第四章-5項 どうしても否定しなければならないとき「叱るストローク」
(拙著の宣伝です:笑)
叱りと怒りの違いは?
プラスのストロークを勧めていると、
「では、叱っちゃダメなんですか?」
という質問を頂くことがあります。「叱るのは、マイナスのストロークではありませんか?」と。
確かに、叱るのも、叱られるのも、精神的な負荷がかかります。
「マイナスのスロトークだ」と感じる人もいるでしょう。
それでも尚且つ「そのやり方じゃダメだ」と否定せざるを得ない場合があります。ただし、怒るのとはワケが違う。
叱るとは、関心を寄せる相手の良くない点を指摘して制御すること。
叱る相手を
弟子として、
教え子として、
我が子として、
部下として、
友として、
同心円(コミュニティ)に属する仲間として、
認めているからこそ叱るわけです。
叱らないのは無関心な証拠。認めていなければ叱りませんよね?
よく、「叱られているうちが華だぞ」と言われる通りです。
叱るには
「良くない点は何か?」
「どうして良くないのか?」
との理由が必要です。
理由なくして、いかなる叱責も成立しませんし、いかなる叱咤も真とはいえません。それは怒りです。
怒りとは、不快に感じる気持ちを感情的に表現すること。
怒る対象に関心があろうと無かろうと関係ありません。誰かれ構わず見境なく怒りますし、怒る正当な理由もありません。
ドラえもんに登場するジャイアンが「のび太のくせに生意気だあ!」と追いかけ回すのと同じ。
唯一、義憤や慷慨ならば、悪を懲らしめる原動力になりますから良いのです。
が、対人関係において、怒気は基本的に必要ありません。
誰へ対しても、怒りは、ぶつけないほうが良い。
あなたがどんなに正しくとも、怒りをぶつけたら最後、縁が切れるくらいに思って差し支えありません。
正義の怒りをぶつけるガンダムはアニメの話。現実は、フィクションやゲームじゃない。
しかし、怒りという感情をコントロールできる人間は、そう滅多にいない。では、どうすれば良いのでしょうか?
I-message(アイ・メッセージ)で叱る
怒りに任せて怒鳴るくらいなら、叱る相手の目の前で、
「私は今、とても怒っている」
と独白してみて下さい。
怒鳴られるよりも、「怒っている」と独り言をいわれるほうが、恐怖に感じる場合がありますよね?
これを、「あなたが」と呼びかけるYou-message(ユー・メッセージ)に対し、「私は…思う」とあなたの思いをストレートに伝えるI-message(アイ・メッセージ)といいます。
「連絡して来いと言っただろう」という命令調だと反感を招くことであっても、I-message(アイ・メッセージ)を使って、
「連絡がないとき、私は、お前のことが心配でたまらなかった」
と独り言をいわれるほうが、「そうだったのか」と気づかせることができ、自発的な判断を促せます。
ただし、I-message(アイ・メッセージ)といえども、
「お前のせいで責任を取ることになったら、どうするんだ」
と、自己保身を理由に叱るのは御法度です。
いかなる場合であっても、人のせいにしてはなりません。
あなたが、叱っているようで実は怒っているのか、本当に真心から叱っているのか、叱られる側は観察していますから、
・「どいつもこいつも!」と八つ当たりしたり、
・名前で「×××!」と怒鳴ったり、
・人前で叱って、
恥をかかせたりしないように気をつけて下さいね。
人は、自分の意思を尊重しますから、他人から強制させられるよりも、自分で気づいて納得し、自分で決めて動くほうが積極的になります。
もし、怒鳴りたくなるようなことがあったら、怒鳴らずにI-message(アイ・メッセージ)で気づかせてあげて下さい。
叱るストロークでヤル気アップ
叱るには順序があります。
ダメな箇所
ダメな理由
改善策
プラスのストローク
の順で叱ると、ヤル気が湧いてきます。
どんなに叱る回数が多くても、どんなに大声であっても、どんなに言葉が汚くても構いませんので、
叱るときは、励ましや労わり、諭(さと)し、援(たす)け、導きなどのプラスのストロークで締め括りましょう。
仮に、あなたが
「ダメだ!ダメだ!こんなんじゃダメだ!」
と声を張りあげたとします。その次に、
「こういう風にやってみろ」と導いたり、「このように考えてみたらどうだ?」と諭したり、
「一人だけで頑張るなよ」と援けたり、
「お前ならできる」と励ましたり、
「自信を持て」と勇気づけたり、
「乗り越えたらヒーローだぞ」
と期待させるプラスのストロークで叱ると、一旦は悪意に受け取られても、時間が経てば、「あの時に叱られたのは、こういうことだったのか」と、分ってくれることがあります。
反対に、口が裂けても言ってはならないのが、マイナスのストローク。たとえば、
「お前なんか、いないほうがマシ」と、存在を否定したり、
「下らんことしか考えられない奴」と、思考を否定したり、
「お前なんかには所詮ムリ」と、才能を否定したり、
「人間のクズ」と、人格を否定したり、
「蛙の子は蛙だな」と、相手の血族を否定したり、
「学校で何を習ってきたんだ?」と、過去を否定する
マイナスのストロークが含まれていると禍根を残します。
叱る相手のタイプによって叱り方は変わりますが、基本的にはマイナスのストロークを封じ、
叱った後、ヤル気が沸き起こるように、プラスのストロークで締めくくりましょう。
叱る相手を、ペンなどの小物に置き換え、指人形よろしく、
「こいつには、こういう弱点がある」
と、現状を客観的に説明したあと、本人へ
「今の話を、どう思った?」
と感想を求め、客観的に考えさせる方法も有効です。身代わりの術ですね。
大まかに「人間は平等である」と言われます。
が、富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなるのも事実。これを「繁栄の矛盾」といいます。
繁栄の矛盾を、経済学者のヴィルフレド・パレートは、「富の80%は、20%の高所得者に集まり、残った20%の富は、80%の低所得者に分配される」と分析しました。
80対20の法則です。
(20対80の法則とか、2対8の法則とか、80対20ルールとも呼ばれます。日本のマネジメント層の多くは「ニハチ(ニッパチ)の法則」と呼びます)
ニハチの法則は今や、経済学のみならず、自然科学からビジネスまで、あらゆる分野に応用されています。
いくつか例を並べましょう。
・大気中に含まれる窒素は約75%。酸素は約23%。おおよそ、80%対20%。
・正方形の中の4辺に接する円の面積は78.5%。それ以外の四隅の和は21.5%。おおよそ、80%対20%。
・食品から採るコレステロールの量は20%。体内(肝臓など)で作られるコレステロールの量は80%。80%対20%。
ここまでは科学的な数字で立証できます。しかし、近ごろでは、
・売上の80%は、顧客全体の20%である優良顧客による
・売上の80%は、商品全体の20%である売れ筋商品による
・売上の80%は、社員全体の20%である優良社員による
・苦情の80%は、顧客全体の20%からのクレーム
・ビールと泡の割合は80対20が一番うまい
・蕎麦のつなぎに使う小麦粉は20%。そば粉が80%。いわゆる二八蕎麦
と、まあ、何の根拠もなく、何にでも当てはめられ、もう何でもアリの様相を呈してきました。
それだけ、使いやすい法則なんですね。
さすがに、二八蕎麦を、ニハチの法則に当てはめるのは笑ってしまいますが、この便利な法則に則って、叱るのは2つくらいにしておいて、あとの8つは褒めるようにしてみてはいかがでしょう?
2つ否定して8つ肯定する
褒められてばかりだと図に乗るタイプでも、2つくらい叱って釘を刺しておけば自信過剰になりにくいし、叱られてばかりで自信喪失しているタイプも、8つ褒めてあげれば、自信を取り戻すことができます。
問題は、叱る側(親、教師、上司などの指導者)です。まれに「ダメだ。ダメだ。ダメだ」と100%否定する指導者がいます。
よくやって当たり前だとでも思っているのでしょうか?それとも、ダメなところを見つけるアラ探しが指導になると勘違いしているのでしょうか?100のうち一つも「よくやった」と褒めない。
こうした指導者の許で育つのは、スポーツ選手のように、
もともと天賦の才があって、指導者を必要としない天才か、
あるいは、
二宮金次郎のように自分で自分を指導し、独力で学ぶ勤勉家か、
または、ヘレンケラーのように、黙々と精進する努力家だけ。
それ以外の圧倒的多数は、100%の否定ばかりじゃ伸びません。せっかくの真価も潰されてしまいます。
否定するのは2つで良いのです。それが按配(バランス)というもの。
厳密に20:80と規定することはありませんが、否定は2つくらいで留めておいて、あとの8つは否定せず、肯定し、指導し、プラスのストロークで背中を押して下さい。
指導力が無いためにプラスのストロークを放てないのなら、最初から否定しなければ良いだけの話です。マイナスのストロークを放つくらいなら、欠点を言わないゼロ・ストロークで、暖かく見守ってあげましょう。
(拙著の宣伝です:笑)
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