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こんな実写化ならなんどでも観たい。『さんかく窓の外側は夜』レビュー

大学生のころ付き合っていた彼女がヤマシタトモコのファンだった。

当時は短編集のBLコミックス(ちゃんと男×男の絡みがあるやつ)が数冊出ている程度で、特にBLに抵抗がなかった僕はその内の一冊を手に取ることになる。卓越した言語センスに一瞬で魅了された僕はヤマシタ教の門をくぐるのであった。

それからというもの、彼女と別れてからもBL作品、青年誌の連載問わずすべて追いかけてきた。今冬に実写映画化された『さんかく窓の外側は夜』は、その中でも傑作の部類だと思う。

キャストを見れば錚々たる面々。
冷川さんが岡田将生!
エリカちゃんが平出友理奈!
三角くんが山田ジャスティス!?(これは分かる人だけ分かってほしい)

僕にとっては原作的にもキャスト的にも二度おいしい素材で、意気揚々と映画館に足を運びましたとさ。

結局面白かった?

改変点は賛否両論ありそうと思いつつも、映像だからこそ楽しめた部分が大きく勝った。1時間45分という短尺に詰め込んだにもかかわらず、しっかりとまとまったストーリーに仕上がっている。

原作を知っている人には是非観てほしいし、知らない人にもおすすめできる良作となっているので、本作の魅力をお伝えできればなと思う。

あらすじ

書店で働く三角康介(志尊淳)は、幼い頃から幽霊が視える特異体質に悩まされていた。
ある日、書店に除霊師・冷川理人(岡田将生)が現れる。「僕といれば怖くなくなりますよ」の一言で、三角は冷川と共に除霊作業の仕事をすることに。
そんな中、二人は刑事・半澤(滝藤賢一)から、一年前に起きた未解決殺人事件の捜査協力を持ちかけられる。調査を進める冷川と三角は、やがて自殺した犯人の霊と出会う。冷川が三角に触れると、犯行時の状況がフラッシュバックのように浮かび上がり、恨みがましい犯人の声が響く――

「ヒ ウ ラ エ リ カ に . . . . だ ま さ れ た . . . .」

犯人の霊を通して視た情報を元に、真相へと近づいていくふたりの前に現れたのは、呪いを操る女子高生・非浦英莉可(平手友梨奈)。

〈ヒウラエリカ〉とは何者なのか? 連続殺人事件との関係は――?
死者からのメッセージの謎を解き明かそうとする二人は、やがて自身の運命をも左右する、驚愕の真実にたどり着く…。

映画『さんかく窓の外側は夜』公式サイトより引用

何と言ってもキャストが最高にイイ

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まず目玉となるのは冷川に扮する岡田将生。半澤が言うところの「無駄に顔がいい奴」に真実味を持たせるにはこれ以上の配役はなかったと言っていい。何を隠そう僕調べで日本人最強の顔面を持つ男です。(岡田准一といいこの苗字の奴は神の祝福でも与えられているのか)

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三角くんにしては顔が濃いめの志尊淳。少し不安要素だったが、意外に似合う眼鏡と持ち前の演技力で心配を吹き飛ばしてくれた。「ここでガチ泣きできるの!?」と思わせてきたとあるシーンは彼の役者性能を裏付けるもので、是非劇場でご覧いただきたい。

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滝藤賢一演じる刑事の半澤さんは、脇役ながら物語のキーマンとなる人物。心霊モノなのにオバケを信じないから一切の影響を受けないとかいうぶっ壊れ設定、それと相まった抜群の存在感で本作通しての雰囲気づくりに最も貢献している。最高。

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ダークホースとなったのが非浦英莉可役の平出友梨奈。僕が岡田将生ばっかり気を取られていただけで欅坂ファンの人にとってはむしろメインだったかもしれない。病的に細い体躯と他者を寄せ付けないバリアを持った歪んだ美しさは、実写版『非浦英莉可』としてこれ以上ないキャスティングだったと思える。
原作のエリカちゃんは境遇を割り切った明るさがあるからちょっと違う人になってしまうのだけど、映画での役割としてはここが落としどころでしょう。

もう少し脇の話をすると、北川景子が登場2分で即死したの最高に面白かった。

分かりやすくほどほどに怖いストーリー

これに関してはおおむね前述の通り。原作完結前の制作であることと、短尺に収めざるを得ない映画と考えれば申し分ない出来だったと思う。

ホラーもの特有の理解しがたい表現もほぼなく、リアルな造形でドキっとさせながらも怖すぎることなく良い意味でマイルドに仕上げてきている。原作に対して改変はあるものの、むしろ貯金箱や宗教団体など「そういう形にまとめてきたか!」と感心する場面のほうが多かったと言える。

一応少し残念な部分もあったので、2点だけ言及しておく。

BL要素の排除

本作の取っ掛かりとなるバディ共同の除霊作業がキモチイイというホモ要素が丸々除かれてしまったのは寂しかった点。しかしながら除霊シーンの二人の密着度や微笑みあう場面など、ちゃんとヒーロー&ヒロインしてるなぁという感覚は存分に持てた。冷川が三角を背後から支えるとき、髪の毛に鼻が密着している画は必見である。

エリカの関係性が弱い

原作では細かい絡みで関係性を構築するエリカだが、映画では重要シーンでしか絡みがないため「いつの間にそんなに信頼するようになったん??」となってしまう気がした。多くの人が不満点を挙げるとすれば、そういった点を含めてエリカの露出が少ない(エッチな意味ではない)という部分になるのではないだろうか。

ニュアンスを感じる描写

原作者であるヤマシタトモコは、キャラクターの言動に「こういう理由があってそうしたんだな」というニュアンスを持たせることに長けた漫画家だ。

何より驚いたのは映画で失われるであろうと思っていたその要素が劇中ところどころに垣間見えたことだ。すべて語ってはキリがないので一例だけ紹介したい。

主人公である三角は眼鏡にグラスコードを付けた風貌が特徴となったキャラクターだ。誰よりも霊をハッキリと視ることができる彼は誰よりも霊を恐れ、裸眼でぼやけた世界で唯一ハッキリと映る霊を判別し避けられるように度々眼鏡を外す。グラスコードはいつでも眼鏡の着脱をできるようにといった、彼の恐怖心の表れとして描かれる。

しかし終盤、事件の解決に向かう場面で三角はグラスコードごと眼鏡を懐に仕舞う。このとき彼は恐れていたものに立ち向かう決意を行動に表し、一つの文脈を作ったのだろう。

このエモさというのだろうか、語るに尽くせない部分なので映像を観て体感してもらえればと思う。

まとめ

少し冗長になってしまったが、作品の魅力が少しでも伝われば幸いである。

また漫画版も連載では既に完結しており、最終10巻が近々発売予定となっている。この記事を読んで興味を持てたなら、多くの人に読んでもらいたい。

ヤマシタ教はいつでもあなたの入信を待っています。


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