見出し画像

「言った通りに直したじゃん!」について思うこと

この件、かなり燃えてますね。
(もう沈下しました?)

これについて書くと、
自身も類焼しそうな気もするんで怖いんですが、
なんかほっておくのも心がざわつくので、
自分の経験から思うところを
ちょっと書いてみますね。

例のごとく、ダラダラと書いているので
まとまりのないところはご容赦を。
(多分、多くの編集者は
いい悪いは別にして、ままある話なので
あんまり気にせずスルーしているかと思いますが…)

※あと、まだ見てない人はいい映画なんで、
「ハケンアニメ」を観て欲しいなと思います。
劇中の監督と声優さんのやり取りを参考にしていただけると
より言わんとしてる感じが分かるかなあと。

そもそもよくある事なのか?

と言うと、えーと、ままあります(と思います)。
漫画編集をある程度やっていると、
この「言った通りに直してきてくれたけど面白くなっていない」
という経験したことある人多いんではないかと思います。

ただこの
「言った通りに直す」の
「言った通り」が双方できちんと握れていない、
ディスコミュニケーションになってる問題が
かなりあると思うんですよ。
(なのでこれを即パワハラと断じるのは
早計過ぎるかなーと)

これはなかなかに難しい問題でTwitterで、
短い言葉で説明しようとすると、
言葉足らずというか、細かいニュアンスが伝わらず、
炎上するのもちょっと分かるような気が
しないでもありません。

そもそもが内輪の会話に近い側面もあり、
特に漫画家でもなく、
編集者でもない人にはこのやりとりの感じが
具体的な場面として、
上手くわかんないんじゃないかなーという気も。
否定も肯定も含めて。(なので「ハケンアニメ」を)

相手が持ち込みか新人か、
それとも付き合いの長いベテランとかだけでも違うし、
本当にいろんな場面が想定されるので、
いきなり「パワハラだ!」というのは
ちょっと待ってね。

形にできないニュアンス


社会人の方はより分かるかと思うんですが、
会社の書類で「ここをこう直して」と言われたら、
ほぼ紛れなく直せますよね、文章の場合は。
(それでも上司としては、
60点の書類を90点になるように直して欲しかったのが、
80点くらいで、あとは上司が調整なんてこともあるかと)

でも漫画のネームをこう直してというのは、
それとは決定的に違う部分があります。

漫画は絵、それもストーリーがあって、
演出が入った絵なので、
書類の文言を直すように、
いつも双方が具体的に直しのイメージを
がっちりと共有できるわけではありません。
(しつこいですが「ハケンアニメ」を観てください!)

あくまで私の経験からの感想ですが、
相手の方が持ち込みの方や経験の浅い新人さんだと
編集が説明の仕方に気を配らないと、
齟齬が起きやすいと感じます。
共通言語がまだ少ないというせいもあります。

もちろん、編集者はそこのところを理解しつつ
話を進める必要があるのは当然で、
雑な仕事の言い訳にはなりません。
(聞いたところでは、
ちょっと話が乱暴かなという人も
いるようですが…)

まあ、ぶっちゃけて言ってしまえば
「面白くない」
ということをいかに伝えるか、
というのが大抵の場合は、
要点になっているかと思うんですが、
相手の方が、持ち込み・新人のレベルだと、
それを過不足なく的確に伝えるというのは、
ベテランの編集でもアドバイスに難儀する場面は
多々ありますです。
(本当に難しいんですよ、これ。
ただ感想言うわけじゃないんで。
相手を傷つけないように言葉を選ぶとかもあるし…)

アドバイスは何度やっても難度が高い

例えばですね、120キロのストレートしか投げられない
高校生のピッチャーに「どうすればプロになれますか?」と聞かれて
「ムリムリ」とバサッと切って捨てられる人はいいんですよ。

でも少しでもアドバイスを…と思ったら
その人のフォームや練習方法から食事まで、
その他現時点で考えられる様々な問題点を指摘しないと、
彼、彼女を少しでも上へ導く本当の意味でのアドバイスには
ならないと思うんですよね。

問題とされた発言の擁護と取られても
仕方ありませんが、あえて言うと、
締め切りや雑務(編集者の雑務は意外と多い)で
チョー忙しい編集者があらゆる場面で
あらゆるレベルの人に
それを十分にしようと思ったら、
かなり大変だろうなあというのも
同業者として想像できるんですよね。
(もちろんそれをきっちりやっている方もいます)

漫画のネームを読んで、
直しをその場で提案(命令じゃなくて)するのは、
ただ感想を言うのとは格段に違う責任と覚悟と、
多分、編集者でない方には想像できない難しさを
伴う作業だと思います。
少なくとも私はそう思っています。

もちろん、だからこそ、
それをするならきちんとやらねばならない、
スキルを磨かなければいけないというのは、
職業編集者として当然の話です。
(が、確かに上手くない人もいますよね…
自分はおいといて)

「エンタメ性がないね」

ちょっと話はずれるかもですが、
ある持ち込みの方から

「君のマンガにはエンタメ性がないと
言われたんですが…」

という相談を受けたことがありました。
これはきついですよね。

エンタメ性がないとは何ぞや…。

これもっと具体的に言ってあげないと
描いてる本人には当然わからないし、
んじゃあ具体的にどうすればエンタメ性が出るのかという
対案の一つ二つは出してあげないと、
編集者としては失格と言われても仕方ないです。

当たった編集者が悪かったと思うしかない。
こういう場合、私は3人の方に見てもらうといいよと
アドバイスします。
一人の人にだけ言われた
「なんか違うな~」
というのはピンと来なきゃ無視してもいい、
でも二人以上に言われたらきちんと考える、
3人に言われたら、もうそれは
絶対真剣に考えたほうがいいと。

まあ大体、
「他でも同じこと言われました(テヘ)」
というのが多いんですが。

これは別に責任転嫁してるわけじゃないんですよ。
編集者も好き嫌い、得手不得手が当然あって
私だって客観的な視点より、自分の好き嫌いに左右されて
物を言ってしまっている場面が当然あると思うので、
納得がいかなかったり、よくわからなかったら、
複数の意見を参考にするといいよという
普通のアドバイス、
ディスコミュニケーションを防ぐ
一つの方法だと思ってます。

「絶対俺が正しい!」
というタイプの編集もいると思いますが、
これはすごくいい編集か、
ダメな編集のどちらかという可能性が高いです。
(個人の経験ですが)

当然、すごくいい編集は希少物件なので、
そいつがダメな編集という可能性の方がより
高いです。
なので「こりゃいかん」と思ったら、
即ダッシュでサヨナラしてください、ハイ。

でもいい編集とは何ぞやという定義も
難しいですけどね。

ネームの直しも色々


ネームの直しは、

「作家さんを主体としながら、
ちょっと相談、お手伝いしつつ、
一緒に粘土をこねている感じ」

というのが私の個人的なイメージです。
(作家さんには全否定されるかもですが…)

私は「こう直してくれ!」と
ネームを直していただくことはあまりなく、
「こうしたらもっと良くなると思うんですが…」
という対案の形で出すようにしています。
(未熟な時は違ったかも…)

そうすることで、作家さんも
「こう直さねばならない」
「こう直したらOK」ではなく、
「こう直すのを一案として、
他にもっといい案はないか」という感じで、
直さないという選択肢も含め、
アイデアが広がるのでは…と
ポジティブに考えています。

なので、難しいとは思いますが
編集者の言葉は対案であり、
より上へのステップの踏み台くらいに
考えていただくのが良いかと。

「俺の言った通りやんない奴は使わない!」
なんて編集者は、前にも書いた通り
ロクなもんじゃないと私は思うよ。

ちなみに「提案とイコールではなくていいですよ」
というのは、責任回避や逃げではないですよ。

この辺は相手のレベルとか、直す箇所とか、
いろんな要素が諸々グチャグチャと
絡み合っているので、
難しいところではありますが…。
「絶対直して!」という場合もゼロじゃないです。

全直し上等⁉


一か所手を入れたら、他もガッツリ
直してくる作家さんも珍しくありません。
ネームは生き物なんで。
あそこを押せばこっちが引っ込む。

ある作家さんは、直しの相談をすると、
毎回ほぼ全直しの全然違うやんけ!という
ネームを上げてくるし、
直しがあるとそのネームは惜しげもなく(!)
ゴミ箱行きなんて方もいました。

お二人に共通していたのは、
「どうすればもっと面白くなるかを考える」
その一点です。

十の言葉より「ハケンアニメ」

ちょっとダラダラになってきたし、
家康にも集中したいし、
その上仕事もサボってるので、
この辺でやめておきます。

どこまで参考になるわかりませんが、
少しでも皆さんがポジティブに考える
材料になればと思います。

ネームの直しは本当に
何年やっても一筋縄でいかなくて、
漫画編集の肝と言っていい難問です。。

私の話くらいじゃ納得のいかない方も多いでしょうが
そういう方には本当に是非とも(しつこ過ぎますが)
映画「ハケンアニメ」を観ることをお勧めいたします!

(以下ちょいネタバレです。)

声優さんのセリフが間違えているわけでもないけれど、
監督がそうじゃない!と繰り返しダメ出しするあのシーン。

あれに近いやりとりを編集と漫画家さんも
しています(と思っています)。

あれをパワハラと言い切ってしまうことは
私にはできないな。

以上、再見!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?