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ビブリオテーク

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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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2018年7月の記事一覧

眼球譚/オーシュ卿(ジョルジュ・バタイユ)

同じ対象が常に誰にとっても同じ意味を持つことはない。同じ言葉で表現されていようとも、それを誰がどのように用いるかで、その言葉のもつ意味は無限に近い拡がりをもつ。 だから、知ること、わかることというのは、その対象や言葉そのものではありえない。あくまで対象や言葉と誰がどのように接したかで、何を知ったか、わかったか(あるいは知ることもなく、わかることもなかったか)は変わってくる。 特に、結局、自分がどうしたいかで何を知れるか、わかることができるかもまるで違ってしまう。見ているも

徴候・記憶・外傷/中井久夫

「21世紀になって個人から国家まで、葛藤の中で踏みこたえるよりも踏み越えるほうを選ぶ傾向が目立つ」と、この本の著者で、精神科医の中井久夫さんは書いている。 『徴候・記憶・外傷』という本に収められた『「踏み越え」について』という文章のなかで、中井さんは、行動を起こすことをすんでのところで思いとどまるより、行動に踏みきってしまうことの方が多いということが、個人単位だけでなく、国家などの大きな集団単位ですら起こっているというのである。 ここで中井さんがいう、踏み越えとは次のような

都市の詩学/田中純

本のなかには時に、何冊もの他の本へと誘ってくれるキーとなる本がある。 田中純さんによる『都市の詩学』という一冊もそうだ。 これまで、この本を起点として読んだ(読み途中のものも含め)本には、カルロ・ギンズブルグの『闇の歴史』、中井久夫『徴候・記憶・外傷』、ホルスト・ブレーデカンプ『ダーウィンの珊瑚』、アルド・ロッシ『自伝』の4冊がある。 どれも『都市の詩学』のなかで紹介されていて読んでみたくなった本なのだが、共通点があるのに気づいただろうか? どれも記憶あるいは歴史といったも