無能と眠れない苦しい夜(二丹菜刹那)

この記事は推しを語るアドベントっぽいカレンダー3日目の記事になります。執筆者は二丹菜刹那さんです。

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 大人になるってなんだ。

 そんな文章からはじめようと思った僕は、二十代後半をむかえている。年齢だけで考えたらいい大人がなに言ってんだと思われるに違いない。

 でもどうしようもない事実として、僕の精神年齢は中学生くらいでとまっている。雨の日には傘も差さずに外に出て、サンダルで水溜りの上をパシャパシャしたい。真夜中に河川敷に行って、宇宙人とかUFOを探したりしたい。うんこの話で笑っちゃうし、街中でかわいい人がいればバレないようにちらちら見ちゃう。

 子どもと思春期の思考をあわせ持ったまま、歳だけ重ねてるできそこないが僕だ——そういう自意識を持って生きている。

 といっても普段はどこにでもいる普通の社会人をやっていて、この自意識は顔を見せない。ゲームをしたり、youtubeで配信を見たりしているときは心の奥深くに沈んでいる。けれど眠れない夜に【自分】と向き合う瞬間にその存在を強く感じるんだ。

 まさに今、僕はそんな真夜中のなかにいる。明日仕事だから眠らなくちゃいけないのに、ぐちゃぐちゃの心のままスマホの画面に文字を打ち込んでいる。
 こんなふうに眠れなくなっている理由は、仕事でミスをしてしまったからだ。

 とある申請を複数個出す。聞いただけでだれでも簡単にできるタスクだ。
 それで僕はいくつも申請間違いをして、差し戻しをくらった。今日だけではなく、先週も同じような失敗をした。

 僕は定期的に仕事でミスを重ねる人種だ。
 とくに申請系は大の苦手で、全世界申請失敗ランキングがあったら上位ランカーになれると思う。世間ではきっと、そういった人を無能と呼ぶ。

 注意していればできることがどうしてできないんだろう。
 ミスはだれにでもあるというけれど、それにしたってミスしすぎだ。

 夜のテンションで今の自分の気持ちを書き殴ってみる。
「なんでこんな失敗するん、無能すぎ、はぁまじゴミだ、生きてる価値なくね、死にてぇんだけど、でも『ルックバック』よかったなぁ……」

 こういう夜に、僕は一人のvtuberのことを思い出す。推しという言葉は正確ではないけれど、よく配信を見ているし、アーカイブを漁ったりしているから客観的に見たら「推し」にあたる存在なのだろう。

 卯月コウ。にじさんじに所属する配信者だ。

 僕は彼の持ってる価値観・思想を通して形になる言葉が好きだ。
 卯月コウはぼんやりと心のなかにある、あったはずの気持ちの言語化が、おそろしくうまい。僕のようなできそこないの大人の心に眠っている気持ちに関して、とくにそう思う。
 それは彼が似たような性質の心を持っていて——これは僕の勝手な解釈だ——深層にいる自分と向き合い続けていたから、紡げる言葉なんだと思う。

 僕は卯月コウを見つけたとき、同一視しかけた。
「お前は俺か」と思う部分がたくさんあったからだ。

 でも、僕と卯月コウは違う。
 彼はにじさんじのライバーで、僕はただの社会人だ。

 眠れない夜に、かつて卯月コウが配信で話していた内容を思い出すと自己嫌悪におちいる。

「何か絵を描けるわけでもない。音楽を作れるわけでもない。ただコンテンツを消費しているだけの自分に嫌気がさして、作品を見続けることがつらくなっちゃう」

 卯月コウはこの状態、感情を消費者コンプレックスと呼んだ。
 あなたがもしこの気持ちが理解できるなら、なにかを作りたいと少しでも願ったことがある人だと思う。そしてたぶん、満足に創作ができていない。

 僕はそうだ。
 消費者だけでいたくない。そう思いながらも理想とする自分になれず、本気で生産する側に行くこともできず。

 在りたいように在る、ということはとても難しい。
 僕はいったいどう在りたいのか?

 その答えらしきものを卯月コウは発言している。

「他でもない俺自身がずっと中学生でいたいって、そういう思いを張り続けた結果が今の俺だから」

 果たして俺は、こんなふうに確固とした自分を張り続けたことがあるだろうか。
 真夜中に卯月コウを見ると、いつも刺さってくる問いだ。

 僕は無能だ。心が弱いし、継続力もない。
 他人の立場をうらやみ、憧れ、嫉妬して。何者かになりたいという愚かな欲望にずっと呪われている。あったかもしれないifを考えながら今日を無駄にしてしまう。

 でも、それでも、昨日よりも今日よりも、ましな自分になりたい。
 寝て起きたら、この夜の気持ちを完璧に持っていけない人間だけど、「ずっと中学生でいたい」という気持ちを持ちながら生きるように、「何者かになりたい」と思いながらじたばたする人間で居続けたいんだ。

 真夜中に卯月コウのことを考えると、忘れそうになるこの気持ちを思い出す。
 だから、苦しくて身勝手な夜も、僕は嫌いじゃない。

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