天使か悪魔か

ときどきふっと疑問がわき上がる。
たいてい料理をしていたり、洗いものをしていたり、頭が空っぽになっているときだ。
「あの人は天使なんだろうか、それとも悪魔なんだろうか」

私は喧嘩上等だし、いじめっ子を(物理的にも精神的にも)叩くのが好きだし、仕返しは倍にして返すし、いわゆる弱者には当てはまらない。
不登校気味だったし、人と交わらないし、でもいじめられたことはない。だからといって人気者でもなかったが。
一見、肉食っぽいが、おそらく私は草食動物系だ。

子どもの頃から、いわゆる変質者によく狙われた。
下半身むき出しで「触ってくれたらお金あげる」とか、正面から歩きながら幅寄せしてきて胸をつかまれるとか、ずっとつけられて走っても追いかけられ、スーパーのバックヤードから逃してもらうとか。
そういう経験をたくさんして、遠目で見ただけで「あいつ、やばいから見つからないように回ろう」と判断できるようになった。
ちなみに、20代前半は新宿・池袋でAVや風俗店のスカウトによくあった。けど、その人たちには危険を感じなかった。

草食動物系だから、敏感なんだと思う。生きるための生存本能。
狩る側ではなく狩られる側ならではの嗅覚。

一見、無害な人がいる。無害どころか、よい人間にしか見えなかったりする。あるいは、無垢かつ魅力的。
誰もが「あの人はいい人」と言うけれど、ようよう見ているといい人と言われるであろうことだけをしている。選択した上で、いい人パターンを披露しているのだ。
一方、ちょっと人間について知識があると悪人のように見える人が、ずっと観察しているうちに悪人ではないことに気づくこともある。悪意を持って行動しているのではなく、ただ鈍感だったり、気遣いを持ち合わせてないだけだったり。

悪魔だと思っていたら普通の人。天使かと思っていたら悪魔。
そんなことはよくある話。
だけど。

遠巻きにしている分にはよくある話でおしまい。
いや、そもそも遠巻きに見物しているだけなら、ふと「ああ、悪魔だったんだ」「なんだ、普通の人だったか」と思うだけ。
「天使なんだろうか、悪魔なんだろうか」という疑問がわき上がるのは、自分のテリトリー内にいる人に対して。
草食動物のアラートがかすかに鳴る。

石橋を叩いて叩いて叩き壊すくらい慎重派。
アラートが鳴るより前に、気配に気づいて姿をくらます。
本当にアラートだったかわからない。でも、危険は冒さない。

そんな私のアラートが鳴る。
理由はない。自分の感覚だけ。証拠はない。ふとした思いつき。
考えすぎなことがよくある。
大騒ぎして大したことなかったことはしょっちゅう。

それでも、アラートは鳴る。
そして私の感覚は間違いじゃない。
「天使なんだろうか、悪魔なんだろうか」は「天使であって欲しい」、「間違いであって欲しい」という思いの現れ。
がっかりしたくない。その人にも。気づくのが遅れた自分にも。

でも草食動物の勘に間違いはない。さびしいことに。
気づかずに食われてしまうのもありなのに。
気づかないでいられたら幸せなのに気づいてしまう。
なぜ気づくんだろう。

今日も私は警戒心を緩めない。
自分を守るために。


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