マーケティング認定テスト/上級編

商品開発の成功事例を述べよ

これまで、公共団体が出題している認定テストを、初級と中級の二度にわたりお届けしてきた。今回は、最終回の上級編。設問は複数ある。

設問1「商品開発の成功事例を述べよ」

設問2「メーカーの製品開発または販路開拓の理論・技法を述べよ」

設問3「販路開拓の成功事例を述べよ」

設問4「メーカーの販売チャネル戦略の理論・技法を述べよ」

設問5「販売チャネルの見直しや再構築の施策を業界・製品から述べよ」

設問6「あなたが得意とする業務で中小企業支援を成功させた事例を述べよ」

以上、設問ひとつにつき一回分のブログ記事になり得るものの、本企画シリーズマーケティング認定テストは今回で終了するため、設問1~5をまとめてお届けしよう。


設問1「商品開発の成功事例を述べよ」

回答1「セイコーエスヤードの例」

要約すると、

・バブル経済後の1993年、服部セイコーは、新事業を興すことになった。

・どんな事業にするか役員会で検討した結果、なぜか時計とは何の関係もないゴルフクラブに決定。(そう決まったのは、乱暴にも、役員がゴルフ好きだったから…という噂も)

・ゴルフクラブの市場推移は、3年連続の前年割れ。翌年94年度は、前年比17%減少の見込み。典型的な衰退市場。

・ゴルフクラブの市場シェアは、上位5社で85%の寡占状態。付け入る隙なし。

・バブルがはじけ、ゴルフ熱は下がり、縮小が始まっている市場へ、何の技術もノウハウもない異業種メーカーが新規参入するなど、常識からすれば失敗の可能性大。

・しかし、セイコーの新商品ゴルフクラブ「エスヤード」は、初年度で21億円の売上を記録。4年目には100億円の売上になり、事業部はセイコーエスヤード株式会社として独立。

成功の主因は、新製品開発チームの中に、十中八九ダメな状況であっても可能性を探す、マーケティングのプロがいたか、あるいは、マーケティングのプロへ依頼したのではあるまいか。

メーカーの製品開発または販路開拓の理論・技法を述べよ

設問2「メーカーの製品開発または販路開拓の理論・技法を述べよ」

回答2「製品開発はCSM調査※などの追跡調査から導き出される諸分析に基づき仮説を立て、仮説を実証するための調査を行い、その調査と分析結果から商品コンセプトを打ちたて、コンセプトを実現する商品企画を立案したのち、試作と調査を繰り返しながら実現の可能性を探り、可能性が高い場合は量産体制を整えつつテストマーケティングを行い、修正と再調査を経たのち、事業計画を策定し、プロモーション計画を立て、市場へ導入するのが一般的な製品開発のセオリー。※CSM…customer satisfaction measurement。顧客満足度。設問における技法の意味は不明ながら、メーカーの場合は、保有する生産設備や製造技術などの有形・無形の資産を強みに変えて製品へ反映し、既存の製品とは差別化が可能な市場優位性の高い製品を作り出すこと。新製品の開発に伴い新しい販路を開拓するのは至難につき、製品開発は基本的に、現有販路に乗せられる製品の開発を第一義とし、その販路における新製品の成功を基に新しい販路を開拓する。販路開拓の技法としては、展示会による卸売の発掘が一般的である他、卸売にあたる商社や組合への持ち込み、新製品発表会の開催やプレスリリースによって卸売から連絡を待つ方法などがある」

以上は筆者の一般的な回答であり、詳細は、業種や会社ごとに異なる。


販路開拓の成功事例を述べよ

設問3「販路開拓の成功事例を述べよ」

回答3「江崎グリコのオフィス向け菓子直販事業オフィスグリコ」

確か、江崎グリコによる昨年のプレスリリースだと記憶しているが、新年度の方針として、好調なオフィスグリコの強化を挙げていた。

不思議なのは、マーケティングに携わる者ならば誰でも知っているはずの富山の置き薬をモデルに販路を開拓したのは、数ある菓子メーカーの中でも、なぜ江崎グリコだけだったのだろうか?他のメーカーは、何をしていたのだろう?

もしも、メーカーによくありがちな「現状維持第一」「新しいことを始めてもどうせムダ」という風土が原因だとしたら、マーケティングによる新しい風が吹き込むことはない。

メーカーの販売チャネル戦略の理論・技法を述べよ

設問4「メーカーの販売チャネル戦略の理論・技法を述べよ」

回答「メーカーの販売チャネルは直販型と代販型の2つに分れ、さらに直販型は開放型・閉鎖型・専属型の3つに分れる。直販型は利益率が高く、販売活動からフォローまで、自社でコントロールできる反面、自社の営業が及ぶ範囲に限定されるため、大規模な販売が困難。代販型は利益率が低く、販促助成物の供給や、代販店講習、インセンティブイベントの開催など、代販店のバックアップ等が欠かせないが、代販店の規模と守備範囲に因っては自社の営業力を超える大規模な販売が可能。開放型は、日用品や食品等の最寄品を製造するメーカーに多く採用される販売チャネルで、取引先を固定せず、多くの卸売や販売店へ流通させることにより、いつ、どこでも消費者が購入できるようにする戦略で、技法としては、試食やフェイシング、POP、大陳・島陳、ワゴン販売による目玉品の店頭露出、時間帯別価格差(タイムサービス等)がある。競合との価格競争になるケースが多い。閉鎖型は、化粧品のように、販売権を持つ店舗のみ販売可能なチャネル。価格の値崩れを防ぐ他、イメージやブランドを統一しやすい利点がある。専属型は、自動車のように、メーカー専属の販売店、あるいは販社のみの取り扱いとなり、他のメーカーの製品は販売しない販売チャネル」

上記の文章を精読した方は、何人くらい、いるのだろう


読んだとしても、何人が理解できたのだろう?

理解できたのは、マーケティングを学んだ方か、メーカーのマーケティング部に在籍していた方だけではなかろうか?

理解しているとしても、これをどう現場へ活かせばよいのだろう?おわかりになるだろうか?

前出のセイコーエスヤードの例にも通じるが、競合他社とは異なる優位な販路を開拓するには、教科書には載っていない、独自の販路を創出する必要がある。教科書通りに販路を開拓していては、他社と同じ行動にならざるを得ない。

また、ホンダにしても、ソニーにしても、まず販路ありきではなく、苦慮腐心して作った製品を、一生懸命に売ろうと努めた結果、販路ができたのであって、教科書を見て販路を作り上げたのではなかろう。すべては、現場から発する。

よって、
「こんなテストに回答して(合格して)何の意味があるのだろう?」と筆者は疑問に思い、今回の「マーケティング認定テスト」三部作を企画するに至った。


もちろん、マーケティングを知らない人にとっては、いい学習になるだろうし、マーケティングを教える先生にとっても、現場経験を必要とせずに教えられるのだから、机上の学問としては都合が良い。

しかし、マーケティングの現場は、机の上で教科書をめくって答えを探しても見つからない。

九分九厘「ダメかも知れない」という断崖絶壁に立ち、恐怖にも似た危機感と、死中に活を求める希望を胸に抱いたとき、少しずつ活路が開いてゆく。そんなものではないだろうか。

販売チャネルの見直しや再構築の施策を業界・製品から述べよ

設問5「販売チャネルの見直しや再構築の施策を業界・製品から述べよ」

回答5「文具のアスクル。書籍のアマゾン」

以上。
さらなる説明には及ぶまい。これ以上、最適なモデルケースは他にない。

あなたが得意とする業務で中小企業支援を成功させた事例を述べよ

設問6「あなたが得意とする業務で中小企業支援を成功させた事例を述べよ」

回答6「少なくとも一年以上、マーケティング全般にわたり定期的にアドバイス
させて頂いた企業は、過去最高益を叩き出している。ただし、その事例は明かせない」


その代わりといっては何だが、拙著「あの会社が元気なのには理由がある!」の北星鉛筆が格好なケーススタディにつき、要点のみ抜粋しよう。

・北星鉛筆は、鉛筆メーカーである。高度経済成長期には、文具卸の営業車が待っていて、作ったそばから鉛筆を運んでいった。作れば売れる時代だった。

・成長期が終わり、成熟期に差しかかると、作っても売れなくなった。鉛筆に変わる文具が登場した他、中国の安い鉛筆が国内市場に流れ込んできた。

・そこで、鉛筆に代る新製品を作ることにした。

・しかし、新製品を販売するには、新しい販路が必要だった。そこで、新しい販路を開拓すべく模索したが、セオリー通り、新商品と新販路の両立は不可能だった。

・そこで、せっかく開発した新製品を捨て、現有する販路に乗せられる製品を開発することにした。その結果、まったく新しい製品が誕生した。

北星鉛筆は現在、三菱鉛筆、トンボ鉛筆に次ぐ業界三位のメーカーとして地歩を築いている。

北星鉛筆こそ、マーケティングを知らずに失敗を繰り返しながらも、最終的に成功へたどり着いた実例。さらに詳しくは、拙著を御覧いただきたい。


さて「マーケティング認定テスト」三部作は、いかがだったろう?

【質問-1】

あなたは全問に答えられただろうか?

【質問-2】

答えられなくてもいい。答えられたからといって、答えて合格した人が、現場で結果の出せる優秀なマーケティングの実務家に、必ずしも、なり得るだろうか?

【質問-3】

正解したからといって、人様の会社にアドバイスできる有能なコンサルタントたり得るだろうか?

あなたの回答こそ、今回の企画「マーケティング認定テスト」三部作に意義があったかどうかの答えになる。


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