見出し画像

納棺師、死ではなく生を語る。「あのひとの記憶」にどう生きていきたいか。

構成した『だれかの記憶に生きていく』、発売になりました!

『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演されたことのある若き納棺師、木村光希さんのはじめての本です。

納棺師——この職業を耳にしたとき、映画『おくりびと』をイメージする方も多いでしょう。亡くなった方を清め、お着せ替え、お化粧をほどこし、棺に納める仕事。主演の本木雅弘さん演じる美しい所作と儀式としての納棺は、うつくしい山形の風景とともに、観たひとの記憶に刻み込まれていることと思います。

画像1

じつは、本木さんに納棺の指導をされたのは、木村さんのお父さま。つまり木村さんは、納棺師2世でもあります。子どものころから「死」はごく身近な存在で、リビングでお弟子さんが納棺の練習をしていたり、兄弟で「納棺師ごっこ」をしたり……。そんな環境で育ったこともあり、ごく自然とこの道に進んだそうです。

そんな木村さんですが、「ふつう」の納棺師とはすこし違う。

一般的に、納棺師は葬儀社に決められた時間、指定された場所に訪れ、納棺の儀式のみ担当します。いわゆる「下請け」の色合いが強いのです。

しかし、木村さんはさまざまな「おくり」を経験するなかで葛藤し、「『下請け』のままでは真にいいお別れはできない」とお父さまが立ち上げた会社を飛び出します(このあたりの経緯もぜひ読んでほしい……!)。

そして、お打ち合わせから納棺の儀式、故人さまの生き様を表現したオリジナルのお葬式、火葬の瞬間までひとりの納棺師が寄り添いつづける、あたらしいお別れのかたちを生み出したのです。

さて、そんな木村さんが本書で伝えるのは、「死」ではなく「生」

平たくいえば、わたしたちはどう生きていけばいいんだろう、ということです。

***

私たちはみんないつか死ぬ。数時間後かもしれないし、50年後かもしれないけれど、たしかにいつかは死んでしまう。いわば「発生率100%」とも言えるライフイベントなのに、みんな忌避しすぎではないか? もっと向き合ってもいいのではないか? ——そう、木村さんは考えます。

でも、よく言われるところの「明日死んでもいいように生きよう」はストイックで、ちょっと窮屈。わたしも「明日死ぬとして……」と仮定したら、ほぼ確実に仕事はしないし、ドラマの第1話は見ないし、洗顔後の美容液だって塗らないかも。SNSなんて、絶対に見ない。

日々コツコツなにかを積み上げられるのは、しょうもないことや楽しいことができるのは、「明日も、1年後も、10年後も生きている」って無意識に信じているからなんですよね。

じゃあ、死を避けるでもなく、意識しすぎるでもなく、どんな気持ちで生きていけばいいのか? 

数えきれないほどの死——結婚式の直前に亡くなった女性、高校生の子を遺して事故死した両親、乳児突然死症候群で命を落とした赤ちゃんなど——に携わってきた木村さんは、「死への距離感を自分で決める」といった解決策を示しつつ、あるひとつの「問い」を示してくれました。

それこそが、「自分は何によって憶えられる人間でありたいか?」

これ、もともとは「マネジメントの父」であるP.F.ドラッカーの言葉ですが、木村さんは「まさにお別れの場の言葉だ!」と感じたそうです。

木村さんは、たくさんの「遺されたひとたちに語られる故人」を見てきました。その「語り」の中にこそ故人さまがいて、まるでその場に浮かび上がってくるようで、「たとえ肉体は失われても僕たちは記憶の中で存在しつづけるんだ」と気づいた。そして上記のドラッカーの言葉を目にしたとき、腹に落ちたと言います。

最後の時間に、どんな人間だと語られ、どんなふうにおくられたいか。

周りのひとに、大切なひとに、どんな思い出を残したいのか。

「人間はなぜ生きるのか」といった壮大で哲学的な問いではなく、こうした問いこそが生きる道しるべになるのではないか、と。

——本書は、そんな木村さんの気づきや思いを、ぎゅっと閉じ込めた一冊になっています。


ものすごく余談ですが、「『どう生きたか』は遺されたひとに託される」という思想、『鬼滅の刃』の世界観とも重なるなとふと思いました。炭治郎のお父さんも、煉獄さんも、お館様も、みんな遺されたひとの記憶の中に生きてるもんな、と。みんな「ああいうひとだった」と語られるだけの生き方をしてきたんだよね、と。そんな目で、あらためてこの本を読んでみたいと思います。

スクリーンショット 2020-12-09 14.10.20

スクリーンショット 2020-12-09 14.10.31

スクリーンショット 2020-12-09 14.10.40

納棺師として美しい儀式をおこない、故人さまのオリジナリティあふれるお葬式をプロデュースすることで(陽気な「カラオケ葬」とか!)、少しでもいい「おくる時間」を過ごしてほしいと奮闘してきた木村さん。

彼が見てきたたくさんの別れに触れながら、「生きること」を振り返り、周りの大切なひとたちに思いを馳せる時間にしてみませんか。

ぜひお読みください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?