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挑戦

 もうずっとライティングの仕事はしていない。
 正確には、アルバイト先の編集プロダクションで取材して記事を書くことはしている。でもフリーランスとしてライティングや校正の案件を受注していない。自分の身分がどうであれ、書くことには違いないのだが、アルバイト先が受注した案件で書くのは作業の一環で、「書く」というのとは心持ちが異なる。
 だからといって時給計算のものには責任感がないというわけではなく、お金をいただく以上は自分の持てるものを注ぎ込む。ただし、他の作業との兼ね合いもあるので、それだけに集中して何時間でもずっと取り組むことはできない。
 就業時間内でしか書くことはできず、細切れの集中力でできることをする感じ。フリーランスであれば、可能な限り時間も何もかも注ぎ込んで取り組むことができるが。

 編集プロダクションのアルバイトをしながら、フリーランスのように時間を忘れて朝まで書き続けることは難しい。私が甘いだけだけど。
 それでも書きたい、書くことで報酬を得られるようになりたいとあがく決意を表明して1か月。あまりに何もしていない自分に嫌気がさした頃、突然メールが届いた。
 「福井のPin!ワークショップ第1回開催」のお知らせ。たしか3回のWSで福井の魅力的な人(と場所?)を紹介する冊子をつくるというのを見かけて応募した覚えがある。連絡がなかったので選考に落ちたのだとばかり思っていた。
 なのに、急に呼ばれるとは。
 参加すると、フリーランスのライターとしての自分に負荷がかかる。そこそこ無理をしないと書けないだろう。締切の前は2〜3日、睡眠3時間コース。なんなら寝られないかもしれない。
 それでも「書く」ことをあきらめないため、自分の決意を忘れないため、参加することにした。

 実は、この企画に応募したときから狙っていたことがある。それはある人の記事を書くこと。
 その人とは長い付き合いではない。でもたぶん、私はその人の言葉をものすごくたくさん聞いている。同じくらいの付き合いの人たち、あるいは同じ立場の人たちの中で、私が話した時間は上位に入ると思う。
 少なくとも、私がこの2年半で接した人のうち2番目にたくさん言葉を交わしている。しかも現在進行形だから、遠からず1番目になる。おそらく。付き合いが途絶えなければ。

 その人は気分屋さんで、ある日は温かい言葉を発し、ある日は皮肉たっぷり、ある日は怖くなるような言葉で語る。だから本当は一部の人たちに疎まれるのも当然のいやな奴なのかもしれない。
 でもその言葉の裏には愛や優しさ、思いやりがある。それはたくさんたくさん言葉を交わして気づいたこと。
 そもそも厳しいことを言って考えさせたり、どこまでも問うたり、詰めたりするのは愛がある証拠。時間は有限であり、時間を大切にするその人が自分の時間を削ってかかわろうとするのは愛以外の何物でもない。
 だけど一部の人たちには言葉が伝わらない。耳をふさいで言葉を受け取ろうとしない。

 私は、人に震動を与えるようなものを書きたい。変化を促すなど、そんな大それたことは望まない。でも読者にも取材対象にも震わすくらいの影響は与えたい。
 私が書いたものを読んで知らないことを知るとか。書かれている人に会いたくなるとか。興味を持つとか。なにか感じたくらいでもいい。小さな行動を生み出すようなものを書けたら最高。
 私が書くことで、ふさいだ耳のすき間に言葉を届けたい。まだその人に会ったことがない人は会いに行ってほしい。知っている人にはもっと知ってもらって、もっといろんな話をしてもらいたい。きっとその人と話すと得られるものがあるから。
 そして、私が取材することでその人自身が言語化できていなかった、あるいは気づいていなかったものが形になれば最高も最高。

「毎回同じことはしたくない。挑戦せずに、毎回ある程度の表現しかできないような人生にはしたくない。
 クライアントワークにおいてクライアントを満足させるのは当たり前。それは最低限のこと。(プロなら)クライアントを驚かせないといけない」

 一番最近聞いた、フリーランス・タナカアキにとっての金言。
 そもそもはその人が自分のことを語った言葉なのだが、言われたとき私との格の違い、覚悟の違いにめまいがした。そんな気持ちで仕事をしてきたとは。厳しいことを言うのも当然だ。
 だからこそ、書きたい。クライアントも(正確にはクライアントじゃないけれども)取材対象のその人も驚くようなものを書き上げたい。それを私の名前を付けて公にし、いろんな人に読んでもらいたい。そして、読んだ人とその人、かかわった人たちをわずかでいいから震わせたい。

 まずはその人が取材対象に選ばれること、私が取材者に選ばれること、そして取材を受けてもらうこと、その人の取材担当が私になること。実現するにはいくつもの関門がある。
 運と実力と熱意で、書くところまで到達したい。そこから私の挑戦が始まる。あがいてあがいて、あがきまくりたい。




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