三毛猫ミーのクリスマス 第22話 こんなところで死ぬな!生きて勝ち残るのニャ

https://note.com/tanaka4040/n/n9da189d80413から続く


筆 者 注
16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。
24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。

では、どうぞ、お進みください


「負けるかも」
とは思わなかったが、徐々に恐怖感が高まってきた。その恐怖を煽《あお》るかのように、黒い海の彼方《かなた》から、雷鳴《らいめい》が近いづいてくる。
「どうしよう?」
と、地に顔を伏せ考えを巡らせていると、カシラのジロチョーが這《は》うように近づいてきて、
「このままじゃ、やられる一方だぜ」
「まず、飛び道具を封じなければ」
「接近戦に持ち込もう」
 さすが、百戦錬磨の猛者《もさ》は、話しが早い。

「賛成」
「クロスボウの男と、スリングショットの男、どっちを狙う?」
「殺傷力《さっしょうりょく》が高いクロスボウから先に黙《だま》らせよう」
 お互いの目が合った。言わなくても分っている。どちらかが囮《おとり》になって、やつらの目をそらしている隙《すき》に、もう一方が死角から忍び寄るしかない。
 うまくいけば良いが、危険を伴う戦法であることは確か。囮には、最悪、死が待っている。
「あたしが囮に」
「いや。オレが囮になるから、走って、間合いの中へ入れ」
「だって」
「体重が軽いぶん足の速い姐《ねえ》さんなら、早く遠まわりに迂回《うかい》できる」
「わかった」

 カシラのジロチョーは、あたしの目を見つめ、黙って頷《うなず》くと、クロスボウの男めがけ、飛び出した。すかさず、クロスボウが、照準を合わせる。
 その隙に、あたしは大きく迂回して、クロスボウの男の背後に回ろうと駆けた。
 すると、突然、クロスボウが、あたしの方を向いた。

「え?気づかれた?」
 予期せぬ出来事だった。おとり作戦が見抜かれたのか?それとも、猫殺しの単なる気まぐれか?忍び足で回り道するあたしを、間違いなく狙っている。
 ブン
と、弓の震える音がして、矢はクロスボウから勢いよく放たれた。
「ギャッ」
と射抜かれて転がったのは、どこからともなく現れた、ボス猫のハローだった。

 あたしを庇《かば》うために飛び出して、楯《たて》になってくれたらしい。
「親分!」
 目の前に転がっているボス猫ハローへ、あたしは縋《すが》りついた。
「しっかり!」
 ボス猫ハローは、弱々しく、
「おまえの前で殺《や》られりゃ、本望じゃい」
「バカ。死ぬんじゃないよ」
「間尺《ましゃく》に合わん仕事したのう」
「生きるんだ!生きて勝ち残るんだ」
「わしらの時代は終わりじゃけん」
と、咽《のど》の奥から声を絞り出すように呻《うめ》き、目を閉じた。
「親分!親分!」
 目を、一粒の水滴が濡らした。

 雨が降ってきた。雨脚《あまあし》は、徐々に強まりつつある。海に落ちる稲妻《いなずま》の雷鳴《らいめい》が、稲光《いなびかり》に遅れて低く轟《とどろ》く。
 あたしは、ボス猫ハローの体から身を起こし、憤怒《ふんぬ》に燃えさかる目で、クロスボウの男を見据えた。
 その視線の先に、カシラのジロチョーが、忍び足で、男の背後へ回り込もうとしているのが見えた。
 結果的に、あたしが囮になった形で、カシラのジロチョーは、間合いへ入ることに成功したようだ。
「よし!」
 あたしは、再度おとりになるべく、男へ向かって突進した。
「チャンスだ」
 カシラのジロチョーが、背後から、男の背中めがけ飛びかかった。肩甲骨《せなか》の辺りに飛び乗り、無防備な首筋の後ろへ、するどい前爪を食い込ませた。
「痛え!」

 暗視ゴーグルの死角から急襲《きゅうしゅう》してきた猫を、男は、片手で掴《つか》んで引き離そうとするが、厚手の防護グローブをはめているため、なかなか掴めない。
「ちくしょう」
と男は、防護手袋グローブを外して、またも掴もうとした、その手の甲に、カシラのジロチョーが噛み付いた。
「痛え!」
 悲鳴を聞きつけ、スタンガンを持った男が、助けに走り寄ってくる。弾切《たまぎ》れになった電動マシンガンは、置き捨てたらしく、もう、所持していない。
 スリングショットを構えた男が、猫を射落として救出しようと、目一杯ゴムを引いて、じっくり照準を合わせてから、パチンコ玉を弾《はじ》き飛ばした。
 ビシッ
と、弾は、猫を引き剥《は》がすのに躍起なクロスボウの男の口元に当たった。
「痛え!」

 衝撃で、歯が口腔《こうこう》を傷つけたのか、口元から、血が流れた。クロスボウの男は、スリングショットへ向かって、
「おい!撃つな!俺に当たるじゃねえか!」
と命じ、なおも猫を振り落そうと、腰を回して、上体を振った。
 振り回せば振り回すほど、振り子のように猫が振られ、体重五キロを支える前足のかぎ爪が、どんどん深く皮膚に食い込んでいく。
 あまりの痛さに耐えかねた男は、腰のホルダーから鋸《のこぎり》刃つきのサバイバルナイフを取り出し、うしろにブラ下がっている猫を突き刺そうと、目暗滅法《めくらめっぽう》に突《つ》いた。

 鋭利な刃物が、振り回されているカシラのジロチョーの体を、何度も切り裂いた。
 鮮血が、クリーム色の体毛を、深紅に染めた。それでも、カシラのジロチョーは、しがみついている。
 次の一刺しが、男の肩に突き刺さった。自損《じそん》した男は、
「ガアッ」
と吼《ほ》え、サバイバルナイフを落として、肩を抑え、前かがみになった。そのはずみで、カシラのジロチョーは前方へ放り出された。
「今だ!」
 あたしは、男へ向かって跳躍《ちょうやく》した。顔面の暗視ゴーグルに飛びつき、
「みんな!」
と、振り向き、
「かかれ!」
と号令すると、ムクドリの大群が空を覆《おお》って移動するかのように、猫の大群が地を這《は》って襲来《しゅうらい》し、次々と、男の顔面めがけて飛びついた。

 猫の体重が加算され、身体を支えきれなくなった男は、ふらつき、やがて、膝を突き、折り崩れるように倒れた。
 その上に、猫たちが、容赦なく殺到し、爪を研ぐように、男の戦闘服や、皮膚を引っかく。
 男は、痛みと、恐怖で、気絶した。
 それを見届けたあたしは、血だらけで倒れているカシラのジロチョーのそばへ駆け寄った。 
「しっかり!」
 激戦で、息も絶え絶えのカシラのジロチョーが、
「し、仕留めたか?」
と、弱々しく訊ねた。
「うん」
と頷くと、
「そうか」
と微笑み、
「あとは頼んだ」
と、気を失うようにガクリと首を落とした。
「こんなところで死ぬな!」
と叫んでも、目を開けることはなかった。

明日へ続く


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