮町 尾張大国霊神社の国府宮夜儺追(裸祭)
群馬県富岡市一の宮字本町 貫前神社の鎮神事
穀霊と桃について
長崎県対馬下県群厳原町 豆酘のサンゾー口
長崎県壱岐島のゴウヅエ・畑マツリ
鹿児島県西之表市塰泊(種子島)船祝い
節句の桃の民俗
秋田県男鹿群若宮町五里合地区琴川 桃の節句
山形県西置賜郡小国町小玉川 桃湯
埼玉県秩父地方 桃の節句
神奈川県川崎市高津区平 白幡八幡神社の初卯祭
愛知県一宮市一宮 真清田神社の桃花会(桃花祭)
奈良県五條市南阿田 流し雛
鳥取県用瀬町 流し雛
広島県比婆郡東城町塩原 桃酒
香川県坂出市櫃石島(塩飽諸島) ひな節句(ひな祭り)
香川県仲多度郡多度津町佐柳島・高見島 桃の花見
高知県各地 桃茶
高知県各地 桃酒
鹿児島屋久島宮之浦 磯遊び
高知県香美郡物部村 「いざなぎ流」陰陽道
陰陽道・修験道と桃について
長崎県壱岐島のキドマブリ・牛のマブリ
長崎県上伊那郡箕輪町 狐憑き祓いの桃枝
愛知県南知多郡日間賀島 桃の杖
長崎県対馬下県郡厳原町阿連 桃の卒塔婆
桃と雷除について
奈良県生駒郡斑鳩町 法隆寺金堂柱発見の桃核
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