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オフィスに非常用電源(BCP電源)を導入する方法と注意点

はじめに

このnoteはインハウス総務FMの担当者向けになります。サプライヤー向けではありませんが、インハウスの担当者はこんなふうに考えているという点では、サプライヤーの方にも役立つ部分はあるかもしれません。

オフィスビルに装備される非常用発電設備。2011年の震災以降、停電時でも電源を供給するために大規模オフィスビルでの採用が進み、2015年以降では中規模オフィスビルにおいても非常用発電設備が標準装備されることが増えているようです。

昨今では不動産やオフィス家具を手がける企業が最新のワークプレイス戦略を発表し、事業会社でいえば、自社オフィスを持つべき/持たざるべきの議論が活発になっています。

当然ひとつの正解はなく、会社が手がける事業、経営層や総務FM部門の考え方によって異なるもの。答えそのものよりも、オフィスに関する意思決定を通して会社の在り方を考える機会が生まれたことが、なにより価値あることかと思います。

まずは事実として、オフィスを減らす選択をする企業が増えているようです。その意思決定の背景にあるのは、オフィスの目的の明確化。少数先鋭の考え方でオフィスを持つことになり、今まで以上にオフィス自体の価値が問われることになりそうです。

価値のひとつとして外せないのが、BCP(事業継続計画)の観点。たとえば災害時にも情報を届け続けなければいけないメディア部門や、取引やCS対応などの業務を継続せざるを得ない金融部門などは特に重要です。

災害時の事業継続で大切なことのひとつが、電気が使えること。大規模な停電ではオフィスに電気が供給されなくなりますが、上記のように目的が明確化されたオフィスでは、非常用発電設備により有事の際も電気を使える環境が求められる場合があります。

このnoteでは、ビルに備えられた非常用発電設備を使って、オフィス内で非常用電源を使えるようにするための流れと注意点をまとめています。

非常用電源を導入するためのステップ

非常用発電設備がビルに装備されているかを確認する方法や、社内での要件整理、経営層から承認をもらうまでの4ステップ。具体的な工事手順などの技術的な話というよりは、発注者として必要な動きという目線でまとめています。

1. 非常用電源が使えるかどうかを確認する

入居を検討している、もしくはすでに入居しているビルが非常用電源サービスを提供している(ビルとして非常用発電設備が備えられており且つテナント向けに使えるようにしている)かどうかを確認します。

確認方法としては、ビルのパンフレットを見ることや、ビルから提供される貸方基準、内装工事マニュアルといった資料をみることです。

それでも分からないとき、手っ取り早いのはビル管理会社へ問合せること。ビル管理会社については、非常用発電設備の仕様、導入に必要な手続きやコスト感を打合せするために遅かれ早かれ連絡することになるので、このタイミングで相談するのがスムーズかと思います。

2. 非常用電源の仕様を確認する

有事の際に使える非常用電源の容量としては「賃貸借面積の1㎡あたり15VA」というパターンが多いようです。借りているオフィス全体に非常用電源を導入するのは基本的に難しいので、非常用電源を導入するエリアをテナント側で決める必要がある、という点をおさえておく必要があります。

参考までに、少しテクニカルな話も書いておきます。経営層、入居部署担当者などユーザー側から深掘りされたときに、使えそうな情報をまとめておきます。

非常用発電設備の仕様として多いのは、デュアルフューエルガスタービン発電機。例えば東京電力からの給電がストップしてビルへ電気が供給されなくなったときにビル内に貯蔵されたガスを使って発電、さらにそれもダメなら重油を使って発電(ビルとしては二重の燃料で発電する=デュアルフューエル)ということになります。

ビルによって仕様は変わりますが、最終手段の重油を使って発電できるのが72時間であることが多いようです。「72時間って妥当なの…?」と疑問が生じたり、経営層からそういった声が上がるかもしれませんが、以下の背景から問題ないと思います。

たとえば民家しかない山間部でなく、ある程度のオフィスがある都市部で72時間経ってもなお電力が復旧しないという事例は、ほとんどないからです。

2019年9月9日に千葉県を直撃した台風15号で大規模な停電が起きました。このときの停電では72時間を越えて電力が供給されませんでしたが、対象の地域は戸建て住宅地であり別系統の変電所からの切り替えがなかったため、停電が長期化したのが背景であると言われています。

他方、ある程度の規模のオフィスビルでは電力会社の一つの変電所がダウンしても、別系統の変電所から供給する仕組みが出来上がっています。したがって、72時間を越えてもなお電力が復旧しないケースは、ほとんどないと考えられます。

仮にあるとすれば国全体に影響する相当な大災害のはずなので、もはや事業継続とか言っている場合じゃないと思います。

3. 非常用電源の要件を整理する

まずは、かけられるコストの確認です。非常用電源の利用は原則テナント要望なので、工事費と退去時の原状回復費用が発生します。

新規でオフィスを構築する場合は、プロジェクト全体の予算内でどれだけの枠を用意できるか。既存オフィスであれば、どれくらいのコストであれば捻出できるのか当たりをつけておくことが大切です。

その他に整理すべき要件としては、会社ごとに変わる点もあるかと思いますが、大きく以下3点かと思います。

① 停電時に継続すべき業務
② 事業継続に必要な執務席数と機器
③ 非常用電源を供給する機能

① 停電時に継続すべき業務については、たとえば金融部門ならば金融庁で定めるBCPの指針で決まっていたり、カスタマーサービス部門ならば災害時にもお客様対応をすべきかどうかといった視点があるかと思います。

昨今ではリモート環境でも実現できる業務が増えていますが、総務やインハウスのファシリティマネジャーとしては、オフィスで事業継続をすべき業務が社内にどれだけあるのかを把握しておくことが大切です。

② 事業継続に必要な執務席数と機器については、オフィスで該当の業務をするために必要な席数や使用機器を確認し、必要な電源容量をざっくり割り出す必要があります。

たとえば一席あたりデスクトップPCとモニター2台を使うと想定した場合、一席あたり150〜200Wの電気容量が必要です。これをもとに業務をするために必要な電気容量が分かるので、非常用電源を導入できるエリアがざっくりと見えてきます。

ただし、WをVAに換算したり、換算するときの掛け率などややこしい話があるので、基本的にはビル管理会社の担当者と連携をしながら話を進めていくのがお勧めです。

③ 非常用電源を供給する機能については、②で算出した執務席だけでなくBCP本部を立ち上げる会議室、サーバールーム、執務席や会議室までのセキュリティ扉、業務をするときの天井照明について考える必要があります。

検討で漏れがちなのが天井照明です。オフィス内の天井照明についても非常用電源の容量を消費するので、業務をするエリア内では100%の照明を付けたいのか、非常時だからと割り切って最低限の明るさを担保して(点灯する照明を30%に間引きする等)残りの容量は執務席にまわすなど、継続すべき事業の特性に合わせて考えることが大切です。

以上の要件を整理してビル管理会社へ提供すれば、導入コストを出してくれるはずです。導入コストが予算を大きく外れていれば、非常用電源を供給する席数や照明の点灯数を減らすなどの対応が必要になり、このあたりはビル管理会社へ相談することでコストダウン案を提示してもらえるかと思います。

4. 経営層の承認をもらう

ここまでくると、経営層が意思決定をするために必要な情報が揃ったことになります。

どんな事業で非常用電源が必要なのか、どの程度の執務席や会議室に導入するのか、複数プランと各プランのメリデメ(Pros&Cons)あたりの軸でまとめることになるかと思います。非常用電源に限らず、経営層が「他の会社はどうしてる?」と気にすることが多いと思うので、同業界の他社での取り組みまで提示できるとベストです。

会社ごとに適した進め方があるかと思いますが、一連の検討の前段として、経営層と「どれくらいの金額ならやる/やらない」を確認できていれば、意思決定をするためのロジックがすでに準備できていることになるので、余計な検討や提案をしなくて済むことにもつながると思います。

どれだけ生産性の高い進め方ができるか、インハウス総務FMの腕の見せ所かもしれません(このあたりが本当に難しいので、他社での進め方とか学びたい…)。

非常用電源を導入するうえでの注意点

いくつか注意点もあります。新規オフィス構築のプロジェクトマネジメントや、導入後の運用のなかで「これは注意したほうが良いな」という5点をまとめました。

非常用電源の分電盤にスペースを食われる

非常用電源を使用するためには、多くの場合、専有部内に分電盤を設置する必要が生じます。分電盤の大きさがそこそこあるので、専有部の面積を消費してしまいます。

分電盤のサイズは大きいものだと、高さは床から天井まで。幅90cm×奥行き20cm程度あり、見た目にも圧迫感があります。

場合によっては専有部ではなくビルの共用部に置かせてもらえる場合がありますが、この場合は場所使用料が発生しランニングコストがかかるので、導入検討で使うコストに見込んでおく必要があります。

できるだけ他フロアから電源容量をもってこない

「賃貸借面積の1㎡あたり15VA」など、供給できる非常用電源の容量が決まっているので、必要な執務席や会議室に導入しきれないことがあります。

たとえば複数階にわたって借りている場合、特定フロアでの非常用電源の容量を増やすために、別フロアの電源容量を割り振ることができます。

ただし、その場合は、電源容量をもっていかれた側のフロアのみを部分返却する際に注意が必要です。電源容量をもっていかれた側を部分返却する際には非常用電源の配線を原状回復することになるので、思っていたよりも原状回復コストがかかったり、下手をすると「返したいけど上手いこと返せなくて詰む」ということもあり得ます。

入居後の工事は停電を伴うことが多い

非常用電源を導入するための工事後には、問題なく電源が供給されるビル側で試験をする必要があります。この試験では、大抵の場合で停電を伴うため注意が必要です。

新規のオフィス構築で、引っ越し前に非常用電源の工事をする場合は問題ありませんが、すでに稼働しているオフィスに導入するときは、工事時期や停電時の社内体制などを考える必要があります。

土日で工事が完結すればだいたい問題ないと思いますが、24時間稼働部署など土日も営業している部署があるときは要注意。その際は入居部署だけでなく、社内のネットワークチームやITチームなど影響が及ぶ部門へのフォローが必要になるかと思います。

原状回復コストはテナント持ちになる

これは当然といえば当然です。テナント側の希望で行っている工事なので、原状回復時には増設した分電盤や非常用電源のための配線撤去をテナント負担で行う必要があります。

居抜きで退去できる場合も考えるとなんとも言えませんが、次に入居する企業がそのまま非常用電源を使うというのも考えにくいので、原則は退去時はコストをかけて原状回復すべきと考えるのが間違いないと思います。

非常用電源が使えない場面がある

ビルにもよりますが、火事が原因で起きた停電の際は、非常用電源は使えません。なぜなら火事の際には事業継続ではなく避難が優先になるからです。

また、法規で想定するよりも遙かに大きな地震が起き、ビルの非常用発電設備自体が破損してしまった場合も当然、非常用電源を使えません。

稀な事例ですが、たとえば非常用電源を供給するために増設した分電盤自体で不具合が起きて停電になった場合も、非常用電源が使えません。

非常用電源の一般的な考え方としては、大規模な災害などでビル自体への電力が止まったときに、非常用発電設備が稼働し非常用電源が供給される仕組みになります。ゆえにビルのヒューマンエラーなどの不具合により、ビル内で局所的に停電が発生した場合は、非常用電源を使うことが原則できません。

このあたりの話になってくると、非常用電源を供給したいエリアに対して別系統からのコンセントを転がしておくなどありますが、そこまでして継続させねばならない事業やBCP要件の整理のことを書き出すと切りがなくなるので、ここから先は美味しいお酒でも飲みながら話しましょう…

おわりに

以上、オフィスに非常用電源を導入するための流れと注意点について、自身の勉強も兼ねてまとめてみました。今後、新たな学びがあれば追記します。

空調をはじめ設備にはめっぽう弱いファシリティマネジャーのメモ的noteです。技術的な部分は実務でヒアリングしたり書籍で調べたりして分かったつもりではありますが、もし認識違いなどあればご指摘ください。

総務FM業界をこの先、一緒に盛り立ててくれる皆さんの役に立てば嬉しいです。それではご安全に!

いただいたサポートでボールペンの替え芯などを買いたいと思います。ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。