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フォーティサーティ

かつて私は硬式テニスの市民プレイヤーだった。
毎晩のように友人と練習し、春から秋には毎週末試合に出場。4万円ほどのラケットをへたったからと毎年のように買い替え、ハードコート用オムニコート用とシューズは2足常備し、練習用試合用とウェアもたくさん持っていた。

プレイヤーだけでなく、協会のスタッフとして、また所属しているサークルを代表して大会の運営にも携わっていた。早朝、会場に入り、選手の受付をし、試合開始前に選手にボールとスコアシートを渡し、終了後にはそれを受け取り、結果を対戦表に書き込む。
大会によっては夜まで、すべての試合が終わるまでそこにいる。誰もいなくなった会場で、決勝を戦い終わった選手たちに拍手をおくる。そして、早朝に到着したときと同じ状態に片付け、家に帰る。

テニスは相手がいないと練習もできない。
バスケットボールだったら、ひとりでシュート練習やドリブル、フェイクの練習ができる。
でもテニスは相手を自分の思い通りに動かして勝つ競技。今、こっちにこんな球を打ったら相手はこう返してきて、それをあっちへあんな球で打って仕留める。常に相手ありきの動きであり、頭脳戦。

テニスといえば錦織圭選手。
「世界4大大会で優勝する」「世界ランキング1位になる」、本人も口にし、周囲も期待した。でも体が他のトップ選手よりひと回りふた回り小さいので、どうしても威力のある球を受け、体にダメージを受ける。度重なる怪我に苦しみ、未だ4大大会で優勝することも、世界ナンバーワンになることも叶っていない。
大坂なおみ選手は4大大会で優勝し、世界ランキング1位にもなった。
それでも負けるたびに非難を浴びる。
それ以外にも、世界ランキング100位から150位くらいで活躍する日本人選手は男女とも複数いる。
ときどきランキング上位選手を破って記事なるが、その次で負けると「やっぱりまだまだだ」と言われてしまう。

でも、よく考えて。
錦織選手は世界4位までいった。世界で4番目。
他の選手にしても世界で100番目。日本でじゃない、世界で。
日本ランキング20位30位でもすごいこと。日本のテニス人口推計439万人(2016年度 テニス環境等実態調査 報告書 - 日本テニス協会)のなかの20番目30番目。「大したことない」って言う人、あなたは一体何位ですか?

テニスの世界は厳しい。
世界で100位くらいであれば選手として生計が立つ。日本だと20位くらいであればぎりぎり賞金で生活できるかもしれない。
439万人中50位60位だと、賞金だけでは足りず、コーチ業をして活動費を稼がなくてはならない。

世界を舞台に戦う選手たちは、日々飛行機に乗り、ホテルに宿泊する。勝つためにはコーチを雇い、トレーナーなどチームを組んだりもする。
下部大会で1回戦負けをすれば賞金は入るか入らないか、すぐに次の大会会場へ移動しなくてはならない。

今、大会がキャンセルになり、多くのランキング下位の選手たちがテニスを続けられなくなる状況にある。
上位選手たちは賞金は高額で、ラケットやウェアの契約料も億。稼ぎに合わせてリッチな暮らしをしていたとしても、いつ怪我をして引退してもいいようにちゃんと貯金してあるはず。この状況でも再開を待つ余裕がある。
だが、下位の選手たちはぎりぎりの生活を送っているはず。プロスポーツ選手はお金持ちで余裕があるという定義にあてはまるのは、トップ選手だけ。

テニスの魅力のひとつに、大きな大会でランキング200位300位の選手がトップ選手に勝ってしまう番狂わせがある。
テニスは相手ありきのスポーツ、対戦したことも聞いたこともない選手と初めて対戦すると、トップ選手でも戸惑う。失うもののない下位の選手は、大きなチャンスをものにしようと全力以上を出してくる。結果、トップ選手は翻弄され、自滅することがある。

私が大好きだったマラト・サフィン選手。世界ランキング1位になったこともあり、4大大会で優勝したこともある。(2009年引退)
だが、けっこう100位台の選手に負けた。ころっと、あっさり負ける。
だから全豪オープン1回戦でも気が抜けない。見逃して負けてしまうと、しばらく姿を見れなくなってしまうから。
彼の試合は見られる限り、初戦から見ていた。

そして、今トップの選手たちも、元は100位台だったり、それ以下から勝ち上がってきた。
未来の逸材が、今はまだ下部大会に出場しているかもしれない。

個人競技であり、どうにもできないことだけど、どうにかなって欲しいと願う。観客を楽しませてくれる大番狂わせを演じてくれるかもしれない選手、3年後の世界ナンバーワンになるかもしれない選手、ライトを浴びることはなくても必死で生き抜いてきた選手、みんな、どうか…。

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