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あるこう、歩こう、わたしはげんき。

 歩くことは大変シンプルな身体の運動で動作で、生まれて1年ほどすると、大抵のお子はおぼつかないながら「一人歩き」ができるようになる。わたしは1年半かかりましたけどね。あ、あと長男も。
 あまりに当たり前かつシンプルゆえに、「あるく」ことがどれほど素晴らしい運動であるかは意外に知られていない、と思う。
・有酸素運動 これは言わずと知れた。
・筋肉増強  人は下半身から衰えるので、歩くことで筋力維持、上手くすれば増強ができる
・心肺機能の増大 ラクしてトレーニングですよ。心臓も呼吸も一生物ですから。
・脂質異常症の改善/糖尿病の改善 どちらの病も、お薬の前にまず運動量の見直しをするくらい歩くことが大切です。   
・血圧を下げる トクホを飲むよりも、歩いた方が血圧は確実に下がります。
・癌予防/認知症予防 100%の予防とはいきませんが、歩くと確実にリスクを減らせると言われています。

どうですか。ざっと揚げただけでもこれだけの「良い点」がある。(実際、毎朝欠かさず孫を学校の途中まで送って行くうちの母など、もう八十なのにツヤッツヤでぴんぴんしている。絶対、歩いてるからだ。)しかし、現代社会ではこの「歩く」が意外に難しい。特に、田舎が。
 よく「一駅早く降りて、残りを歩きましょう」とかいわれているが、そもそも電車やバスが一時間に1本も走っていなかったりする。目的ルートをカバーしていないこともよくある。そこで車に乗る。車は便利、どこにでも行けるね!ただし、車に乗ると家から目的地までドア・トゥ・ドア。はい全然歩かない。
 買い物も楽になった。コミックの「サザエさん」を読むと、彼女たちは「買い物カゴ」を提げて魚屋さんとか八百屋さんを巡り、店先で店主と話をし、時々魚を咥えて走り出す猫を追いかける。よく歩く。振り返って21世紀の我々は?大きなスーパーやホームセンターに行ってそこで全部を済ませてしまう。

 わたしは地方都市の小さなクリニックで、地元のお年寄り(大半が女性)を相手になんでも健康のご相談に乗りますよ、な診療をしているから「歩きましょうよ」のおすすめを無限に繰り返しているが、
「歩くことないのよねえ」「歩くのはしんどいわ」「もう歩けん。」
動詞「歩く」の活用形のような返事と戦っている。そして、一昨年オトウサンの介護をしていた女性が去年オトウサンを見送り、今年はご自分の足元がおぼつかなくなっているのだ。

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 歩けなくなってしまう前に、一生歩くための筋肉と、骨と、心肺機能と、あと認知機能をちゃんと備えておかなあかん。そう思ったわたしは昨秋から通勤をずっと徒歩にして毎日3500歩は確保していたのだけど、この春からはさらに「回り道」を追加してもう2000歩歩いていた。
 垣根の間から見える、梅のつぼみがだんだん緩んで花が咲くさま。曲がり角のおうちの塀の上から覗くバラの花のグラデーション。みるみる伸びてゆくグラジオラス。気づかなかった季節の移ろいが見えてくると、曲がり角の向こうの景色が待ち遠しくて歩みも早くなる。昨日のあのつぼみ、今日は開いているんじゃないか。
 6月だと言うのに梅雨が明けてしまってわたしは慌てている。暑くて暑くて、歩けない。
 勤め先に着く頃、汗はだくだく、顔は真っ赤。スタッフが気を遣って冷房の温度を下げてくれるが、到着後15分は仕事にならない…。仕方なく通勤を自転車に変えた。さて、歩くのはどうしよう。今までずっと「1日5000歩以上」を頑張って達成してきたのに、夏の間だけそのチャレンジを止めるのは残念だ。
 昨日は、少し日が傾いてきた頃を見計らって、近所をぐるっと回る散歩に出た。小さい公園(春は桜の隠れた名所)に寄り、小さな流れの上をアメンボが滑るのを眺めた。おおきな川の土手に出て、橋をわたり、たくさん並んでいる記念碑やモニュメントを巡ってまた橋を渡り、もくもくガシガシ歩いて帰宅。通勤と違ってほぼ手ぶらだから身が軽く、古いお城の石垣を見つけたり、今まで気づかなかった「夏目漱石の句碑」を見つけたり楽しかった。碑の上に猫が乗っていてかわいい。

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 ただ、暑い。暑すぎる。そして、顔を真っ赤にしてふうふう歩いているアラフィフ女は、夕方の街にはそぐわないこと甚だしい。

 夜帰宅した夫に「今日の成果」として散歩しながら撮った写真を見せたがやはり「なんでそんな暑いときに歩くの…!」と呆れられてしまった。「あ、そうだよな、ご飯作らないといけないもんな」「夜は出歩くもんじゃなし」ちゃんとわかってくれるのがうちの夫のありがたいところだ。

 日付が改まり、今日はどうしようかなと考えている。
 実は、奥の手があって「巨大商業施設の中を延々うろうろする」これは暑い夏はもちろん、寒い冬もなかなか快適で楽しい運動プランである。ただ唯一の問題は「財布の紐を十重二重の固結びにしていないと、角を曲がるたびに「あらこれいいわね」と買ってしまう」経済問題が潜むことだ。毎日これをやっていたら、家計が成り立たなくなるだろう。

今日はとりあえず、大きなホームセンターに行く。ハムスターの浴び砂と床材がいるからだ。そして、その後方向がまあまあ同じの動物園へ行こうと思う。

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 当地の動物園は山の斜面に沿った立地で、とにかく坂道を行かねばならない。こどもたちがベビーカーに乗っていた頃は坂道を押すのが大変だったが、もう今は楽だ。それよりも「ちょっと!待ってよ!」を連発しなければならないほど。ここへ一人で行ってみよう。気の向くままにうろうろして、時々自販機で売られているニンジンスティックや鹿の煎餅を買って餌やりをするんだ。こどもたちがティーンエイジャーになってしまい、かつては毎週遊びに行っていた動物園がすっかり遠くなって、わたしは寂しく思っていたところなのだ。
 インスタやyoutubeでしか会えてなかった動物たちは、久しぶりに見たらどんなに大きくなっているだろうか。

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 窓の外は、いい天気。
 今日も楽しく体を動かそう。
 明日のプランは、明日になってから考えるさ。

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