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ヒップホップとロックの融合-Tamuraryo/Tokyo State of Mindインタビュー【前編】

2021年7月14日、Tamuraryoの新作「Tokyo State of Mind」がリリースされた。メロウでうっとりするような歌声、控えめに鳴らされるギター、ゆったりと心地良いビート...レイドバックした音に乗せて東京での生活を歌った作品だ。今回は「ヒップホップとロックを融合する」新たな試みに取り組んだというTamuraryo。新作「Tokyo State of Mind」について聴き所や制作背景を聞いた。
(Interviewer: SABU)

【プロフィール】
Tamuraryo(タムラリョウ)
アメリカ(コネチカット州)出身。帰国後、茨城県で育つ。2019年に初のソロアルバムをリリース。現在、ソロ、バンド両方でアーティスト活動を展開する。2021年7月14日、ニューEP「Tokyo State of Mind」をリリース。

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ーーこんにちは、1年ぶりのインタビューですね。今日は新作EP「Tokyo State of Mind」の聴き所とともに、製作の裏話などもお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

アルバムのコンセプトと製作の経緯

ーーでは早速。今回のアルバムのコンセプトなどありましたら教えてください。

コンセプト?コンセプトとかは特にないよ(笑)。無理やり後付けで言うなら、タイトルの通りTokyo State of Mind=東京にいる時の気分がコンセプトかな。この4曲にしようって決めた後に「何てタイトルが良いかな?」って考えてたら、全部東京に住んでる時の気持ちについての歌詞だって気づいたんだ。それでTokyo State of Mindってタイトルにしたよ。

ーー作ってる最中は特にコンセプトなど意識していなかったんですね。

そうだね。自分のボーカル曲を出すのが2年ぶりくらいで、コンセプトをしっかり固める...というより、作るので精一杯って感じだった。実際曲の並びを見ても1.ポップス→2.英語ラップ→3.日本語ラップ&歌→4.ビート&歌って感じで、人によってはバラバラに感じるかもしれないね。

ーーいつくらいから製作を始めたんですか?

1番古いのがTokyo State of Mindのリリックで、10年前くらいかな。それ以外はここ1年くらいだと思う。

ーー10年前!

そう、かなり昔なんだ。それまでずっとフォークとかロックとか聴いてたんだけど、その頃NasとかSlum Villageにハマってヒップホップをやり始めて。ちょうどやり始めた頃に書いたリリックだから、今聞くと古いなと思う。

ーー歌詞が古いんですか?

そう、内容も表現も古い。当時はラップって結構男尊女卑というか、人権を無視した攻撃的なのが多かったからそういう歌詞になってるんだけど、今だったらこういうのは書かないなと思う。修正できるところはしたんだけど、一部まだそういうノリが残っている部分があるよ。修正しきれなかったのは、正直自分の実力不足だね。

ーー具体的にはどの辺を修正したんですか?

リリックの△△っていうところは元々◯◯って歌詞だったんだけど、録音した後に△△って単語に差し替えてるよ(「どの箇所かはヒミツ」とのこと)。よーく聞けば音の質感でわかると思う。曲名はNasのN.Y.State of Mindから取ってる。今聴くとフローもNasっぽいなぁ。

ーーなるほど。それ以外の部分は、ここ1年くらいの製作なんですね。

そもそもビートを作り始めたのがここ1年くらいだからね。その他は全部この1年で新しく作ったものだよ。色々と試行錯誤の連続だったけど、なんとか形になってよかった。ホッとしてるよ。

ヒップホップとロックの融合

ーーふわっとした質問で恐縮なんですが、今回のアルバムはどういうアルバムなんですか?

どういうアルバム?うーん...自分としては、ここ10年くらいの取組の、最初の一歩って感じかな。ずっと取り組んできた事が、ようやく形になってきた最初のアルバムというか。

ーーどういう取組なんでしょうか。

オレは元々フォークとかパンク...まぁロックが好きで、その後にヒップホップが好きになったのね。でもその2つの音楽をうまく融合させてるミュージシャンって本当に少なくて。その二つを本当の意味で融合させるってのがここ10年くらいのテーマだったんだ。
ロックとヒップホップを混ぜた(と言われている)ミクスチャーロックっていうのがあるけど、ミクスチャーの人たちはヒップホップをそこまで真剣に好きじゃない人も多いし、ホントにただ混ぜてるだけって作品もあるんだよね。ヒップホップを混ぜたっていうより、ラップを混ぜたって感じの。
そうじゃなくて、マジでシームレスに両立させたかったんだ。どっちが母体かわからないレベルでね。

ーーなるほど。今作はその、ロックとヒップホップをシームレスに繋げる取組が形になったアルバムだと。

うん。自分ではそう思っている。

ーー聞いてて、アンビエントっぽいとこもあるし、ヒップホップやエレクトロっぽいところもあるなという感じがしました。

そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ。あー確かに、アンビエントも少し入ってるかもね。ロックとヒップホップって基本的に混ざらないから、シームレスに繋げるためには、その2つ以外の音楽も触媒にして繋げる必要があるんだ。

ーー先ほど「バラバラだと感じるかも」と言ってましたが、私は聴いてて違和感を感じませんでした。

そう?それは嬉しいな。実は自分でもあまりバラバラには感じないんだ。不思議だよね。この4曲は、例えば曲の並びを4-1-2-3とかにしたら違和感バリバリかもしれないけど、この4曲の並びで聴くと一貫したものを感じるんだ。

ーー確かにそうかもしれませんね。

テクニカルな面では、それぞれのビートが求める日本語/英語、歌/ラップっていう要素を全部自分でこなす事ができたのは大きいと思う。選択肢が広すぎて、全部自分でやってるって思うと異常者みたいな気がするのがちょっと悲しいけど(笑)。

ーー同じように日本語/英語、歌/ラップ全部やってるのはDragon Ashくらいかもしれませんね。

そうだね。あとRizeとかか。まぁDragon Ashとかは好きだけどちょっと違うアプローチのような気はするね。彼らはやっぱバンドだし、ロックだから。あくまで母体の上にミックスしていて、シームレスに溶けてる感じではないと思うな。個人的には、歴史上この2つを真に融合させたのはPortisheadくらいだと思う。彼らはラップをしなかったけどね。

Portishead。Triphopと呼ばれるジャンルのパイオニア。

東京という街とTokyo State of Mind

ーーシームレスに繋がってるとのことですが、アルバム全体の構成はどういう感じなんでしょうか。

音的には構成とかないけど(笑)、歌詞にはある。この4曲は、1.失恋からの空元気→2.将来への不安→3.現実と理想のギャップ→4.夜になると襲ってくる失恋の後悔...っていう風に物語が流れつつ、ループしてるんだ。それらは全て、自分から見た東京の物語なんだよね。ループしてる感じを含めて。

ーー実体験ということですか?

うーん、まぁ半分くらいは実体験かな。オレは結構引越しが好きで、この10年は東京に住んでたり住んでなかったりなんだけど、なんて言うかな...東京って「夜」が特殊な街なんだよね。東京に住んでると、夜に落ち着けないし、孤独を強く感じるんだ。

ーー夜が印象深いんですね。

そうなんだよ。昼はどこに住んでても一緒なんだけど、夜はなんというか...神経の昂りが取れないみたいな感じがするんだ。このEPでは恋愛で深夜にうあーってなったり、1人でポルノサイトを見続けたりみたいな状況を歌ってて。そういう精神状態って東京に住んでないとならないんだよね。東京を出るとぱったりおさまる。

ーーなるほど。

東京に住むと起こる、特殊な心境についてのアルバムだね。いや、東京に住むと「起こった」心境かも。この一年で東京は変わってしまったから。ここに描かれている東京は、もうノスタルジーなのかもしれないね。今は自分も少し離れたところに住んでるから、詳しいところは分からないけど。

ーー今作にはゲストは参加していますか?

1曲目のI Don’t Need YouはKawai Jazz千葉くんと小松くんに参加してもらってる。小松くんは4.Love is hellでもベースを弾いてくれてるよ。

ーー前回インタビューした時と同じゲストですね

そう、引き続きのゲストだね。二人ともホントに上手いし、何よりセンスが最高だから今回も滅茶苦茶楽しかったよ。小松くんは完成版聞かせたらあんま気に入ってなかったみたいだけど(笑)、Tamuraryoさんの好みならこれで良いですよって言ってくれて。優しいよね。でもオレは彼らのセッションには呼ばれないんだ(笑)。

ーーサウンドとしては、この1年にリリースした作品の延長線上という感じでしょうか。

サウンド的にはそうだね。実務的には、今回はボーカルが入ってて去年よりずっと難しかった。ボーカルが入ってる曲のミックスはインストの1000倍くらい難しいのよマジで。3月にシンガポールのVivien Yapさんとコラボ曲を出したんだけど、それが良いクッションになって何とかリリース出来た。ボーカルのレコーディングはかなり難航したよ。

Vivien Yapとのコラボ曲"Horoscope"。Spotifyにてアジア9ヶ国でプッシュされるなど、国際的なヒットとなった。

音質だけではない、ボーカルの「バイブス」

ーーそうだったんですね。どう難航したんでしょうか?

今回は全曲スタジオでボーカルを録音して、それを家でミックスしようと思ってたんだけど、上手くいかなくて難航した。歌はそこそこ大丈夫だったんだけど、ラップが全然ダメで。スタジオでうまくラップ出来なかったのよ。なので、ラップパートは最終的に全部自分の部屋で録った。

ーー???それはどうしてですか?

スタジオみたいな他人がいる空間だとうまくラップできなかったんだ。音質以前の問題だね。家で1人じゃないと、ラップできる精神状態になれなかったんだ。

ーーなるほど。なら歌はスタジオ、ラップは家ということですか?

うーん、歌も曲によりけりだね。1曲目と3曲目はスタジオで、4曲目は家。

ーーなぜ4曲目は、歌なのに家にしたんですか?

やっぱり、スタジオでうまく歌えなかったから(笑)。ラップと同じでメンタル的なものかなぁ。何というか、曲のバイブスによっては家じゃないとうまくハマらないんだ。ただでさえボーカルのミックスは難しいのに自分の家の貧弱なマイクで録音したからキツすぎて泣いたよ(笑)。

ーーへー!「曲が求めるバイブス」に合わせて、レコーディングの場所を変えているんですね。

昔からバイブスは気にするタイプなんだ。繊細な性格だから(笑)。オレはADHDなんで普段は足の踏み場もない滅茶苦茶汚い部屋で録音してるんだけど、その汚い部屋じゃないと出せない音みたいなのがあるんだよね。綺麗なスタジオでこの曲を録るのはFakeだろみたいな(笑)。

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送られてきた部屋の写真。カオスを感じる

ーーなるほど...そもそも「バイブス」ってなんなんですか? 波長や波動ってことですか?

え?そこ?(笑)。うーん、急に言われるとなぁ...まぁ文脈によって意味は3-4種類あるんだろうけど...今回のは、日本語で言うなら「ノリ」かな。曲によって、汚い音のボーカルが欲しかったり、キラキラしたボーカルが欲しかったり、曲が求めるボーカルの質感みたいなのが違うんだよね。それをバイブスって表現してる感じかな。それは音質面/歌い方(パフォーマンス面)どちらにもあるから、最適な場所/歌い方で録音したいんだ。
元々反社会的で怒りに満ちたような音楽が好きだから、家で録音するようなバイブスの曲が多いってのはあるかもね。

ーーなるほど、よくわかりました。今「怒りに満ちた」という表現がありましたが、今作にもそういう部分はあるんですか?前作は「音楽は趣味事件」がありましたけど。

うーん、今回は特にないかな(笑)。あくまでスパイス程度というか。エンジニアさんも変えたしね。ケロスタのフジキさんて方で、凄く穏やかで良い人なんだ。腕も意思疎通もバッチリで、気持ち良く作業したよ。正直な話「音楽は趣味事件」も、今言われるまで忘れてた(笑)。

ーー思い出させてすみません(笑)。

あれからかなり聴かれるようになったから、そういう事言ってくる人も減ったね(笑)。ただまぁ音楽には反映してないけど、社会に対する怒りみたいなのは全然減らないねぇ。特に今の学生、中でも大学生は不当な扱いを受けていると思う。小中高みんな通学してるのに、大学がリスク取りたくないからずっとzoomで授業受けてたり、飲食店バイトが減ってるのに支援を受けられなかったりね。自分の目に見える範囲では、なるべく支援できるように気をつけてるよ。

後編へ続く


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