籠城マーケティング/IKEAレポート

買わないのなら帰れ?

家具を販売している店舗があるとしよう。当然、店内には、家具が並んでいる。
あなたも一度は家具売場に足を踏み入れたことがあるに違いない。

家具店にはコンビニのようなパターン化された導線があるのかどうか知らないが、だいたい、入口には、視界を確保すべく、背の低いソファやテーブルなどがあり、壁際や奥まった位置には、背の高い食器棚やブラインドやカーテンが配置されている。

家具売場なのだから、家具が並んでいるのが当り前といえば当り前だが、見方を変えれば、
         来て  見て  触って  買ってって

とのメッセージが無言で発信されているといえよう。どういうことかというと、ご存知のように、家具売場は広い。ひとつの家具を選んだり、検討していたりすると、けっこう疲れる。

ベッドやソファを選ぶために、繰り返し立ったり座ったりしていると、なお更疲れる。
ヒンズー・スクワットでトレーニングしているも同然、疲れないはずがない。


疲れるが、座って休める場所に乏しい。あるいは、休める場所が一ヶ所も無い。

大きな家具店になると、休憩所の代わりに、ソファなどの商品に座っている人を見かける。ということは…

家具店にとっては当り前のことかも知れないが、来て、見て、触ったら、

         [選択肢-1] たった今、買って

         [選択肢-2] 買わないのなら、買うときに来て

と言っているも同然。わかりやす~く、意地の悪い見方をすれば、

            買わないのなら 帰って

との意思が無言のメッセージになって発信されている。
それが、買う側にとっても、売る側にとっても、当り前な空間といえよう。

買わなくてもいい?

家具にもよるが、家具は安い買物ではない。十万円単位の商品がゴロゴロある。

さらに、家具は付き合いの長い商品であるため、慎重に、迷いながら、選ぶ。

インテリア好きにとっては、選ぶこと自体が楽しい。

そうなると、家具店で選択行為に費やす時間は自然と長くなる。

が、休める場所は、ない。なぜなら、

「買ったら帰れ」「買わないのなら帰れ」との常識で店舗が運営され、

「買ったら帰る」「買わないのなら帰る」との常識で客側も行動する。

そこに、

「買っても尚、他の商品を見て回る」

または、

「今は買わなくても、次回に買うかもしれない商品を、じっくり検討する」

という考え方が入り込む余地はない。常識とは、恐ろしいものである。


籠城マーケティングの場合は、買わなくてもいいのである。

ディズニー・リゾートの成功法則を紐解くまでもなく、滞留時間は消費金額に比例する。

居れば居るほど「あれも買う」可能性も、「もっと買う」可能性も高まる。

なのに「帰れ」とは之いかに?

ということは、快適な休憩所が家具店に必須であることは容易に理解できよう。

籠城マーケティングでは、いかにして「いてもらうか」が重要。

「買ったら帰れ」「買わないのなら帰れ」という考え方は、前時代的な日本の商法といえる。

買わないのなら休んで?

そこへいくとIKEAは異色。


入口から出口まで家具で埋まっている従来からの家具店とは異なり、入口には

             家 具 が な い。

南船橋店の場合、入口はホールになっていて、正面にエスカレーター。左前にトイレ。右前にキッズルームがある。たった、それだけ。

余談だが、キッズルームといっても、スペースの一角を区切って玩具を置いた簡易施設ではなく、ホールと遮断した独立する大きな施設になっており、資格を持った保母さんが常駐している模様。ただし、入ったことがないため詳細はわからない。


エスカレーターを昇ると、ショッピングカートがあり、その奥にベッドが展示されている。

異色なのは、エスカレーターを昇った右側にカフェ&レストランの入口があること。カフェではコーヒーとスイーツが、レストランではスウェーデン料理が楽しめる。

一口にカフェ&レストランといっても、かなり広い。席数は公表されていない が、300席は下るまい。混雑する土日の正午でも着席可能。

このカフェ&レストランがイケアの武器に違いなく、事実、

「疲れたら、何度でも休んで、心置きなく家具を楽しんで下さい」

とのメッセージを(パンフレットか何かで)発信している。決して、

「買ったら帰れ」とも「買わないのなら帰れ」とも言わない。それどころか、

「買っても買わなくてもいいから、とにかく、居て」

と無言のメッセージが発せられている。


導線の入口に、家具ではなく、カフェ
&レストランを配することで「ここに居られる場所がある」ことを示している。

実際、ひと巡りするのに優に2時間はかかる。じっくり見て回ったら、半日は費やすに違いない。まるで家具テーマパークである。

この考え方を、たとえば薬局へ応用するとしたら、わずか2~3席でも構わないので、冬なら葛根湯が飲める喫茶店(喫茶コーナー)を設けられよう。要するに、居てもらえる場所があればいい。

買わないのなら楽しんで?

またしてもディズニーリゾートの例になるが、イクスピアリは、その名の通り「ディズニーランドに入らなくても体験できる」ショッピングモールである。


「買わなくても(ランドに入らなくても)、体験するだけで、楽しい」

「体験して満足すれば、また来たくなる(ランドに入りたくなる)」

「来さえすれば、お金を使う」

イケアもこれと同じで、

「買わなくても、家具を体験するだけで、楽しい」

「体験して満足すれば、また来たくなる(家具がほしくなる)」

「来さえすれば、お金を使う」

ようになっている。それでいて、商品単価はディズニーの比ではなく、一回の買物で数万円、数十万円が費やされる。


むろん、家具店として「圧倒的な品揃え」や「低価格」など正統的な優位性を掲げているが、これも、分析してみれば、戦略的であることがわかる。

ディズニーやイケアと、日本型の店舗は、店舗という城に対する考え方が全く異なる。では、あなたが行きたくなるのは、

「買ったら帰れ」「買わないのなら帰れ」

の店だろうか?それとも、

「買わなくてもいい。休んでって。楽しんでって」

の店だろうか?どちらが居心地よく、どちらへリピートしたくなるだろう?


ちなみに(単なる家具店の)イケアには、このようなファンがいる。

もし、あなたが店舗のオーナーだとしたら、どちらの路線で経営するだろう?

その決断を下せるのは、あなたのみ。その結果も、あなたのものである。

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