4C's

商学

雑談から始めよう。

商学(コマーシャル・サイエンス)という学問がある。ウィキペディアによると範囲は、

経営学(経営史、経営戦略論、経営組織論、経営管理論、経営情報システム、マーケティング論)

経済学(ミクロ経済学、貿易理論、産業組織論、マクロ経済学、計量経済学、ゲーム理論、行動経済学、行動ファイナンス理論、国際経済学、開発経済学、社会経済学、経済地理学、労働経済学、財政学、経済史、経済学史、経済政策)

数学(代数学、線型代数学、解析学、計算機科学、統計学、確率論、数理学、微分積分学)

会計学(簿記)

法学(民法、商法、会社法、労働法、独占禁止法、租税法、金融商品取引法、国際法、国際経済法)

社会科学(社会学、産業社会学)

だそうで、要するに、経営学部・経済学部・法学部・社会科学部・理工学部の各学部で専門的に学ぶ学科の中から商売に関する科目だけを集めた学問の様子。


商学という確立された学問にケチをつけるわけではないが、以上の修学項目を見る限り、商学を修めれば優秀なビジネスマンになれるかどうか、分からない。

たとえば、商学を修めるには(選択必修かも知れないが)微分積分と国際法とファイナンスが要るという。

つまり、商学が商売の基底たり得るかというと、巨大企業の経営者ともなればいざ知らず、日本企業の99.7%を占める中小企業にとっては、江戸幕府の官学だった朱子学ような観念論に似ている。

商業学

まだ余談の域を出ないものの、徐々に本題へ移っていくことにしよう。

商学ではなく、商売学という学問が昔あった。慶応大学を創設した福沢諭吉の論文に出てくる。

『(前略)たとえば今、経済学といい、商売学といい、等しく学の名あれども、今日の有様にては経済商売の如き、未だまったく天然の原則によるものに非ず』

商売学とは何か、調べてみたところ、それ以上は分からなかった。

東京商業学校(現・一橋大学)を創設した森有礼(初代・文部大臣)が、福沢諭吉と同じ時代を生きた背景から推測するに、福沢諭吉が指すところの商売学とは、商業経済学の片方である商業学を指しているのかも知れない。それゆえ諭吉は「経済学といい、商売学といい」と分けているのだろう。

商業学も確立された学問である。平たく言えば、製造と消費を取り持つこと。


商学=商業学と解説する向きもあるため、整理しておくと、商業学は、商学のように網羅された学問というよりも、製造・流通・販売に絞った学問であると解釈した方がわかりやすい。

もっと分かりやすくいえば、高校(の商業科)で教えるのが商業経済学。大学で教えるのが商学。と整理しておけば分かりやすい。

当たり前の話であるが、高校と大学で教える教科が同じであろうはずはないし、同じであれば大学の意味がない。

ここまでは、商業科で学んだことも、商学を履修したこともない筆者の分類であって、学術的に正しいかどうか分からない。もし、誤りがあれば、指摘して頂きたい。


それにしても、約150年前とはいえ、福沢諭吉の「経済学も、商業学も、天然の原則ではない」との裁断は見事である。商売は文化・文明によって移ろいゆく。

しかし(詳しくは別記するが)商売が人間と人間の取引である以上、中華文明の華である儒教に似た天然の法則が存在すると筆者は考える。五常の信である。

商売の原理原則

さて、商売学。

福沢諭吉の頃はどうあれ、いまでは、在野の各個が夫々(それぞれ)に商売へ対する思いや考えを綴(つづ)る際に使われる俗称に過ぎず、商売学としての学問体系は無い。

無い?

学問としては無い。が、現実には存在するため、商売学という名称を、誰から教わるともなく、多くの人たちが使っているのではないだろうか。

では、商売とは何だろう?


検証してみよう。小学生でも解かる単純な話として、

  一、商売は、商品が無くては始まらない(売りものがない)

  二、その商品は、売れなくては話にならない(お金が入ってこない)

つまり、商売とは、商品を作って(仕入れて)売る活動に他ならない。

逆にたどれば、

二、商売は、売れなくては始まらない(お金が入ってこない)

一、売れるには、売れる商品でなければ話にならない(売りものがない)

つまり、商売の原理原則は、売れる商品を作る(仕入れる)ことが第一。ここまでは異論なかろう。


第二に、売れるように売ること。

たぐい稀なる素晴らしい商品であっても、存在を知らなければ買いようがないように、売れるように売らなければ、売れないという至極当然の話である。

結論として、商売の原理原則は、

  一、売れる商品を

  二、売れるように売る

という二工程に集約される。これは、キッザニアで就業体験している子供たちでさえ解かる話であろう。

しかし、おもしろいことに、小学生に解かる話が、大の大人には解からない。


現実には、売れない商品を売ろうとしていたり、売れるように売ろうとせずに「売れない」と落胆しているケースが多い。

とうぜん、売れるわけがない。

実例を挙げれば主題から逸れてしまうため、ここでは割愛するが、人間らしい哀歓を伴う滑稽な例につき、いずれ必ず披露することを約束して、先へ急ごう。

商売の原理原則=マーケティング 

商売の原理原則は、

売れる商品を作り(仕入れ)、売れるように売ること

であった。

では、マーケティングと比較してみよう。

抽象的にいえば、顧客の求める価値を商品化して届けるのがマーケティングで
ある。

余談だが、マーケティングというと「何それ?」と問われることが多い。老若男女を問わず、地域を問わず、不得要領なまま点頭する方々も多い。

これは、筆者を含め、マーケティングを伝える側に責がある。

なぜならば、価値を理解できるように伝えるのがマーケティングの役割であり、正しく伝わって初めてマーケティングたり得るからである。

その道のプロを自認するならば、伝わるように伝えて然るべきであろう。


そこで、マーケティングに詳しくない読者の方々へ向けて、マーケティングを簡単に説明すると…

マーケティングは、買う人にとっての価値を実現できる
・物品(有形物)

・サービス(無形物)

作りだして(または仕入れて)商品化(値づけ)し、その商品に対価を支払う人々へ、
届くように(=流通)届ける(=販売)ための方法論である。


わかりやすく突き詰めると、

1 価値ある商品を作り

2 その価値を認める人へ売る

の二工程に集約される。つまり、商品を作って売るのがマーケティングの機軸である。


マーケティングは、商品を作って売ること。

商売の原理原則は、売れる商品を作り(仕入れ)、売れるように売ること。

両者はイコールなのである。
商売の原理原則も、マーケティングも、商品を作って売ること。

マーケティング=商売の原理原則である。

さらに突き詰めると(1:5の法則を持ち出すまでもなく)リピートしてもらうための顧客満足が欠かせない。

顧客満足が加わることにより、

  一、売れる商品を

  二、売れるように売り

  三、また売れる(あるいは他の顧客を紹介される)

という好循環がグルグルと回り始める。東京ディズニーリゾートが好例。

商売学

ただし、商売には存在するが、マーケティングに存在しないものがある。商学にも商業学にも存在しない。

それが、心である。仕事へ対する意識や、やる気と言い換えてもよい。

たとえば、商売は、約束事で成り立っている。

商売は、人と人の取引なのだから、約束が商売であると極論しても決して乱暴ではあるまい。

たとえば、開店時間は、お客さんへ対する約束である。
「何時から何時まで店を開けています」という営業時間を信じて、お客さんは買いに行く。

「この価格で販売している」とのプライスカードも約束である。


契約はいうに及ばす、納期も、履行も、支払期限も、債務債権も、アポイントも、打ち合わせの時間も、すべて約束である。

暗黙の約束もある。カビの生えたコメを売っているなんて、誰が想像しよう?

ゼニ取る以上、真っ当な商品であって当たり前な話で、偽りのない商品と代金を交換する(取引する)という約束に商売は他ならない。

つまり、約束こそ商売であるということは、たとえ一橋大学で商学を修めようとも、MBAでマーケティングを学ぼうとも、約束を破って意に介さない人間に商売はムリ。ムリムリ。

信用されないのである。裏切られるのを承知で商取引する奇特な人はいるまい。

信用を裏切る。もはやそれは商売ではない。詐欺という立派な犯罪に匹敵する。


「商売は信用第一」とは、誰が考案した言葉か知らないが、誰でも知っている言葉であろう。商売は、信用の優先順位が一番なのである。

信用とは、与信限度や信用取引のことではない。個人や法人の矜持(きょうじ)の問題である。

例示として相応しいかどうか別にして、一時は社会問題にまでなったヤフオク(Yahoo!オークション)では、肝心要の商品の良し悪しよりも、出品者の信用が最も問われるという。

信用は、商品を上回る。それが商売。

人間の本性

商魂、商才、商運、商道、商利、商略、商機、商勢、商状、商況、富商、豪商、大商人、紳商、商慣習、協商、商売っ気、商売敵、商い冥利…

商売学という学問が無いとしても、商売に関して使われる用語には、脈を打つ心臓の鼓動のような活き活きとしたリズム感がある。

たとえば、商魂。たとえば、商道。

大辞林によると、商魂は「商売に徹する意欲・気構え」のことで、商道は「商売をする者が当然守らなければならない道義」のことだそうである。

では、商学や商業学には、商魂を鍛える科目があるのだろうか?商道を訓える先生がいるのだろうか?

筆者は知らない。いるならば、ぜひ教えて頂きたい。訓えを請いたい。

話を戻そう。商売に使われる用語には、戦いに挑む戦慄がある。


たとえば、競合相手と同じ意味の商売敵(しょうばいがたき)という言葉には、競合他社という言葉のような上品さは感じられない。

まさに、食うか、食われるか。生きるか、死ぬかの敵(かたき)。敵ではなくかたきなのである。

そこには、獣の咆哮のような力強さがある。倒れても起き上がろうとする気迫がある。決してスマートではない。泥まみれの土くささがある。

鮮血ほとばしる生命が感じられる。まことに、人間社会ならではの生々しさがある。人間らしい趣きといっていい。

商売には、学問では教えない、人間の本性が潜んでいる。

商売の好循環サイクル

信用。約束。気迫。人間の本性。それらを含め巷では「商売学」と呼んでいるのだろう。

だとしたら、商売学と呼べる体系が一つある。4C'sである。

それを知るには、前出のマーケティングについて思い出しておく必要がある。

マーケティングを突き詰めれば、商売の原理原則に顧客満足が加わることにより、
    一、売れる商品を

    二、売れるように売り

    三、また売れるようにする

との三段階に凝縮され、その流れは、

[一]売れる商品を → [二]売れるように売り → [三]また売れるようにする
→[一]売れる商品を → [二]売れるように売り → [三]また売れるようにする
→[一]売れる商品を → [二]売れるように売り → [三]また売れるように……

とのサイクルを完成形とする。


その逆が、だまし売りである。だまして売るのだから、リピートなど見込めるはずがない。

だまし売りは、悪質商法だけの特徴ではない。業種業態は挙げないが、市民権を得ている真っ当な業種業態でも平然と行われている。ピンとくる方々もいるだろう。

リピートがないということは、新しい顧客を開拓し続けなければならない。

何が大変って、新規の顧客を開拓するのが一番大変である。コストもさることながら、精神的な負担が大きい。ぶっちゃけ、古参は、やりたくない。だから、新人にやらせるのである。

蛇足ながら、1:5の法則によると、新規の顧客を開拓するコストは、既存顧客へ販売するコストの5倍以上かかるという。


みやげもの屋を除き、新規のみ追い求める商売が、いかに非効率か、お分かりになるだろう。

商売の理想は、初めて買ってくれた顧客がリピーターとなって何度でも買ってくれる流れを作り出すことである。

余談だが、筆者がコンサルティングさせて頂いている建築会社の社長がいる。

社業は、筆者のアドバイスなど必要ないくらい、順調だが、一度も営業したことがない。営業部門も、ない。

なのにナゼ、次々と依頼が舞い込むのだろうか?

答えは簡単である。接触を欠かさないことにより、初めて買ってくれた顧客が別の顧客を紹介してくれるのである。


これを彼は営業と認識していないようだが、立派な営業である。商売の理想的なサイクルを実現している。

具体的にしていこう。


  一、売れる商品を

  二、売れるように売り

  三、また売れるようにする

との原理原則を企業活動をあてはめると、

  一、商品づくり=商品の再開発

  二、販売=既存顧客の維持、新規顧客の開拓、販路の開拓

  三、顧客満足=対応と追跡調査

となる。商品の再開発(Changeover-product)とは、

「マイクロソフトやアップルじゃあるまいし、世の中にない画期的な新商品を作り出すのは大変なんだから、今ある商品を徹底的に見直してみたらドーよ」

ということである。これは、商品の開発プロセスを知れば、誰にでもできる。


逆に、プロセスを知らずに進めると、まずアイディアありきで、販売チャネルに乗らない製品を「発明」する方向へ進み、発明したけど売れないという本末転倒な結果に陥ることがある。

発明と、商品の開発は、別である。が、発明が偶然、商品の開発になることもある。
次に、営業。ここではBtoBを念頭に置いて話を進めよう。

営業方法には、いろいろな営業方法があるらしいが、究極の営業方法は、紹介であろう。もちろん、難易度ウルトラC。

営業方法の代表格は、成長社会から続く、根性営業である。勘と経験と根性の夜討ち朝駆け営業である。

根性営業といっても、たいがいが、笛吹けど踊らない、中途半端な根性営業に終始するのだが、徹底した会社ともなると、その凄まじさは筆舌に尽くし難い。


その根性営業の対極にある理想の営業法が一つだけある。

接触営業(Contact-sales)である。

接触営業については、何度も触れてきた。接触営業こそ、成熟社会の営業戦略である。

ザッと検索すると、いろいろな会社が、いろいろな営業方法を唱えているが、「なるほどッ!」と首肯しきりな営業方法を見たことがない。多いのは、営業戦略に名を借りたCRMシステムの販売だったりする。

コスト、リスク、簡易性、紹介発生、精神負荷など総合的に、接触営業に勝る戦略的な営業方法があるならば是非とも教えてもらいたい。あるのだろうか?


そして、顧客満足(Customar-satisfaction)

これに「信用できる法人なのか?」という企業イメージ(Corporate-image)が加わる。商魂や商道である。

以上4つの頭文字のC(4C's)を取った略称が4C's(フォーシーズ)である。

4C's概要
まとめよう。4C's(フォーシーズ)は、

1.Contact-sales(接触営業)

2.Changeover-product(商品再開発)

3.Customar-satisfaction(顧客満足)

4.Corporate-image(企業イメージ)

の頭文字を取ったマーケティング戦略である。


マーケティングといっても、範囲が広すぎて、何をどうしたら良いか分らないというキーマンでも、すぐに始められる、現場向きの、シンプルで分りやすいコンパクトな最小マーケティング戦略である。

司令室で作戦を練るための付加価値マーケティングに対し、こちらは、戦場で戦う戦士のためのバトル・マーケティングといっていい。

図にすると、接触営業・商品再開発・顧客満足の3つの中心に企業イメージがあり、企業イメージは、それら3つへ影響を及し続ける。

接触営業・商品再開発・顧客満足の3つは、商売サイクルとなって循環し続ける。

これが4C'sならびに4C'sサイクルの概要である。


4つのCひとつひとつについては、回を改めて追々取り上げていくが、それらを全て知ったとき、あなたは、

[一]売れる商品を → [二]売れるように売り → [三]また売れるようにする
→[一]売れる商品を → [二]売れるように売り → [三]また売れるようにする
→[一]売れる商品を → [二]売れるように売り → [三]また売れるように……

という商売の好循環サイクルを作り上げることができる。

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