雨穴さんの「尼の人形」についての考察

こんにちは。はじめまして。

先日、YouTubeで雨穴さんという人を知りました。面白い動画をたくさん上げている方なのですが、音楽も作っていると知り聴いたのがこちらです。
入りの「てっ、ててんっ、ててててててててててんっ」のメロディからガッ!!と好きになってしまったのですが、歌詞が滅茶苦茶謎だったので、乏しい想像力を絞りに絞って考察してみました。

2021年に投稿されているので、色々な方が既に考察されていると思いますが、かなり長くなったので暇つぶしにどうぞ。

なお、二番の歌詞から先、全ての倫理観を捨てて考察しています。
また色々な箇所が、インターネットで軽く調べた上での付け焼刃知識のため、有識者の方から見たらこれは有り得ないですよ、という事もあると思います。
軽い気持ちで楽しんで行ってください。

一 人形の顔

*歌詞
「私の遠い親戚の
家にあった古い茶箪笥に
顔のない尼の人形が
座っていた
笑っていた」

……まず、わざわざ遠い親戚の家に行く事情は何があるか?
例えば正月、お盆、冠婚葬祭。
二番の歌詞で後述するが、恐らく【私】がこの尼の人形を最初に発見したのは子供の時代と思われる。
食器棚ならともかく、他人の家の茶箪笥を開けて物色するなど、大抵の人間はしないだろう。余程の多大な好奇心の持ち主で無ければ……。
もしくは、忙しない大人たちに構ってもらえず、探検できるような場所が多く在りそうな、見知らぬ家の中で暇を持て余した子供でなければ。
 
MVの中で茶箪笥の写真が流れるが、全画面表示にすると写真の茶箪笥の上部に空間がある、つまり五段の構造になっていると思われる。

人形は普通インテリアとして目に見える所へ飾っておくと思うが……それこそ茶箪笥の上など……一番上の棚が開いている為、【私】はこの中に仕舞われていた尼の人形を見つけたのではないだろうか。

隣に襖が映っているが、襖の引手の高さ位置は半分より下にある。これは確か正座した状態で手が届く位置につけているから、なんて話を聞いたことがある。
調べたところ、襖の標準サイズは高さ170~180cm、幅90cm前後らしい。
隣の襖をこのタイプと仮定し、引手は85~90cmより低い高さにあるとする。参考として計測した自宅の襖は約175cm、引手は下からセンターが78cmだった。
目測だが、写真の襖の引手位置は茶箪笥の凡そ半分くらいの高さにあるように見える。引手位置を大体80cmとすると、茶箪笥の全高は160cm程ではないだろうか。
一番上の棚は横へスライドして開閉するタイプなので、身長が150cmを越えている人間ならば、目の高さで尼の人形とご対面するだろう。
【私】が何歳のころに顔の無い尼の人形を発見したのか不明だが、身長が130cmもあれば問題なく一番上の戸に手が届くのではないか。
ちなみに9歳女児の平均身長は130cm台のようだ。 

さて、顔のない人形を好んで飾る酔狂な人はどれだけいるだろうか。
逆に、気味悪がる人はどれだけいるだろうか。

恐らく後者の方が多い……と、思いたい。後述するが、昔話パートの姫=尼の人形と仮定でき、これが遠い親戚の家にあるという事は、人形は代々受け継がれてきたと推察できる(つまりこの家が本家である可能性がでてくるが、それは置いておく)。
しかも恐らく、【私】の身長でも確認できたということで、人形は箱に入っていない状態で茶箪笥の中に座っていた(揚げ足取りになってしまうが。わざわざ茶箪笥の中の箱を開けたら、なんてそんな細かすぎる情景を歌には入れない筈なので)だろう。 その為、処分したくても処分できない事情も共に伝えられていたのではないか。大事にしないと障りがあるとか……。
仕舞っている以上、保管状態は問わないかもしれないが、それでも目線の高さの位置────扉を開ければいつでもご対面できる場所────に置いているのだから、遠い親戚はこの人形に対して並々ならぬ思いがあったのではと窺える。

例えば、恐ろしい物から目を背けたい、だが見張っていないと……という畏怖か。
若しくは、誰にも見せられない、見せたくないがいつでも直ぐに眺められる場所に置きたい宝物……という愛情のような感情か。

 

尼の人形について

……MVでダブル雨穴さんに挟まれ、中央にあるのが尼の人形だろう(木目、帯と着物の合わせ目のようなものが見える)。
まず『尼』というのは以下の定義であるらしい。(引用:Weblio国語辞典)

1.出家して仏門に入った女性。比丘尼。
2.女性を罵って言う俗語。

また、こちらはwikipediaにあった記述だが、「女性が髪を肩のあたりで切る事や、その髪型を尼削ぎといい、そのような髪型の童女を尼という場合がある」らしい。
レファレンス共同データベース(国立国会図書館が全国の図書館等と共同で構築しているデータベース)では、平安時代の子供の髪型について、

「男女とも五歳から九歳頃までのあいだに『髪剃』と称し、それまで伸ばしていた髪の毛先を切り揃える儀式が行われた。髪はこの年齢ぐらいまでは肩にかかるかかからない程度に切り揃えられた。」
「この幼少の女童の髪形は、前髪が目の上をさすように覆っていたことから『めざし』とか『ふりわけ』、さらには尼のように肩で切り揃えてあるため『尼そぎ』などとも呼ばれていた。」

と記述している本があるとのこと。
私は最初、尼の人形、のタイトルからして染衣を着た尼さんを想像したが、途中で挟まる昔話パートでは幼そうなお姫様が出てきている。
髪型と小さそうな体躯を見るに、彼女は髪剃を終え、尼削ぎになった童女=尼と考えてもいいと思う。


*歌詞
「なぜ笑ってると思ったか
今となってはわからないけど
その親戚は今
なぜか家の前にいる」

……【私】は顔のない尼の人形を、笑っていると思った。のであれば、尼の人形と対峙した回数は二回だったのでは?と想像できる。

一度目の際には完全の状態だった尼の人形を見、二回目では顔の(MVの人形は首から上が無いので、首から上がぽろっと欠けたのだろう)欠けた状態の人形を見ているのだ。そして、現時点では、一回目の記憶が【私】には何故か無いのである。
 
今となっては、ということなので昔の記憶を思い出している【私】。
では何故思い出したかと言うと、その親戚が家の前に居るから。
訪ねてきたのなら、玄関を開けて“目の前に居る”、となりそうなので、【私】は家の中からインターフォンのカメラもしくは扉のスコープ越しに見ていると思われる。つまり室内に居る。親戚ならば、急な訪問であったとしても怪訝に思いつつ家の中に招き入れるだろう。招いたら、まず茶を振舞おうとする。
訪ねて来た親戚が、無防備に背中を向ける【私】の背後から襲う事は容易いし、長居するなら隙を見て薬を盛ることもできるかもしれない。
ところで、なんとなく無意識にだが、【私】は女で遠い親戚は男だと思っていた。もしかしたら考察に響いてくるかもしれないのだが、一先ずその性別で話を進めていく。
 


*歌詞
「お姫様は赤い指をなめて
けらけらと笑い白目むいた
鳥も鳴かぬ昼下がりの庭に
輪になり歌うたうたくさんの子供」

……昔話パート。
ぱっと見たら明らかにお姫さまの気が触れている。困ったが落ち着いて考えよう。
赤い指は単純に指が赤く染まっているとする。となると、連想できるのは血か赤い液体がついている状態だ。

お姫様はどうして様子がおかしいのか?

お姫様は直後に指を舐めているので、最初に考えたのは爪を噛む癖があるのでは?という事。爪を噛むと深爪になっていくが、それでも噛み続けたら血が滲んだりするだろう。その赤い指を舐めているパターン。それで白目をむいて笑っているのなら、最初から精神状態に異常を来していると思っていい。
だがそうは問屋が卸すものか。 
赤い液体がついていた場合も考えよう。


赤い液体の場合だと、お姫様が庭などで赤い実を摘まみ取り、潰れた拍子に指が染まる。その指を舐めて気が触れた……つまり何かしらの毒が回ったパターンが考えられる。
でも平安時代からあって、毒性があり、潰したら赤い液体の出る実をピンポイントで調べるのが難しい。
白目を剥いて笑っているように見える症状が出る毒性があり、古くから存在していて、赤くて毒性のある実というだけならイチイくらいしか思いつかなかえった。潰したら赤い汁が出るのかどうかは私のサーチ力では分からなかったが。

もしくは、赤い指というのが比喩で、花弁に塗れた指、という無理矢理の解釈なら彼岸花も当て嵌められると思う。二番で【私】が赤い八重の花を持っているシーンがあるので、正直お姫様が花の毒にやられた、という繋がりの方が綺麗かなと思う。
しかし、イチイの実を食べてしまった説の方がこじつけやすい。
画像は調べて見てほしい。見事に赤い実である。
 

まず、イチイは実(正確には種部分)に強い毒性があり、食べると嘔吐、悪心、めまい、腹痛、呼吸困難、筋力低下、痙攣、最悪の場合は死んでしまう。
痙攣、という症状があるが、「けらけらと笑い白目むいた」は、全身をがくがく震わせる様が腹を抱えて笑っているように見え……たかもしれない説だ。
彼岸花は全ての部分に毒があり、これも症状に痙攣がある。彼岸花を生けた花瓶の水を飲むなというくらいだ。手折った彼岸花から出た汁が指に付着し、それを舐めてしまう……というのも子供ならするかもしれない。


*歌詞
「かわいいひめさんなにしとる
くちをほうぽりわろうとる
なにがそんなにおかしいか
なにがそんなにおかしいか」 

まず、「くちをほうぽり」である。
ほうぽりって何?知らんのですけど……。
最初に聞いた時は、ぽっかり、の類語かと思ったのだが、もしかしたらあながち間違いでは無いかもしれない。検索を掛けたら一件だけそれらしきものがヒットした。

コロモーという質問サイトで、「ほおぽるって何?」という質問があり、それに対し、「口をぽっかりとあけるの古い言い廻しです」と答えている方がいた。
回答者の方は、自分の地元だけで使われている言葉だったのかもしれないが、そんなに口をほおぽっとると墹伎の狸に舌ぺら引っこ抜かれるど、とご老人達に言われていたそうだ。
ただ、墹伎、でも墹伎の狸、でも検索エンジンには引っ掛からなかったのでどこの方言か分からなかった。だが、人間の舌を抜いて食べ、人語を喋る狸の話は福島県にあるらしい(出典:タヌキの幻術と日本人 著:篠原 拓也 氏)。
とにかく、この方の回答を使わせていただくと、お姫様はぽっかり口を開けて笑っていると推察できる。

幼いと思われるお姫様が、綺麗な赤色の実を見、美味しそうだと摘まみ、口に入れるのはおかしくないだろう。摘んだ拍子に潰れて垂れた汁までしゃぶり、小さい実を種ごと噛んで飲み込んだ。
するとたちまち毒が回り、全身を震わせ白目を剥いて痙攣し、呼吸困難で必死に息をしようと口を大きく開けている情景を、何も知らない子供たちが遠目にでも見れば……何がそんなにおかしいのか、と思う程、笑っているように見えるかもしれない。
 

 

二 記憶の夏


さて、倫理観はしっかり捨ててもらっただろうか。
それでは二番からラストまで宜しくお願いします。

*歌詞
「かび臭い一畳間で
浅い眠りから覚めていく
私は九歳の夏に
消えた妹を思い出してた
 
彼女は目元に小さな
ほくろのあるかわいい女の子
思い出した
彼女がいなくなったのは
親戚の家だった」

【私】の記憶と妹

……誘拐されてますよこれは。
私の想像力ではそれ以外に説明が付かない。完全に、家に来た遠い親戚に誘拐されている。
一畳間、と聴いた際、随分狭いスペースだが逆になんなんだそこ、と思った。かび臭いとあるので物置かと思ったが、もしかしたら押し入れかもしれないと考えた。
調べてみる。一畳=畳1枚。畳1枚は人が一人寝そべって足りる面積らしいのだが、約182cm×91cmとのこと。押入れで一般的に多いサイズは間口が一間(約182cm)、奥行き半間(約91cm)。柱などで実質はもっと狭くなってしまうようだが、誘拐された【私】が押し入れに監禁されている可能性が伺える。

そして九歳の夏に消えた妹の事だ。単純に、“九歳だった妹が夏に消えた”という事だろう。だが【私】の年齢が不明だ。妹とは何歳差なのだろうか。少々無理があるが、“【私】が九歳だった夏に妹が消えた”とも捉えられる。

MVの中に出てくる写真で二人の女児が並んでいるものがあるのだが、体格差がそんなに無いように思えるのだ。ややこしいので、妹のほうが成長が良かったという可能性を抜けばつまり、年齢差があまりないか、もしくは双子と考えられないだろうか?
 
また、【私】は妹が居なくなったのは親戚の家だったことを思い出している。それのトリガーとなったのは、かび臭い一畳間であろう。
匂いというのは五感の中で特に長く記憶に残るのは有名な話と思うが、特定の匂いが、それに結び付く記憶や感情を呼び起こすプルースト効果というものがあるようだ。
忘れていた妹の記憶を思い出させたのがかび臭い一畳間=押し入れならば、妹が居なくなった当時、【私】は同じく押し入れに入って同じ匂いを嗅いだのかもしれない。
 
「彼女がいなくなったのは親戚の家だった」

この歌詞はそのまま素直に考えていいのではないか。遊びにきた田舎で行方不明になったのではなく、家の中で居なくなった、という捉え方だ。
【私】が押し入れに入っている最中に妹が居なくなったとすれば、状況的に一番在り得るのは、”二人はかくれんぼの最中だった”。
隠れる場所を探している内に、尼の人形を目撃したという事である。

それで少し、ん?となったのがMVで、「彼女がいなくなったのは親戚の家だった」と歌い終わりで暗転する際、中央に置かれた尼の人形がうっすら透けて別の形になるのだ。
私は動画のスキルはさっぱり無い為、これが意図的なのかフェードアウトするように暗転させるとこうなってしまうのか不明だが、最初は首が無く、着物を着ている人形に見えていた中央の人形が、暗転する際に両肩と袖が薄く消え、帯より下の胴体から裾?(高さ的には膝立ちしているように見える)までがはっきり残る瞬間がある(動画の1:49あたり)。

というか全体にうっすら女の顔映ってない?

この瞬間が、“頭に布を被せられ、両腕を後ろに回し、胴体と両腕を縄でぐるぐると縛られて正座をしている女児の姿”に見えた。
帯だった部分が頭になると必然的に全体が縮むので、ぐんと身長が低くなる。
遠い親戚が、一人でいる妹に何かをしようとした、もしくはした、という仮定の話だが。
まるで【私】の妹が、暴れたり騒いだりしないよう────もしくは死体となった姿を誰かに見られないよう、厳重に包まれているかのようだ。人形の如く。

*歌詞
「お殿様はいつか案じられて
娘を寺に出すことにした
敷き布が赤く濡れる夜半に
すべての秘密があふれだす」

皆大好きだね、の昔話パートである。
平安時代の貴族の出家の動機だが、遁世(世間から逃れる)の方法の一つであったようだ。娘=お姫様とし、一番で前述の毒物を摂取してしまった説で進めていく。

例としてイチイの実をあげたが、これが他の毒性がある植物ならどうだろう。人目を憚らなければいけない程の、もしくは世間体の悪くなってしまうような後遺症が残ったとしたら?

全ての秘密とはなんなのか?

後半の歌詞を考えると、これは月経の訪れか流産だと思えてくる。敷き布が赤く塗れる、ということだから単純に血が流れた筈だ。そして、赤に染まる色の敷き布……つまり赤色以外だと捉えられるのだが、平安時代の出産は、産室の中を全て白に(産婦や次女も白衣になり、屏風すらも白画にする)誂えていたそうだ。
そして、「すべての秘密があふれだす」……これは月経というより出産の方がしっくり来る気がする。全て、と複数系なので、血以外の何かがお姫様の内から出て来たのだろう。
 
全て。
血と、胎児だった場合。
 
これを秘密と言うならば、後遺症により胎児が奇形などの一目で分かる何かを抱えて生まれて来たか。
もう少し飛躍すれば、まだ腹が薄い状態で流産して、血と共に胎児が生まれ落ちたかだろう。
 
ここから更に、強めの想像と連想を交えて話したい。
 
お姫様が過去に毒性のある植物を摂取してしまった説が絡んでくるが、もしこの後遺症により、お姫様が妊娠できない身体になっていたらどうだろう。……今昔物語にも毒を飲んで流産した話があるようなので、平安時代から堕胎の方法として毒が用いられていた歴史がある。
もしお殿様が、毒の後遺症により妊娠の出来なくなった娘を案じて出家させたとしたら、お姫様が流産するのはおかしいのだ。だが、毒を摂取したお姫様と出家したお姫様は別人であったならどうだろうか。例えば双子であったなら?
 
平安時代がどうだったのか寡聞にして知らないが、双子が生まれたら差別的な目で見られる時代があったのは有名だろう。
片方を養子に出したり、産まれていなかったことにしたり、生まれ落ちた瞬間に息の根を……なんて色々あるが、この場合、誰かがお姫様たちを入れ替わらせて出家させた、そういうことは在り得ないか?
双子の内の一人は、周囲に存在を洩らさず生かしていたとしたならば話は早い。出家先の人間はお姫様の普段の様子など分からないだろう。入れ替わりには気づくまい。
出家する前に妊娠していなければ成立しないが……更に話を飛躍してこじつけてみよう。
 
双子を姫A、姫Bとする。便宜上両方を姫と呼ぶが、片方はもっと身分が低くなるだろう。そして、姫Bの方が立場的には弱い方として話を進めていく。

姫Aがある日、毒を摂取する。後遺症が残り、どれくらいの月日が経った後か不明だが、遁世のために殿様は愛娘を出家させることにした。
だが姫Aが結婚を控えていたらどうだろう。
幸いにも顔が同じ二人。その為、毒を摂取して子を埋めなくなったのは姫Bだった……という事にして、姫Aと入れ替えた。

しかし、都合のいい道具扱いをされた姫Bとしては許せない。
だから彼女は、姫Aと更に入れ替わった。姫Aが共犯にならないと難しいが、姫Aが婚約者を本当に愛していたなら利害は一致するのではないか。
更に、己は出家と言う形で逃げられる。斯くして姫Bは表向き姫Aとして寺へ行ったが、実は既に妊娠しており、寺で流産してしまう。
胎児が産まれたことにより、入れ替わりが暴露される(わらべ歌にまで残されてしまう)。
これが溢れ出した全ての秘密だ。そして姫Bはそのまま命を落とす……。
 
かなり無理矢理だが、【私】と妹が双子だった場合を考えると、この仮説なら現代と昔で話の繋がりが産まれる……かな?と思う。


*歌詞
「頭の奥に深く押し込めた
記憶が次第に色を帯びる
森に切り取られた歪な空
吐き気のするワゴン車のにおい
私の手に真っ赤な八重の花
一畳間はいつかあの日の午後
買ったばかりの靴でころがした
顔の目元には小さなほくろ」

……ここはもう正直、どう考えても分からないので一気に想像を膨らませて行こう。

【私】は、行方の分からない妹を探して森に入ってきたと考える。双子説のまま進めるので、この時点で【私】の年齢は九歳だとしてほしい。探しに来たと言っても、幼い子供一人で森の奥にまでは行けないだろう。
少し開けた場所にやってきた頃、【私】は近づいてくる車のエンジン音を耳にする。子供だけで森に入ってはいけないと周りの大人は言う筈だ。見つかったら叱られると、咄嗟に隠れるかもしれない。
 
森にもある真っ赤な八重の花……なのだが、顔の無い尼の人形から連想できるのは椿だ。
椿は首から落ちる。尼の人形は首から上が無い。どことなく関連がありそうだ。しかも椿には八重の品種がある。

【私】が隠れ場所に選んだのは、間近にあった椿の重なり合う葉の中だ。大きい椿の木が重なって生えていると、枝の先が枝垂れて地面まで覆い、足元まで容易に隠れる。
間一髪のタイミングでワゴン車がやってきた。すぐ前で停車し、吐き気のするエンジンの臭い(ワゴン車の臭い、というとちょっと違うので無理矢理だ)が葉の間から染み入ってくる。茂みの奥で蹲る【私】の手に椿の花が触れている。
【私】はこの時、妹の死体が遺棄されるのを見たショックで妹の記憶を封じ込めたと思われる。
 
次だが、場面転換が挟まってくるので『ここで時系列が戻っているのでは?』と考えた。
「私の手に真っ赤な八重の花」
……ここまでは上記に記した、遺体遺棄目撃の過去。つまり妹が親戚の家で居なくなった九歳の夏。
 
「一畳間はいつかあの日の午後」
……ここで時系列が更に戻る。妹が消えた時のことを思い出し、芋づる式に別の記憶が蘇った。あの日、というのは九歳の夏より更に昔の、古い記憶を思い出しているのでは?とする。
 
「買ったばかりの靴でころがした 顔の目元には小さなほくろ」
……この顔だが、目元のほくろは妹のチャームポイントである。だがそれは一旦横に置いておいて、幼女が転がせる頭とは?転がす事になった状況はどんなものか?を煮詰めていこう。
 
 
ここからが自身でも整理がつかないので、まず三つの仮説を記載する。
この三つ全てにおいて、遠い親戚が尼の人形に対して、恐ろしいほど逸脱した執着心を持っている前提の話である。

【仮説1】

遠い親戚が計画的に妹を殺害。殺害理由は首、もしくは身体が必要だったため。この時、【私】が目撃した尼の人形は顔があった。
→【私】がその人形を壊し、首が取れてしまう。買ったばかりの靴で転がし、川や縁の下、山などに捨てて隠蔽(人形の頭なら小さく、幼女でも片足で蹴飛ばして転がせる)。罪悪感により記憶の欠如。
→二度目に目撃した尼の人形は顔が無い。人形の顔の代わりに使うため、一緒に来ていた妹を遠い親戚が殺害して首を持って行った。死体の遺棄現場を見たショックにより妹に関する記憶の欠如。
 

【仮説2】

遠い親戚が計画的に妹を殺害。殺害理由は首、もしくは身体が必要だったため。この時、【私】が目撃した尼の人形は顔が無かった。
→長い年月の間で失われたか、入れ替わった双子を供養するために作ったものと捉えられるため、敢えて首から上が無い作りだった。遠い親戚は人形のことを調べ、元々が双子、幼い女児、ということを突き止め丁度良いと妹を殺害。無い頭の代わりにした。
→【私】が一番冒頭で歌っている尼の人形は一度目に見たもの。二度目に目にした際(妹はこの時行方不明になっている)笑っている表情の妹の頭が添えられて、もしくは親戚が隠していた切断後の頭を見ており、ショックで妹の記憶を失う。笑っているという印象だけが残り、顔の無い尼の人形と無意識に記憶を結ぶ。
 
 

【仮説3】

遠い親戚が無計画に妹を殺害。殺害理由は首、もしくは身体が必要だったため。この時、【私】が目撃した尼の人形は顔があったが、同時期に無くなった。
→親戚が人形の顔を無くしてしまったため、代わりとなるもの、つまり妹か【私】の頭を使おうとした。
→かくれんぼの最中に捕まえられたのが妹で、私は助かったものの死体遺棄現場を見てショックで記憶があやふや、妹に関する記憶は失った。


取り敢えず三つ仮説を立てたが、仮説3は難しい。何故なら自分の家で子供が居なくなったら、真っ先に疑われる可能性が高いため、犯行の証拠隠蔽や死体処理などが咄嗟には難しいからである。やるなら事前に色々と準備をしていたに違いない。
大人たちが居なくなった子供を探すのは当然なので、死体の隠し場所は事前に用意しておかねばならないからである。
【私】が死体を見たのは森の中と思われるので、穴でも掘ってあったのではないだろうか。
なので、仮説3は除外する。
 
 
まず仮説1だ。
【私】が九歳より前に親戚の家に来た際、尼の人形を誤って壊してしまう。怒られると考えた彼女は、頭をどこかへ捨てて事実を隠ぺいした。人形の頭なら小さいので、幼女でも蹴り転がせる筈である。この場合、人形の顔の目元にほくろがあったという事だ。
そして、【私】の妹にも目元にほくろがある。ほくろは生まれた後で出来るので、【私】には無くて妹だけにあったのならば、彼女がそれをチャームポイントとして強く覚えているのはおかしくない。何せ同じ顔なのに、そこだけが違うのだから。
そして、これがバレない内に彼女は親戚の家を後にした。

さて、親戚の方は一大事である。【私】たちが帰った後、どこを探しても人形の取れた首が見当たらない。隠していた人形が勝手に壊れたとは誰も考え辛い……子供が壊した可能性にすぐ思い当たるだろう。
ここで、遠い親戚が普通の人間でなく、異常性を孕んだ人格の持ち主であったと考える。
尼の人形に対して、己の子供へ向ける深い慈しみのような、もしくは心から愛している恋人へ向ける感情と同等のものを持っていたとしたら。
 
人形の顔には、ほくろがあった。そして遊びに来ていた双子の内片方は、都合よくも同じ位置にほくろがある。この時、親戚の中で“人形を壊した犯人の顔を奪って取りつけ復讐する”よりも“元々の顔に近いほうを付ける”の方が優先度が高かった。
その為、九歳の夏にまた訪れた双子の内、妹の方を殺害して首を奪った。【私】は首を盗られた妹の死体に、自分が昔に壊した人形が原因だと直感し、ショックと罪悪感で記憶を失う。
どれくらいの月日が経ったか、今度は【私】を親戚が誘拐した。理由は、妹の首が駄目になったから、今度は犯人の首を代わりにしようとしたのではないかと考えられる。
 

 次は仮説2である。
親戚が妹を襲った動機だが、ここで最初の方に記載した平安時代の子供の髪型について思い出してほしい。
『男女とも五歳から九歳頃までのあいだに『髪剃』と称し、それまで伸ばしていた髪の毛先を切り揃える儀式が行われた。』
『尼のように肩で切り揃えてあるため『尼そぎ』などとも呼ばれていた。』
 
五歳から九歳頃なのである。尼そぎをするのは。
尼の人形=お姫様であり、人形が九歳の頃を模していたとしたら。

そしてこの親戚が尼の人形に対し、仮説1に記載したように逸脱した執着心を持っており、『顔が無いなんて可哀想だ』『この人形に頭があったらどんな姿だろうか』そんな事を強く、強く考えていたら。
そんな日々を過ごす中で、丁度良く、尼の人形のモデルと同じく双子の姉妹が己の家にやってきたら。
九歳の幼女の頭をくっつけたら、丁度良いとは思わないか。
 
 

ただ、この仮説だと「買ったばかりの靴で転がした」の説明が付かないので、最終的には1番を推したい。
 
……とはいえ、茶箪笥の大きさからして人形のサイズはかなり小さい。
最初から首が無くても、人形の全高は棚の中に入る大きさ(20~30センチほどだろうか?)と思われる。九歳女児の体格には合わないのだが、親戚にとって大事なのは、『人形に顔がある状態』だったとすればおかしくない。
首そのままを使うのは腐乱もあるし難しいが、剥製や干し首という文化が世界にはあったので……干し首はかなり大きさが縮小されるらしいし。だが、長期保管できる加工を完璧に行うなど素人が出来る訳が無い。その為、遠い親戚は次に【私】の首を使おうとしているのではないか、という説だ。

 
歌詞
「とのさんまいにちなきはらし
おなじことばをしゃべっとる
なにがそんなにかなしいか
なにがそんなにかなしいか」

……さて、最後の昔話パートである。
わらべ歌は戒めの意が込められている場合もあると聞くので、これはお殿様の失敗を戒めとしているのではないかと思う。

娘Aを出家させようとしなければ……娘Bの策略に気が付いていれば……何かしら対策はとれたかもしれないが、自身の子供である姫A、姫Bの入れ替わりにまんまと騙されたのだ。
覆水盆に返らずだか枝を撓めて花を散らすなんだか、何かしらの戒めを込められていそうなわらべ歌だ。
お殿様が繰り返しているのは嘆きか謝罪だろう。尼の人形はこの時に供養の意味で作られたのではないかと思う。
 
 
最後に、MVの最初にある「ある女性の手記より その顛末、この歌に記す」の文について。
つまり後から第三者の手により後から手記が発見されている。【私】は死んでいる可能性が高いだろう。
 

以上です。
ここまで読んでくださった酔狂な方、長々とお付き合いありがとうございました。
 
 


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