サザエさん症候群の実在について

日曜の夕方、サザエさんが流れてくると死にたくなる。
——世の中にはそんな人が少なくない数いる、らしい。「サザエさん症候群」なんて名前がついている、らしい。

「らしい」というのは、じつはわたし、いままでそんな感覚になったことがなかったのだ。
出版社の営業部時代は、書店営業が楽しかったし働くこと自体が新鮮だった。
編集&ライターは「月〜金・9:30〜17:30」と時間で区切られた仕事ではないので、日曜日に云々ということはなかった。締切前は憂鬱を通り越して苦悶に近いけれど、サザエさんは関係ない。

しかし、この日曜日の夕方、わたしははじめて沈んだ。自分でもびっくりした。娘と過ごす週末の2日間があまりにも楽しくて、明日からまた8時間半も保育園に預けるのかあ……と思うと割り切れないものを感じたのだ。人よりゆっくり、でも確実に成長している娘をもう少し見守りたいんだけど、と。

……いやこれね、別にふつうの話だと思うでしょう? でもわたし、筋金入りの子ども嫌いだったんですよ。
妊娠中もなかなか母性が芽生えず、「顔が可愛くなくても愛せるでしょうか……」と相談して若干引かれたり。「保育園にぶち込んでやるぜい!」とデーモン閣下みたいな気分で産まれる前の4月からもりもり保活したり。ちなみに顔は可愛くなくても愛せるし、可愛く見えてくるので大丈夫だった。

ともかく「娘といる時間が大切」「だから休みの日がうれしい」と思った、それはわたしにとってかなり大きなできごとでした、という話なんだけども。
これ、友達とのグループLINEの中でぽろりとこぼしたら「え、日曜が憂鬱とか就職してから毎週だけど!」と返ってきたのだ。
「ゆうこの周りには仕事が好きな人が多そうだもんねー」と。

ほーーー、やっぱりそうなのか。「症候群」と名前がつくくらいだからそれなりにいるだろうけれど、一般的な感覚なんだなあ。

そして思った。たしかにわたしの周りには仕事とプライベートが溶けあっている人が多い。向上心があり、何者かになろうとしていて、社会に影響を与えたい人。自分の名前で生きていきたい人、クリエイティブであろうとする人。SNSで発信して、フォロワーを増やして、仲間を増やして——。

彼らは、サザエさん症候群になんてならない。むしろ次のプロジェクトを考えて、休日だってわくわくしているだろう。労働が我慢ではなく、エンタメに近いから。

でもおそらく、そんな感覚を持っているのは労働人口のごく一部だ。友人のようにサザエさん症候群、またはその予備軍のほうが世の中にはずっと多い。
このマジョリティの感覚が理解できたのは、コンテンツをつくる仕事をするうえではいい収穫だったと思う。うん、あの日曜日の憂鬱さは、経験しなきゃわからない。
とはいえわたしは「仕事がイヤ」の憂鬱さじゃないので、いわゆる「サザエさん症候群」と完全に一致と言えるのかはあやしいけれど。


週末、大学のサークル同期が集まる機会があって(場所が遠くてわたしは断念した)、そのとき「ほとんどみんな転職経験がないね!」という話になったそうで。
有名企業や「いい会社」に勤めている人ばかりだからかもしれないけれど、いわゆる「転職童貞」が多いのは、わたしが仕事で接する人とは違う層だ。
そういえば彼らの中で積極的にSNSを使ってる人、いないんだよなあ。インフルエンサーにインフルエンスされない層というか。

言わずもがな、どっちが上とか下とか、いいとか悪いじゃない。断じてない。「そういう人」も「そうじゃない人」も社会に存在するし、社会を動かしている、ということだ。

自分って狭い世界に生きているんだな、とちょっとカメラを引いて見るきっかけになった週末でした。

サポートありがとうございます。いただいたサポートは、よいよいコンテンツをつくるため人間を磨くなにかに使わせていただきます……!