ときめき入社時研修

お掃除系の会社に就職した。新卒入社。浪人も留年もせずに専門学校を経ての社会人1年目だから20歳。入社試験も一発合格。内定率100%。人生安泰。だが、入社時研修でやらかしてしまった。

電話の受け答えがこんなにも難しいとは。研修担当は総務部のおばちゃん。年齢不詳。後で知ったけど、そこそこ偉い人。

疑似的な電話セッションがお題。落ちの無いコント。台本通りに進めればクリアできるビジネスマナー研修。

けれども頭は真っ白。緊張とテレでセリフも飛んだ。役の設定もめちゃくちゃ。電話しておいて「お電話ありがとうございます」って、どういうこと?

おばちゃんが美人なわけでもない。もちろんかわいくもない。それでも緊張した。突き刺さる周りの視線。からの憐みの眼差し。死線を彷徨う僕の声。吹き出る冷や汗。できない子のキャラ設定が完了した。

ここで終われば面白いやつで済んだものの、まだまだ続く入社時研修。5日間は長くないか?。そんなことを話せる同期はいない。友達つくるのむつかしい。

ご飯も1人かと思いきや、誘ってくれた2人組。自己紹介はしたけど、次の瞬間に名前は飛んだ。大きい兄ちゃんとノッポの兄ちゃん。名前は覚えられなかったけどありがたい。捨てる神あれば拾う神あり。5日間は長いことも共感してくれた。

研修のワークショップが不安でしかなかったけど、お友達も出来て一安心。2人の兄ちゃんと組めば楽しめるはず。なんて思っていたら会社都合の2人1組に。

お相手はきれいなお姉さん。同期だけれども、おそらく年上。『お互いに質問し合ってくださーい』。合コンか?

担当のおばちゃんの声のトーンも何かおかしい。『出身地は?』。いろいろとお姉さんに聞いていく。『学校はどこですか?』。正直興味ない。『5日間は長いですよね』。話がとまる。『ご趣味は?』お見合いか?

これを聞かれた僕は「ゲーム」と答えてしまう。それだけならいいが、なにを思ったか、濃いオタクと思われたくなかったのか、聞かれてもいない言い訳を次から次へと。

やっぱりきれいなお姉さんにはいいかっこしたいしね。電話の研修では自爆したけど。そんなこんなで質問タイムは終了。

『相手から聞いたことを発表してくださーい』。なんですと...。聞いてないよ。と、周りを見れば焦っているのは僕だけ。そういえばお姉さんも、僕に聞きながらメモを取ってたっけ。

『タモツさんは〇〇県出身で...』。お姉さんの発表がはじまる。『趣味はゲームで...』。おいおい。『でも、ときめきメモリアル的なギャルゲーはやらないそうです』。きちんと紹介されたよ。

お姉さんは仕事ができる人だった。

与えられたタスクを確実にこなしていく。それにくらべて僕はどうだ。ゲームが趣味でもいいじゃないか。ギャルゲーしててもいいじゃないか。

あんな言い訳しなきゃよかった。変にこじれてしまった。オタク全開だし、電話もできねーし、発表も何言ったか覚えてねーし。完全に出遅れた。

やらかした。キャリアにはもう乗れない。こうやって差が生まれていくのだろう。

まだ入社式前だけど。でも、いいんだ。どうせ、同期とはほとんど会わないし。いろんな事業所へ振り分けられるから。そこに入社時研修時の僕を知るやつはいない。これを乗り越えれば楽しい社会人生活がまってるはず。がんばれ自分!

いちおう言っとくけど、この物語はフィクションです。

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