山寺の和尚さん物語[12/12話]乃十二ノ最終話


 十一話より続く

「ふむ。社内の誰かと顔見知りになって、気心が知れるようになれば、紹介を頼むこともできるじゃろ?」

「それには、何回も会う必要がありますね」

「それが、接触論じゃ」

「会うに勝る接触なし。誰かの言葉にありましたね」

「されど、会うばかりが接触でなし」

「どうやって接触していくか?これも戦略ですね」

「一年以上は接触することになるからのう」

「ひらめきました!」

「なんじゃ?」

「コピー機を売らずに、コピー機で営業ツールを作るセミナーを、無料で提案します」

「名案じゃ。ライバルが聞いたら。さぞかしビックリするじゃろう」


「俺が講師になって、お客様のところへ行きます」

「なんじゃ。結局は、コンサル先生と同じ売り方になったのう。ふぉふぉふぉ」

「お客様のメリットを考えれば、そうなっちゃうんですかね」

「用途にしても、価値にしても、無形じゃからのう。コピー機は有形じゃが」

「でも、コンサル先生と決定的に違うのは、実力です」

「実力は、話していれば、見えてくるものじゃ」


「うちの連中は、営業のプロ集団ですから、営業やったことなさそうだなって怪しんでいましたもの」

「ふむ。おぬしくらいの営業スキルがあれば、講師になれるじゃろう」

「そうすれば、低スキルの部下が開拓してきた新規であっても、俺が介入できますし」

「おぬしという優秀な営業マンに、商談を集める作戦じゃな?」

「はい。ライバル会社のコピー機の、リース期間の更新期限が来るまで、繰り返し、営業セミナーを開きます」

「決まるまで、一年先、三年先という会社もあるじゃろう」


「なんの。一か月後、三カ月後という会社もあるでしょう」

「よう気づいたのう。これぞ、今月来月の売上を追いつつ、来年の売上も追う戦略じゃ」

「そうだったのか!ありがとうございます。和尚さんの誘導尋問のおかげです」

「わしゃ雑談しとっただけじゃ」

「もう、動きたくて、うずうずしてきました」

「みな、戦略戦術が決まると、やってみたくなるそうじゃ」

「わくわくします」


「もう、どんな、新規専用のパンフレットや、名刺を作ればいいか、分かったじゃろ」

「もちろん。こうしちゃいられない。帰って、早速、始めます。ありがとうございました」

 細川は、風のように去って行きました。

 一年後。

 細川から、住職へ、電話が入りました。

「和尚さ~ん。お布施を振り込んでおきましたよ~」

「ほう。ありがたいことじゃ。南無阿弥陀仏」

「寄付なら、経費になりますからね」

「儲かった利益を、税金に払うくらいなら、経費にするというわけじゃな?」

「ふふふ。さすが、お見通しですね」


「ということは、うまくいっておるようじゃのう」

「はい。和尚さんのおかげです」

「ふむ。おぬしが会社を立て直す、中興の祖になりなされ」

「ちゅうこう…あ、そうか。なかおきだと覚えにくいけど、音読みにすると、覚えやすいかも」

「わしとの雑談も、たまには、役に立つもんじゃな」

「またまた、ご謙遜を」

「雑談は、リラックスして話せるでのう」

「その、リラックスした状態が、いいアイデアを生むようです」

「ふむ。アドラー心理学じゃな」


「では、取り急ぎ、ご報告まで。失礼します!和尚さん」

 あとで、住職が、通帳を見ると、お布施の一千万円が、振り込まれていましたとさ。

山寺の和尚さん物語 【おしまい】

「あ奴、あながち、しみったれた経営者では無かったようじゃ。
また雑談でもしようかの~」

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