おとう

僕の性格は父親とは正反対だ。気が強く、思ったことは何でも口に出すタイプである。一方の僕はといえば、年は両手では収まらないのに、僕の人生は片手で握りつぶしてしまえるだろう。クラスの中では気が弱く、いつも陰をひそめている。

帰りの会の前の掃除の時間になり、何気ないいつも一日が終わろうとしていた。図工室の掃除が終わり、いつものように教室に戻る途中だった。クラスメイトがクラスメイトをいじめていた。これもいつも通りだった。

何もかもがいつも通りの中、いつもとは違う感情が腹の奥からのぼってきた僕は、いじめっ子に向かって走り出していた。いつも通りではない行動に戸惑いながらも、その勢いを止められず、僕はそのままいじめっ子に突進していった。どうやら突進されたいじめっ子は壁に頭を打ち、うずくまったようだ。いじめられっ子は、いつも通りの冴えない目つきで僕の事を呆然と見つめていた。事の成り行きを見ていた女子生徒はいつも通りの大声で先生を呼びに行った。

気づくといじめっ子と先生と僕だけがいる保健室で、僕は何もしらない先生に叱られている。どうやらいじめっ子の母親と僕の父親が今からここに来るらしかった。
おとうは、、おとうはどう思うのだろう。気が弱くて空気みたいな息子の「クラスのいじめっ子に突進して怪我をさせる」という行動を、気が強くて曲がったことが大嫌いなおとうはどう受け止めるだろうか。いじめっ子をやっつけた僕の行動を認め、いじめっ子やその母親には全く気を遣わず、さっさと帰るだろうか。それとも理由があったにせよ暴力を振るった僕をしかるだろうか。おとうの反応が気になって仕方なかった僕には、何が起きたかしか知らない先生の話は何も入ってこなかった。
しばらくしておとうが入ってきた。おとうは先生から話を聞いている。僕は今、どのような感情なのかも分からずただ心臓が高鳴るのを感じていた。先生から話を聞いたおとうは僕に目線を合わせるようにしゃがみ、僕に向かってこういった。
「圭、大輝くんにあやまったか?まだ謝ってないなら父さんと一緒に謝ろう。」
今まであんなに気になっていたおとうの言葉が全然理解できなかった。父はいまどんな顔をしているのだろう。これほど近くにその顔があるのに全く分からない。時計の秒針の音が大きく、ゆっくり聞こえた。あんなに頑固でどんなときもいつも通りだった父が、いつも通りではない僕に対してはいつも通りではなかったのだ。

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