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【インタビュー】コロナ禍で"平凡"にしがみついたチーナが、全力で音楽に向き合った理由

バイオリンやコントラバスを含む個性的な編成で、数多のバンドとは一線を画すポップスを奏でているチーナが、昨年末に2年ぶりの新作となる『Hey bon』をリリースした。今作はコントラバスの林絵里の産休明け直後のリリースで、2019年に同じく産休を経験したボーカル/ピアノの椎名杏子にとっても、初めて子供の影響が現れた作品でもある。そもそも産休制度のあるバンド自体が珍しいうえに、椎名も林も1年足らずで復帰。そして2回とも復帰直後に新作をリリースしている。足を止めることなく動き続けるチーナは、どのような姿勢でバンド活動に向き合っているのだろうか。メンバーのなかから椎名、バイオリンの柴由佳子、ギター兼マイクロコルグのリーダーの3人に、ここ数年のバンドの歩みと新作『Hey bon』について話してもらった。また、この機会に結成の経緯などを話している過去のインタビューも復刻したので、こちらも併せて読んでみてほしい。


●コロナ禍でアルバムを作ることくらいしかできなかった

――ここ数年はメンバーのライフイベントが続きましたけど、バンドは止まらずに動いてましたよね。

リーダー:椎名は「バンドの足が止まってる感を出したくない」みたいなのが口癖で、僕としてはもっと休みたかったんですよ。椎名のときも、えっちゃん(林)のときも、「もう復活するの!?」と思ったくらいだったので。それに、えっちゃんが動けなくなる前にレコーディングをしたり、うまいことスケジュールを組んでいたから、個人的にはほとんど休めてないんです。

柴:なんで産休の人より休もうとしているのかわからない(笑)。

リーダー:なんかちょっと休みたいなと思ったんですよ、2回とも。

柴:確かにリーダーは「椎名の産休中、なんかやろうかな」とか言ってたよね。

リーダー:ほんとやる時間なかったんですよね。前回も今回も。

――この3年くらいは、みなさんにとってどんな期間でした?

椎名:『5重丸』(2019年11月発表の前作)を出して、私はやる気満々というか。もう産んだし、「よし、いくぞ」みたいな気持ちだったんですよ。でも、コロナ禍になって、ツアーも全然まわれなくて。今回のアルバムは、そこからのスタートだったんですよね。

ずっとライブをしてないし、えっちゃんも産休に入るし、アルバムを作ることくらいしかできなかった。逆に言うと、今回はアルバムを作ることに専念できたんですけど、時間があればあったで、余計なことを言い出しちゃって、うまく進まないみたいなこともありつつでしたね(笑)。

――曲は最初に椎名さんが作って、みんなでアレンジしていくんですか?

柴:最初に椎名からデモをもらって、そこからリーダーがアリかナシかを判断するっていう流れが板づいてますね。それで「この曲やりましょう」となったら、バトルの日々が始まります。

リーダー:でも、昔よりバトルは減ったと思うんですよね。

椎名:……。

柴:(椎名を見て)すごい首かしげるじゃん(笑)。

リーダー:バトルがないとは言ってないよ。

椎名:……そうね。でも、絶対譲れないところがたまにあるんですけど、それ以外のところはけっこう委ねるようになったというか。それこそ、この曲をやるかやらないかのジャッジも、委ねちゃってるところもあって。どうしてもやりたい曲は言うんですけど、それも自分のエゴというよりは、メンバーの一人の意見として言ってて。

――役割分担は大事ですよね。

椎名:そうですね。たとえば、「この曲、本当にいけるかな?」みたいな判断をなぜか私はえっちゃんにいつも言ってて。アレンジの面で、どういう方向性で持っていくかは、完全にリーダーを信頼してて。柴ちゃんはいちばんしゃべるから、うるさいなと思って聞いてるときもあるんだけど、そのなかに核心的なものがあったりするんですよ。柴ちゃんの悪口言って申し訳ないけど。

柴:隣にいるから大丈夫(笑)。

椎名:(ドラムの)HAPPYはいちばんお客さん目線でチーナをやってるので、「これ、お客さんはどう思うの?」みたいな感じで訊いてて。

――もともとチーナのファンですしね。

椎名:なので「ここはこれ」みたいなのが、みんながあるから。もう任せきってやってます。

●長く続けていると「こんな感じだよね」になってしまう気がして怖かった

――『Hey bon』に入っている曲は、いつ作ったんですか?

リーダー:だいぶ前じゃない?

柴:レコーディング自体もけっこう前だもんね。

リーダー:“夏がすぐ終わる”なんて、去年の夏くらいにアレンジを作ってたと思う。体感としては1曲1カ月くらいかけてますね。

柴:“2020”はもっとかけてるよね。

椎名:めちゃくちゃ揉めるんですよ。

リーダー:そう? 俺は逆に、いちばん揉めなかったアルバムだったなと思って。

柴:私もいつもより揉めてないと思う。でも、レコーディング直前に「バイオリン、ここフレーズ変えて」とかはあったから、椎名のなかでアレンジ戦争が終わってなかったのかもね。

椎名:そっか、私ひとりで悩んでただけだもんな。みんなで悩んでケンカしてた気がしたけど。

柴:大枠が決まるまでは、そんなに揉めなかったと思う。だからこそ、椎名のなかで残っていたんじゃない?

椎名:いちいち「やっぱダメだ、気になる」「やっぱあれは違う」って、なんかずっとやってましたね。

――どこが納得いかなかったんですか?

椎名:長くやっていると、ストイックさがなくなってくるというか。常に成長がないといけないと思っているから、いちいち全部のことを疑うようにしてたっていう感じですかね。フレーズとかに対しても、「本当にこれでいいのか?」みたいなことを最後までやろうって決めて。

今回はちゃんとバトルさせようというか、誰かが考えてきたものに対して、自分も違う案を持っていって、「どっちがいいと思う?」みたいなことをけしかけていたんです。誰かひとりが作ってOKにしないで、「本当にいいと思ってるの?」って、何回も言ってた気がする。

リーダー:めっちゃ言ってた。

椎名:バンド結成したてとかだと、それを高揚感でやれたり、「めちゃカッコいいね!」みたいなノリでやれたりするけど、長く続けていると「こんな感じだよね」になってしまう気がして。だから、本当にみんながいいと思って演奏しているのか、疑わないと怖かったんです。

●本当に自分がいいと思っているものを出さないと申し訳ない

――椎名さんが納得する基準は、なんなんですか?

椎名:そこは本当に言葉がないです。心にグッと来るか来ないか、自分がいいと思うか思わないかっていうだけで。でも、自分のなかに「いい」ということにしちゃいたい気持ちがあって。それとの戦いなんですよ。それに、自分は全然よくないなと思っているのに、メンバーが「いいじゃん!」と言ってくることもあるので、それも「この人たち、どういうテンションで言ってるのかな?」と疑って。そのせめぎあいですね。

――難しいですね。ひとりならまだしも、バンドになると。

リーダー:逆に椎名は、ひとりじゃなくてよかったんじゃない?

椎名:ひとりだったら絶対やめてますね。チーナだからやれてるけど。

――誰かが意見をくれたほうがやりやすい。

椎名:そうですね。もし私の音楽人生で、大ヒットを出したことがあったら、もっと違ったと思うんです。その実感がないままバンドを続けていると、だんだん自信がなくなってくるじゃないですか。そうなればなるほど、自分が本当にいいと思うものを作らなければ意味がないというか。もちろんスタンスとして、売れるものを作ろうみたいなことはなかったし、メンバーがいいと思ったものを出そうということは変わってなくて。だからこそ、そこがブレちゃうと本当にやる意味がなくなってしまう。

あとはチーナって、数は少ないかもしれないけど、めちゃくちゃチーナを好きでいてくれるお客さんがいて。その人たちは完全に音楽を通して私たちのことを好きになってくれてるから、本当に自分がいいと思っているものを出さないと申し訳ないというか、絶対に裏切っちゃいけない気持ちがあって。だから、成長して「すごくよくなった」と思われないといけない気持ちと、自分自身のためにみたいな気持ちで、「本当にいいと思っているのか?」と、いちいち呪文のように言ってしまうんです。

柴:今回はそれが特に強かったよね。でも、それを前情報としてもらわないから、私は自分のことを疑っちゃって。私はいいと思って作ったけど、椎名の意図とはズレてたんだなと思って、椎名の意見をまるっと受け入れてバトルしてなかったんです。もっとバトルしたほうがよかったんだね。ごめん。

リーダー:でも、僕のギターとかには何も言わないんですよ。柴のバイオリンには、ほんの一音に対しても、めっちゃ話すタイムがあるのに。それはチーナにおいて、バイオリンをいちばん重視しているからなんだろうけど。

椎名:チーナにおいてバイオリンはウリポイントなんですけど、ネガティブポイントになる可能性もあると思ってて。

柴:それは私もわかる。

椎名:ギターは聴き慣れてる人が多いし、リーダーのバンドマンとしての感覚やセンスで乗り越えられるところがあって。でも、バイオリンはチーナの特徴なんです。特徴であるがゆえに、それがマイナスになることは絶対したくないし、「バイオリンが入っているからいい」っていうものにするには、すごく気をつけないといけない。

――ダメなパターンの曲を聴いてないからわからないですけど。

リーダー:“AN・PONG・TANG!!”の音源は、ギターもバイオリンもマジで「うるせーな」と思います(笑)。

柴:ははははは!(笑)

リーダー:これは僕も悪かったなと思うんですけど、「そこまで弾かなくていいんじゃないの?」って。

――そう言われると、逆に聴きたくなりますね(笑)。

柴:配信で聴けるので、よろしければ!

●チーナ結成前に作った“いつか”は「なんてあなたは幸せ者だったの?」と思った

――そういうこだわりが強かったこともありつつ、『Hey bon』には子供の影を感じる曲も多いですけど、どんなことを歌いたかったんですか?

椎名:やっぱりコロナ禍で閉塞しているというか、とにかく悲しいことが多かったから、悲しいことが多くても、なんて言うんだろう……。

――悲しいなかでも楽しく生きようみたいな?

椎名:そうですね。悲しい人に悲しい曲を聴かせたくないというか、自分があんまり悲しい曲を聴きたくないので。いままで自分の感情を思い切り叫ぶみたいな曲もあったんですけど、それは幸せだったからできたことだと思うんです。たとえば“いつか”は、すごい昔に作った曲なんですけど、いまだったら絶対こんなこと書かないっていう歌詞になっていて。

柴:チーナが結成されるより前だもんね。

リーダー:15〜16年前とか。

椎名:なんか、ヒネくれた感じのことをずっと言ってて。この歌詞を書いていたときは、全然自分が幸せと思っていなくて、いかにも自分が恵まれてないような感じだったんです。それが悪いわけじゃないけど、そういうのって幸せだからできたことで、いま見ると「なんてあなたは幸せ者だったの?」みたいな。今回のアルバムにあえて“いつか”を入れたのは、「なんて幸せな曲なんだろう」と思えたからなんです。

――作ったときとは違う感情で歌っているということですか?

椎名:そうですね。うまく言えないけど。

――“いつか”以外の6曲は、最近作ったものになるんですか?

椎名:そうですね。“2020”とかは、まさにコロナのことを踏まえて作ってしまったから、こんなことを言ってもどうしようもないだろうみたいな内容で(笑)。それこそメンバーが「やろう」とか「いいよ」とか言ってくれたから出したけど、ひとりだったら絶対に出してない。

柴:私は逆に、すっと寄り添うような、やさしい曲な感じがしていて。暗い世の中に、暗いことを歌っている印象はなかったな。

椎名:あと、歌詞があんまり音楽的じゃないんですよね。

リーダー:わかりやすい言葉の並べ方だなとは思うけど、そういう意味ですか?

椎名:うん、そうかもしれない。

リーダー:そこがリスナーからすると、わかりやすかったんですよね。ただ、僕も暗い曲だとは思ってないけど、アルバムには陰と陽の「陰」が絶対必要で、これはサウンドとして陰に持っていきたい曲なんです。『5重丸』だと“荷物”がそうなんですけど、あれも椎名は「本当にやるの?」みたいな感じだったのを僕が「やりたい」と言って作ったんです。

――僕、この曲の「嫌だな」のところが、アルバムのなかでいちばん陰な部分だなと思いました。

リーダー:あのボーカルをチョイスしてよかった!

――ここだけ、なんか不穏な空気が流れるんですよね。

リーダー:コード的にもそうなのかも。

椎名:そうですね。あと、いちばん思い入れがあるのは“トランプゲーム”なんです。

●空元気でもいいから、なんとか明日を迎えるための曲にしたかった

――これも「こんな世の中で」ということなんですか?

リーダー:たぶん2020年の年末くらい、コロナ絶頂期にアレンジしてますね。

椎名:やっぱり歳をとると、解決しないことがどんどん増えていくじゃないですか。若いときは「きっとなんとかなる」みたいな感じで、投げかけた問いに対して、あいまいでもいいから答えをちゃんと持てるように曲を作っていたんですけど、それができなくなってしまったというか。

この問題に対しては、何も答えが見つからないみたいな。去年いちばん思ったことは、本当に自ら命を絶つ人が多くて、自分のなかで大切な存在の人にもあったんです。そういうことに関しては、どうしても答えが見つからなくて。かといって、そこを嘆くことにも意味を見いだせなくて。

でも、そのことが自分の頭のなかを占めてしまっているから、なんとか自分で何かしら形にしないといけないと思って作った曲なんです。だから、明るい曲なんですけど、何も解決してないんですよね。今回のアルバムは、そういう曲が多いかも知れない。間違いでもいいから、こうだよみたいな答えを出せなくなっちゃって。でも、なんとかやっていくしかないというところに、いつも行き着いて。

――歳を取れば取るほど、断言できないことって増えてきますよね。

椎名:そうですね。だけど、そこに向き合わないといけないし。でも、作って自分で思ったのが、空元気でもいいから、なんとか明日を迎えるための曲にしたいというか。

――普通に聴いただけだと、ハッピーな曲調ですよね。

椎名:はい。全然それでいいんです。

――その裏側には、いま言ってたような感情が渦巻いていた。

椎名:そうですね。本当に生活というか、いろんな自分のことにまつわる曲が多いのかもしれない。子供のこともありますし。

●子供は自分が不正解と思っていることも、正解にしてくれる瞬間がある

――それこそ“たたたた”は、完全に子供について歌われた曲ですよね。

柴:椎名の意図は全然知らずに話すんですけど、絵本を読んでるみたいな気持ちになる曲で。児童書を思い出すというか、すごい楽しい。

椎名:これもコロナの影響というか、ずっと家にいたので、必然的に子供ともずっと一緒にいて。そういう意味では幸せな時間だったんです。子供がどんどん成長していく時期を見ることができたから。救われたって言ったら子供に失礼なんですけど、単純に子供のことが大好きみたいな感じで暮らしているなかで作った曲なんですよね。

妊娠しているときに「子供が産まれたら子供の曲とか、また違った椎名さんの面が見れますね」みたいなことをみんな言ってくれて、そのときは「いや、絶対ないし」と思っていたんです(笑)。でも、本当に子供が産まれたら、すっかり子供にまつわる歌詞を書くようになって。ちょっと悔しいです(笑)。

――別に悔しがるところじゃないですけど(笑)。

椎名:本当にありきたりな言葉ですけど、子供から学ぶというか、この曲は本当に子供のことを描写したような感じになってますね。「そこの道を通っちゃうんだ!?」とか。

――「畑の真ん中を通る」って、そういうことだったんですね(笑)。

椎名:すべてをOKにしてくれるみたいな感じがあって。自分は自分で、お金のこととか、いろいろ暗いこともいっぱいあるんだけど、子供はただただ毎日を成長するために生きてて、私と全然違うんですよ。その生きる感じ、生(せい)そのものを書きたかったんです。

あと、子供にとっては正解なことを、大人は不正解と言ったりするけど、全然そんなことはないと思うんです。むしろ自分が不正解と思っていることも、正解にしてくれる瞬間がけっこうある。それにすごい救われるというか、ほんと希望の曲ですね。

●産まれた日の夜に、なんの準備もなく武道館に立つような感覚が襲ってきた

――“ようこそここへ”も子供のことなんですか?

椎名:これは産まれた日の夜に、なんの準備もしてないのに武道館に立つみたいな不安が襲ってきたんです。「え、どうすんの?どうすんの?」みたいな。その感覚がすごかったので、日記みたいに残しておこうと思って、産まれたばかりで家にこもっていたときに、ちょこちょこ作っていった曲です。でも、リーダーは「これやらなくてよくない?」って、ずっと言ってたよね。

リーダー:そこまで強くは言ってないよ。僕が引っかかっていたのは、「これフィルでやるの?」っていうところだったんです(今作では“朝”と“ようこそここへ”の2曲は15人編成のチーナフィルハーモニックオーケストラとして制作)。

でも、僕はバンドにおいてメッセージとかに携わっている人じゃないので、この曲を子供の曲を歌った感じにしたくなかったっていうのは正直あって。登場人物が自分目線で誰かに向かって歌っている歌詞なので、その「誰か」は人によって違う見え方をしてほしいなって。

――椎名さんに子供がいるって知らなかったら、違う聴こえ方になるかもしれないですしね。

椎名:そうですね。私がどう思って作ったかは、たいしたことではなくて。リーダーが言う通り、子供の曲っていうよりは、なんの準備もなく武道館に立つみたいなこと。それは誰にでも絶対にあって。しかも、そういう状況って、まわりからは「よかったね、新しいこと始めて楽しいね」みたいな、幸せとして見られたりするんだけど、本人は全然そうではなかったりする。そういうことが歌いたかったんです。

そもそも子供が産まれたときに、ずっと桜田淳子さんの“わたしの青い鳥”が頭のなかに流れていたから、(歌い出しを)「ようこそここへ」から始めたんですけど、作ってみたらライブの1曲目とかで歌ったらすごいハッピーだなと思って。だから自分の作り始めたきっかけはどうでもよくて、みんながこれを聴いてハッピーになってくれたら楽しいなと思ってます。

柴:椎名はメンバーにも曲ができたいきさつとかを言わないんですよ。だから、自由に曲を受け取って、解釈して、演奏できるんです。椎名もお客さんから「この曲ナニナニのことですよね?」っていうのに対して、「へー」って言ってるし(笑)。

でも、こういう気持ちで受け取れっていうのをしないことで、聴く人の楽しみが倍増すると思ってて。私も“トランプゲーム”ができたときに「悲しい曲に聴こえた」って言ったら、椎名が「そんなに楽しいって感じじゃない」って、それしか言われてなかったんですけど、最近“トランプゲーム”がすごい明るい曲に聴こえるようになってきて。そういう受け取り方の変化も、椎名から知らされてなかったからこそ生まれたと思うので、このアルバムもみんなのなかでどう受け止められるのか、すごい楽しみなんです。

●『シナぷしゅ』の曲は子供たちにどういう曲を聴いてほしいかだけ考えて作った

――子供という部分では、1月から『シナぷしゅ』(テレビ東京の赤ちゃん向け番組)でチーナの曲が流れ始めましたよね。

椎名:いままでも「チーナは子供向けの曲をやったら絶対に合う」みたいなことを言われることが多かったんですけど、「そんなにかわいい感じの曲作ってないし」と思ってて、なんか尖ってたんです(笑)。それが自分に子供が産まれてから、全然変わっちゃったというか。子供向けの番組をすごく見るようになって、こんなにクリエイティブな人たちが真剣に勝負してるんだと思って。もちろん子供も笑って楽しんでいるけど、大人も見てて本当に楽しくて。それで「やりたい!」ってなったんですよね。

柴:いっぱい新曲作ってたよね。

椎名:何曲も何曲も『シナぷしゅ』用の曲を作って。絶対に納得いくものを作るじゃないけど。

――それは子供にいい影響を与えるようにという意味での「納得いく」なんですか?

椎名:『シナぷしゅ』って、かなり個性的な曲がいっぱいあるんですけど、そこを変に意識しないで、子供たちにどういう曲を聴いてほしいかっていうところだけで作ったというか。私は60%くらいはお母さんとして作ってたかな。この曲を作っていたときは、うちの子は2歳でまだしゃべることができなくて。それくらいの子でも踊ったり歌ったりで参加できたら楽しいなっていうのを意識して作りました。実際、どうですか、チーナっぽいですか?

――僕は去年、『シナぷしゅ』のプロデューサーにインタビューさせてもらったんですけど、そのときに「いろんな音を聞かせたい」と言ってたんです。この曲はバイオリンが主張する場面とか、楽器の多彩さも出ていて、ピッタリだなと思いました。

柴:トランペットも生で入れて、めっちゃいい感じなんですよ。けっこう仕掛けが多くて、最後のコーラスとかも、おもしろい感じになってて。「仕掛けってなんだろう?」っていうことをかなり考えて作りましたね。

●なんとか平凡な日常生活を続けようとしていた

――アルバムの話に戻しますけど、なんで『Hey bon』というタイトルになったんですか?

椎名:「いま、全然平凡じゃないな」と思ったんですよね。

リーダー:僕、個人的には逆だと思ってて。バンドが生活になってきた感もあるし、そういう意味も含めて「平凡だな」と思って、しっくりきたんです。

柴:私もそっちだと思ってた。

椎名:コロナ禍になったときに、チーナはできるだけスタジオに入ったりして、なんとか平凡な日常生活を続けようとしていたんですよ。でも、世の中は全然平凡じゃないし、そもそも平凡なんてないなと思ったんです。

いままでは自分のことを平凡だと思ってて、平凡っていう言葉が嫌いだったんですけど、コロナで平凡なんてないんだなっていうことがわかったので、『Hey bon』にしたんです。あとは生活のなかで作った曲が多かったので、「平凡を一生懸命がんばってやってたな」という意味で『Hey bon』です。

リーダー:勝手な解釈としては、「Hey」は響く人への呼びかけだと思ってますね。

――リスナー目線で掘り下げると、平凡な生活をしている人には絶対わかる気持ちが入っているなと思って。わざわざ誰かに話しはしないけど、心のなかで思っていることみたいな。椎名さんとしては、どういう気持ちで歌詞を書いているんですか?

椎名:全員に届けとは思ってないんですけど、伝えたい気持ちはあって。どこかで「わかってくれる人はわかってくれるよな」と思って作ってます。独り言を言うみたいな感じかもしれない。

――僕はチーナのライブを見て、お客さんも含めて、すごく家族感があるなと思っていたんですけど、それは椎名さんの作る歌が、世の中に何かを訴えたいとかよりも、家族に「ねえ、聞いてよ」みたいな感じだからなのかなって、今回のアルバムを聴きながら勝手に分析してました。

椎名:あー。それはちょっとあるかもしれないですね。よく、他のバンドさんとかが「ひとりでも楽しめますから」みたいな感じで告知しているのを見て、「チーナのお客さんは、ほとんどひとりで来てるんだけど」と思っていたんです。みんなでイエー!って聴くっていうよりは、1対1で話す感覚で作っているところがあるのかもなって、いまの話を聞いて思いました。

●お母さんはバンドやって歌ってる人と思われたくなった

――リーダーと柴さんから見て、この3年とかで椎名さんが変わった感じはありますか?

リーダー:うーん、そんなに変わってはいないですけど、ストイックになった感じはします。

椎名:あー、そうですね。自分で言っちゃった(笑)。

柴:リハに遅刻しなくなったくらいかな(笑)。たぶん子供を預ける時間とかがあるから。あと、今回のアルバムを作るときは、けっこうピリピリしていた印象があるんですけど、それはこの3年間で変化したというよりは、バンド活動のなかでの自然な変化というか。誰でも時と共に変わっていくことってあると思うんですけど、それと同じことかなって。

椎名:ストイックになったのは、子供の影響はあるかもしれないですね。やっぱり、とにかく時間がないから。子供を置いて、いろんな人に迷惑をかけてバンドをやって、しかもリハしたところで時給も発生しないし、なんならスタジオ代を払っているし。それをあえて子供を置いてやってくるっていうことへの覚悟が前よりもついたから。

あと、これは自分のエゴなんですけど、いつか子供に「うちのお母さんって、こうやってライブして歌ったりしてるんだ」と思われたいなと思ったんですよね。いままで自分の親とかには、ほとんどライブにも来てもらってなくて。あんまりバンドやってる子と思われたくないというか、親にはクラシックの音大出た娘と思っててほしいみたいなところがあったんです。だけど子供が産まれて、子供には恥ずかしくない姿を見せたいと思うようになっちゃって。だからこそ、中途半端な感じにしたくないなって。

リーダー:今日のインタビュー、全部子供に育てられてる話じゃん(笑)。

椎名:本当に育てられてますね。遅刻もしなくなったし(笑)。


チーナ
当初はソロとして活動していた椎名杏子と、そのサポートメンバーだった音大同級生の柴由佳子、林絵里らによって2007年に結成。その後、レコーディングでエンジニアを務めていたリーダーもサポートを経て加入。2014年には公募によりHAPPYが加入して現在の体制になる。これまでに4枚のミニアルバム、2枚のフルアルバムをリリースし、カナダや台湾でもツアーを実施。2015年からは15人編成のチーナフィルハーモニックオーケストラとしても活動開始。バンド名は「チームしいな」を略したことが由来になっている。
http://chiina.net/


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