フライパンが焦げついた

医療系の研究施設で働いている。仕事場では独りだ。おまけに暮らしも独りである。自炊にも慣れてきた。初心者の域は脱して、初級者になったと思っている。困りごともレベルアップした。フライパンが焦げつくのである。

何処かで聞いた話だが「男の3大手料理」というものがあるらしい。チャーハン、カレー、手打ち蕎麦。これらの品目は自炊というよりは週末の趣味としての面が強いと思われる。だがしかし、料理系男子である僕にとっては避けては通れない品目でもある。故にまずはチャーハンを会得することにした。

チャーハンは"手際"だ。少々味つけがブレても構わない。とにかく"手際"が命の料理だと思う。その手際を支えるのは準備だ。しっかりとした準備が慣れない手際を助けてくれるだろう。洗い物が大変になるが、すべての食材を皿に乗せておいた。調味料もだ。しかも計量済み。さしずめ料理chのよう。もちろん使う道具もすべての出しておいたのである。

フライパンに油を入れて、煙が立つほど熱する。そこに溶き卵を入れた瞬間からスタートだ。間髪入れずにホカホカごはんを投入。オタマで潰しながらフライパンを振る。

"鍋振り"のコツは質量を感じることだ。自身の体や道具、車の運転もそう。"使い方"のコツは共通している。質量を感じとり、それを無理なくコントロールするのだ。それは料理における鍋振りも例外ではない。鍋と食材の質量に感覚を集中させる。考えるな、感じろ。それが鍋振りのコツなのである。

割と上手くできた。味も悪くない。さすがレシピ通り。ただフライパンが焦げ付いてしまった。そう、僕のフライパンは鉄製なのである。道具としてはめんどくさい。売り場を見ても、フッ素樹脂加工されてるものが標準なのであろう。でもあえて鉄製のものにした。そちらの方がおもしろそうだったからだ。

便利でお手軽な料理を目指すなら、コンビニの弁当に勝てるものは無い。中途半端な”便利”を手に入れたところで、空いた時間をスマホのゲームで潰すのがオチ。それなら鉄製のフライパンで遊んだ方がいい。時間を潰せて、料理にありつけて、クリエイティブ欲求も充たされる。一石三鳥。非効率な選択に見えるが、実は効率的なのである。

それにしてもフライパンの焦げつきはひどい。あまりにも困ったので人に聞いてみた。僕は草野球部の幹事を務めている。我がチームの選手層は厚い。焼肉奉行もいる。その者に聞いてみた。

どうやら鉄板は洗剤で洗ってはいけないらしい。汚れは金たわしで洗い流すのみ。プラスして使う前には、油を入れてよく熱する。すると使えば使うほど油が馴染んで焦げ付きにくくなるのだとか。

さっそく試してみた。効果は抜群だ。チャーハンを作っても何も焦げ付かない。しかも前よりフライパンに愛着が湧いた。鉄製のフライパンは成長する。すでにただの道具とは思えない。ともに戦う相棒となっていた。

他の料理でも焦げ付かなくなった。焼きそばも、お好み焼きも、餃子もだ。ますます愛着が湧く。こうなるならば、もうすこし良いフライパンを買えばよかった。

僕のフライパンはホームセンターに並んでいた一番安いもの。いや、今の僕にはこれくらいが調度いい。まだまだ僕の料理は始ったばかりなのだ。

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