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ビブリオテーク

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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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2019年10月の記事一覧

ニック・ランドと新反動主義/木澤佐登志

未来への希望がゼロとなった状態を見通す、どこまでもダークでホラーな思想。 それなのに何故だろう。 暗い見通しを表現したものをとにかく好む傾向が僕にはある。 小説でも、音楽でも、映画でも、絵画でも、そして、こうした思想書でも。特にイギリス発のダークな作品はジャンルに関わらず、ずっーと以前から好きだ。 その意味で、この本もとても良かった。 木澤佐登志の『ニック・ランドと新反動主義』。 ペイパル創業者にして、Youtubeをはじめ、LinkedIn、Airbnb、 Space

芸術と貨幣/マーク・シェル

お金というもののあり方が変わっていっている。 キャッシュレスや仮想通貨はもちろん、ポイント、個人間取引によって換金が容易になった商品、情報銀行による自分自身の商品化、そう、noteを書くことなども含めて、お金的なものが多様化して、価値の測り方、交換の仕方はより複雑なものとなっている。 現金=お金という感覚は今後ますますなくなっていくし、「お金を持っている」ということ以上に、どれだけ「お金を動かす力があるか」が問われるようになってきて、仕事をすることだけがお金を動かす手段では

記憶術全史/桑木野幸司

3つ続けて書評note。 読書欲が全開だ。 さて、全史というには小さな本だ。 300ページ強のなかに、記憶術の全歴史が詰め込んであるかというとそうではない。全史ブームに乗ったのだろうけど、せっかくいい本なのでもったいない。 『記憶術全史』。 そのタイトルのもったいなさを除けば、良い本だ。読みやすいのでほとんど週末土日で読み終えてしまった(風邪でほかに何もできなかったこともあって)。 何より、創造力と記憶(あるいは知)の関係を見直す良いきっかけともなった。 記憶術と古代ギ

屍者の帝国/伊藤計劃×円城塔

死んだ人間の身体を再利用しそれなりの仕事はできるよう、疑似霊素をインストールする。 100年前、18世紀の終わりまで、人間の肉体は死んだら黙示録の日まで甦る事はないとされていた。しかしいまは、そうではない。死後も死者は色々と忙しい。 と、ジョン・H・ワトソンが語る19世期末のロンドンで、物語ははじまる。 ロンドン大学で医学を学ぶワトソンは、卒業を間近にしたある日、屍体に疑似霊素がインストールされ、動く死者になる瞬間をはじめて目にすることになる。 その施術を行なったのは、

花のノートルダム/ジャン・ジュネ

クリエイティブ。 その言葉が視覚表現偏重にあるのは、どうにも気にくわない。 特に、言葉で表現された小説や詩などが置き去りになっている傾向は、クリエイティブの言葉を深みのないものにしてしまうようにも思える。 視覚表現のように、それほど時間的な労力や思考をするという労力をかけずに済むものに対して、書かれたものを読むという作業を伴う言語表現芸術はなるほど時間も思考コストもかかる。 けれど、だからといって、それらをそれだけの理由で鑑賞の対象から除外して、コストのかからないものにばか

非唯物論 オブジェクト指向社会理論/グレアム・ハーマン

ANTとOOO。 アクターネットワーク理論(Actor Network Theory)とオブジェクト指向存在論(Object Oriented Ontrogy)。 ある物事を理解するためには、その対象そのものを内側から直接見ようとするだけでなく、その外側からすこし距離をおいて同時に見てみたほうが理解が深まりやすい。 今回、僕はANTに関してそれができた。 ブリュノ・ラトゥールの『社会的なものを組み直す』でANTについて知ったばかりなので、グレアム・ハーマンが『非唯物論 オ