寸法的に正しい模型は、時に正しくない

前に投稿した「プラレスラーを1/4スケールで作るのは、なぜ難しいのか?」は、ざっとネタ出しをして、清書する際に「長すぎる」「本筋と離れすぎ」とかの理由で、1/3ぐらいをボツにしています。
そのまま捨てちゃうのも勿体ないネタもあり、リサイクルして別の投稿としてまとめてみました。
本稿は、4章「スケールモデル」の後ぐらいに、コラム的に載せるつもりでした。

00年代の話です。玩具会社にいた知人が独立することになり、その際に、お城模型の設計を受託することになりました。知人曰く、「図面を元に、センチ、ミリ単位にまで、精密にモデリングしました!」とのこと。
紙の設計図ではできないやり方で、CAD上で「原寸のお城」を作り、これを金型を作る際に、縮尺に合わせて縮小する手法があります。原寸でミリ単位の精密度は、縮小する際にミクロン単位になり、金型を作る際の誤差やらプラの収縮率に埋もれてしまうので、オーバークオリティなんですけど。

後日、模型の展示会に出かけると、件のお城模型が展示されていました。
………、あれ?、なんか、思ってたのと違う???

図面を元にモデリングしているなら、ズレたモデルを作ることの方が難しい(*おかしな数値を入れるとエラーになる)ですから、寸法的には正しいはず。でも、おかしいというか、何か違和感がある。

この矛盾の原因は何だろうかと、数日間モヤモヤして、、、はっと思いつきました。私が抱いていた、お城のイメージの方が間違っていたのでは?

実物のお城には、なかなかお目にかかれないので、写真や動画のお城がイメージの元になります。
その写真や動画は、近場からお城を見上げたアングルが主なので、パースがかかってこんな感じになります。

出典:国土交通省ホームページ(https://arcg.is/WPfj8)
城の画像は2枚とも、3D 都市モデルでお城巡り(国土交通省)(https://arcg.is/WPfj8)の小倉城をキャプチャして作成
*尚、件のお城模型の城名は失念したので、見やすいお城を選んでみました

お城模型の場合、上から見下ろす形になりますから、逆のパースがかかって、こんな感じに。

具体的に書くと、見上げるアングルのお城が頭にあったので、最上階が小さいピラミッドのような形を想像してたんだけど、上から見下ろすアングルで模型を見たので、最上階が大きすぎるんじゃ?と思ったと。

もう少し分かりやすく、高層ビルで書き出すと、こう。
下からと上からでは、まったく反対の見え方になります。

博物館や資料館に納めるような模型なら、寸法的に正しく作るのが正解です。
でも、観光地で売ってるような、土産用の置物のお城、これなんかは主観に寄せた方が正解になります。
お客さんが欲しいのは、あくまでイメージしたお城像ですから。

じゃあ、模型店で売ってるようなお城模型はどっちかというと、、、身も蓋もない書き方をすれば、「売れた方」が正解になります。

お城模型は極端な例ですが、模型を元に忠実に作るのではなく、主観に寄せるのは、けっこうよく行われます。

模型は、普通は見下ろす形で見ますから、どうしてもパースがかかった見え方になります。
具体的に言うと、視点に近い方は大きく拡大された形に、遠い方は小さく圧縮された形に見えます。
人形(ヒトガタ)には、これが致命的に影響します。頭がでかく、足が短く見えてしまいますから。

これを防ぐため、カメコはコスプレイヤーを撮影する際には、膝をついて低い位置から撮影(頭が小さく、足が長く写る)します。スマホで人物を撮影する際に、上下逆に持ち替えるのも、これの応用。

でも、フィギュアを見る際には、必ず下から見上げるアングルで見てください、ってのも無理な話。
なので、市販のフィギュアは、頭を小さめに、足を長め作ってあります。

棒人間ロボ(A)を上から見下ろすアングルで見ると(B)のように見えます。

見下ろすアングルで(A)のイメージに見える(C)ようにするには、(D)のように頭身を変更する必要があります。


*AとB、CとDはそれぞれ同じモデルです。
*分かりやすくするために、パースがきつくかかるようにレンズ長を調整してあります。

まあ、単に頭身を上げるだけで、カッコよく/可愛くなるのですが、これには(パースの)見え方補正ってのも含まれているのですよ。

ガンプラ改造例の定番、小頭(小顔)加工や、スネ中ごろで切断、プラバンをかまして脚の延長加工は、この文脈だと理解しやすいですね。

ただし、このあたりは隠し味的に入れるのが肝要。特定のアングルから見ることに特化した作例は、別アングルから見ると???になりがち。いろいろな方向から見ることができるのが、模型の利点なのですから。

そんなこんなで、自分の中のイメージはかならずしも正しくない、という知見を得たのですが、後日談があります。

ある集まりで、知人が務めていた会社の上司の方と会いまして。コレコレこういう事があったんですよ~、と話すと、上司の方曰く、「納品された3Dデータ、いろんなとこがくっついちゃってて(*昔はデータ形式を変換する際によくあった)使い物にならなかったから、こっちで作り直した。」
(センチ、ミリ単位にまで、精密にモデリングしたという)前提が崩れたので、原因は迷宮入りに…

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