宝石

小さな石ころになるまで、いったいどれくらい削られて来たのだろう。

数えるのも嫌になるくらいの、無数に産まれた尊く儚いものの中で。


許せなくて思わず声を荒げた。
傷つく前に誰かを傷つけた。

追い抜きざまに懐かしい香り。
あの人を思い出し、それからはずっとうつむき歩いた。


この街はかつて何もなくて、人はそこにたくさんビルを建てた。

吸い込んで吐き出して行く。

僕と同じ顔をした誰かと生きてる。


あのバンドの曲が大好きで、テープがすり切れるまで聴いた。

どこに行ってしまったの?

鳴っていた音は宙を流れ、僕を通り過ぎて行った。


息を切らして閉店間際にかけこむ。
ずっと欲しかった宝物。
夕焼け空を眺めることもなくなり、階段からおもちゃを転がして落とし、
それから僕は泣き止んだ。


この心にはかつて何もなくて、君はそこに少し汚れた鏡を置いた。
波風が強くて水面が揺れるから、そこに映る姿を僕は見れなかったんだ。

この世界にはかつて何もなくて、僕はずっと家族と一緒に暮らしていたんだ。
見上げるほどに大きな石は、ずっと変わらずに僕の側にいてくれると思っていた。


削られて、小さくなってしまった、宝石。

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