山寺の和尚さん物語[3/12話]乃十二ノ第三話

 二話より続く(この物語は会話が中心の会話体になっておりますので、1話から読むと分かりやすいようになっています)

「そうじゃろう。百人いれば百通りの営業戦略があるもんじゃ。組み合せじゃ」

「だから、営業戦略の基本を、営業コンサルタントに教えてもらおうと思ったんです」

「そして、営業コンサルタントの皮をかぶったプログラマーに教えてもらったわけじゃ」

「面目ない」

「その例を当てはめると、コピー機が欲しいお客様はコピー機が欲しいんじゃなくて、何が欲しいんじゃろう?のう」

「わかりません」

「ふぉ。面白いのう。おぬしの会社では、コピー機を売っておるんじゃろ?」

「はい」

「どうして、お客様が、コピー機を買うのか、その理由を、知らずに、売っておるのか?」


「だって、企業や事務所には、コピー機があって、当然でしょう」

「誰が決めたんじゃ?お釈迦さまか?総理大臣か?」

「社会の常識ですよ」

「そんな常識に囚われておるから、お客様が、コピー機を買う理由を、知らんのじゃ」

「知って、どうするんです?」

「そこに本質があるんじゃ」

「お客様はコピー機が欲しくてコピー機を買うんじゃない、〇〇が欲しいんだということですか?」

「そうじゃ」

「でも、そんなの知らなくたって、今まで、何十年も、売ってきましたよ」


「一理ある。コピー機が売れて、代金が入ればいい時代じゃったからのう」

「そうです。誰でもいいから、商品を知らせて、勧めて、売る。売れなければ、誰でもいいから、売れる先を探して、知らせて、勧めて、売る。その繰り返しです」

「それを林業型の営業戦略というのじゃ」

「林業型?」

 住職は、林業型の営業戦略を図解にして広げました。

「これが林業型じゃよ」
http://ogasawarashoji.blog45.fc2.com/blog-entry-239.html

「当社の営業戦略も、これですね」

「ほとんどの中小企業が、これじゃ。一部の大企業も、な」

「このままではないにしても、この林業型が骨子になっていることだけは確かです」

「林業型は、今日明日の売上、来月さ来月の利益を得るのに適しておるのじゃ」

「来年の事を言えば鬼が笑いますからね」


「来年の今月も、売上が欲しいのに、のう」

「みんな、目先の売上に汲々としているんです」

「営業の現場は、それで良かろう。しかし、経営陣も、そうだとしたら、どうかの?」

「それでいいと思いますが?」

「ふむ。来年の今頃は、会社が潰れているかも知れんのじゃから、来年の売上を追っても、詮ないことじゃと?」

「逆です。潰さないために、来月さ来月の売上を追っているんです」

「ならば、なぜ、一緒に、来年の売上も、追わんのじゃ?」

「鬼が笑うからですよ」


「今日明日のことさえ分からないのに、来年のことなど、予測できようもないという…」

「そういう、ことわざです」

「ということは、来年、会社は、無いかも知れんのじゃろ?」

「ですから、無くさないために……」

「ある予定ならば、なぜ、並行して、来年の売上も、追わんのじゃ?」

「来年のことなど、予測できないからです」

「来年の今日どうなっているか、予測つかないなんて、経営者として、心もとないのう」

「どうしてですか?」


「十か月後に、潰れとるかも知れんのじゃろ?頼りない経営陣じゃ思わんか?」

「ですから、会社を潰さないために、先月も今月も、今すぐに売ってくるよう号令をかけているんです」

「号令といえば、聞こえはいいが、そうして、社内に罵声が飛び交うんじゃろ?」

「少なくとも、古株連中は、それが営業だと信じています」

「いわしの頭も信心から、じゃな。人は、成功体験を信じて捨てられんからの」

「それで何十年も売ってきましたからね」



「ならば、新しい営業戦略なんぞ、考えないことじゃ。変えれば、必ず、摩擦が起きる」

「しかし、それでは、何も変わりません」

「ふぉ~。良いではないか。社長のおぬしが、来年、どうなっているか、予測できないと言うんじゃから、このまま、来年は来年の風にまかせて、吹かれておくことじゃ」

「来年がどうなるか、予測できないといっても、コピー機の市場は、縮小していますから、このままでは、ますます熾烈な競争になります」

「事業者数が減っているんじゃから、当然じゃのう」


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