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伝説の下宿屋

浪人と学生の時に住んでいた、高田馬場の下宿屋を訪ねた。

築80年、風呂無し便所共同、食事付きで4万円台。路地裏にひっそりとたたずむ、知る人ぞ知る伝説の下宿屋だった。

古さよりも、いくつもの時代を生き抜いた安心感に惹かれた。東京大空襲の戦火にも、東日本大震災の激震にも動じなかったのは、何か見えない力が鎮座していたからなのかもしれない。

その分、冬はすきま風が寒くて、屋根裏に住み着いた野良猫に真夜中にたたき起こされることしばしばであった。

10年前の今ごろ、ここの4畳半の部屋で正座して、合格発表を確認した。腰が抜けてしまい、一階に住む寮母さんに報告しようとして階段を這うようにして降りたのを今でも覚えている。

学生になり、飲食店でアルバイトを始めてから、風呂無しなのがとても不便に感じるようになり、後ろ髪を引かれるように退去してしまった。それから一度も足を運んでいない。

今は取り壊されて立派なマンションになっている。伝説の下宿屋は、過去の幻になった。

当時撮った写真がいつの間にか無くなってしまったことが悔やまれるが、生きている限りここで見た光景は、何があっても忘れないだろう。

ありがとう、日本館。

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