家来

本来の意味の家来

家来というと、主従関係の従の立場、すなわち、服従する立場のように思われるが、本来は違う。

戦国末期から徳川政権にかけての家来は、主への服従が絶対であったが、戦国時代の幕開けを告げる応仁の乱以前の家来は、主への服従どころか、自分達の領土を守ってくれない主なぞ見限るのが普通であった。

見限ってどうするかといえば、こともあろうに、敵方へ寝返り、敵方へ与するのである。これが今の世なら、

「あそこの店はサービスが悪くなったな。これからは、あっちの店へ行こう」

と競合他店へ走る“顧客”に似ていると思えないだろうか

籠城戦における家来

お客さんを家来呼ばわりするとは不謹慎きわまりないかも知れないが
「これがユニークネス」
と、ご寛容に笑覧いただきたい。※uniqueness=独自性、特異性、唯一性

なぜならば、籠城戦タイプのビジネスというよりも、商店は元来、今でもそうだが、映画“男はつらいよ”の主人公・寅さんの実家である団子屋“くるまや”のように、店=家であった。

だから、店へ来る者=家へ来る者=家来である。ただし、主従関係ではない。

先に述べた通り、自分の益にならない主は見限られる、顧客代表のような存在といっていい。

顧客代表ゆえに、顧客の益を追及しなければならない。平たくいえば、顧客の為になる店は繁盛するし、顧客の為にならない店は廃れる。

顧客の為というと、とくに店舗の場合は、真っ先に「安売り」を思い浮かべるかも知れないが、安売りばかりが顧客の為に非ず。

顧客が「また行きたい」と思うからリピーターになる単純な構図ということは、また行きたいと思う店へ顧客は再来訪することが容易に理解できよう。

では、また行きたいと思う店とは?

再来店したくなるとき

お客さんは安いものが好きである。それ以上に、タダが好きである。

商品や品揃え、価格、立地、宣伝といったマーケティングの基本はサテ置いて、経営者意識として考えてみると、タダのものを顧客へ幾つ差し上げられるか?差し上げられる何かを幾つ用意してあるか?次第で「また行きたい」かどうかが決まるといっていい。

タダで差し上げられるものとは何か?


あなたにも覚えがあると思う。買い物をしたとき「ありがとうございました」と言われる際に、

   1 仏頂面で「ありがとうございましたぁ」

   2 笑顔で「ありがとうございました!」

   3 ありがたそうな顔で「ありがとうございました」と深々と頭を下げる

だいたい以上の3つに分類されよう。さて、あなたは、

どのパターンなら、気持ちよく店をあとにして、再来店しようと思うだろう?

笑顔で「ありがとうございました!」は、接客マニュアルに書いてありそうな挨拶で、競合のみならず、異業種の店舗でも徹底させている。つまり、顧客側からすると、スマイル0円には慣れている。


残る「深々と頭を下げる」のは、夫妻で店舗を経営している筆者の親類が実際に行っている挨拶である。

この店は、リピーターで繁盛している。

どれが正解か、言うまでもなかろう。

顧客が惹かれるもの

とはいえ、オペレーション的には、レジ待ちのお客さんが並んでいるときなど

「いちいち、深々と、頭を下げられるもんか」

と思われるかもしれない。が、深々と頭を下げる所要時間は一秒である。2回連続で頭を下げたら2秒。3回なら3秒。

もし、「一人一人へ深々と頭を下げられるもんか」と思った店舗運営者がいるとしたら訊ねたい。

     お客さんへ、一秒を差し上げるのが、そんなに惜しいのか?

時間はタダではないが、タダで差し上げられる。ならば、差し上げてもバチは当たるまい。
           お客さんはタダが好きである。

タダで差し上げるというと、ノベルティなどの有形物を揃えようとして、予算の前に屈服し、結局は何も差し上げない状況に陥りがちだが、タダで差し上げられるものは、有形物のみとは限らない。


それとも、

           無形物だと、マズイのだろうか?

ほんの束の間の時間を差し上げられるのなら、一秒という時間を差し上げてはどうだろう?時間のみならず、

        気配りという無形物を差し上げてはどうだろう?

        親切という無形物を差し上げてはどうだろう?

その『もてなし』に惹かれて、お客さんは再来店する。

家来が持ってくるもの

「顧客第一主義」や「お客様は神様」などの題目は誰でも一度は耳にしたことがあるだろうし、どうしてお客さんを大事にしなければならないのか、今さら筆者が解説するまでもなかろう。お客さんは、

             お金を運んで来てくれる

のみならず(ここが大事)

            定性情報を持って来てくれる
 
のである。

定性情報とは「アレがあったらいいな」とか「アレがあったら買うんだけど」といった要望であり、「あの店はドーだ」「その店はコーだ」といった競合の情報であったり、「アーしなよ」「コーすればいいのに」といったアドバイスであったりする。

そうした定性情報は、本来、経費をかけてでも調べなければならない宝の山といっていい。マーケティングに従事している方なら首肯しきりに違いあるまい。

それをタダで運んで来てくれる。あなたは、居ながらにして、その宝を手中に収めることができる。

ならば尚更、その見返りとして、タダで差し上げられる何か用意しておいても良かろうもの。

家来が持ってくるもの

これは、店舗のみならず、来客を待つ業態すべてに当てはまる。いわば、籠城戦の戦い方といっていい。戦利品は代金のみならず。

どうすれば良いか分らなかったら誰かに訊くと良い。友人でも経営者仲間でも経営コンサルタントでもいい。ただし、

「時間を差し上げるんだったら、一秒プレゼント券を作って差し上げなさい」

と指導するような現場知らずには要注意。

冗談はともかく、家来が増えれば、繁盛しているように見える。祭を例示するまでもなく、にぎやかな所に人は惹かれる。

人は人を呼ぶ。人が集まるところにビジネスチャンスが生まれる。

人が集まれば繁盛していく。

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