徴候・記憶・外傷/中井久夫
「21世紀になって個人から国家まで、葛藤の中で踏みこたえるよりも踏み越えるほうを選ぶ傾向が目立つ」と、この本の著者で、精神科医の中井久夫さんは書いている。
『徴候・記憶・外傷』という本に収められた『「踏み越え」について』という文章のなかで、中井さんは、行動を起こすことをすんでのところで思いとどまるより、行動に踏みきってしまうことの方が多いということが、個人単位だけでなく、国家などの大きな集団単位ですら起こっているというのである。
ここで中井さんがいう、踏み越えとは次のような