マヨネーズと話した

医療系の研究施設で働いている。独り現場と独り暮らしのコンボで24時間ぼっちだ。周りは心配している。とくに会社は。おそらく利益率の高い現場なのだろう。僕が病んでしまっても代わりの者はいない。僕ほどぼっち耐性の高い者はそうそうにいないからだ。まだまだ20代半ばだが、会社に必要とされているようで大変恐縮する。

ほんとのところはどうなのか。実は寂しかったりもするのか。自覚は無いが分からない。独りでいても頭の中は賑やかだ。ずっと喋っている。だからといって多重人格者ではない。誰かに何かを伝えている感じだ。そう、このnote記事の文体をそのまま頭の中で読んでいる状態なのだ。

おそらく僕は変わっているのだろう。独りでいても何の不自由もない。きっと火星探査にも行ける。たまに実家へ帰っているが、それも寂しいからではない。草野球チームの集まりがあるからだ。それも寂しいから参加しているわけではない。幹事だから仕方なく参加している節もある。

メールやSNSも積極的には行わない。職場でも用事が無ければずっと独りだ。2週間くらい誰とも喋らないときもある。けれども至って普通に過ごしている。心の病の気配も感じられない。きっと僕は特別なんだろう。

だが心配になることが起きた。マヨネーズに喋りかけてしまったのである。「なんでここにいるの?」。自宅で冷凍庫を開けたとき、咄嗟に口が動いてしまった。これは病の前兆なのか。もちろん無自覚ではある。

対策は最悪を想定することが定石だ。この場合は僕が特別でないことを想定した方がいい。僕は普通の人なんだと。気付かないうちに心の病に侵されている。そう考えれば今の内から対策を立てた方がよさそうだ。

仕事場にいる人達は研究員だけではない。施設を管理する外注業者も常駐している。前任の主任兄さんから紹介は受けていた。寂しくなったら話においでとも言ってくれている。そこへ通うこととした。

仲良くなったのは年齢が一番近い兄さんだった。彼の詰め所を訪れるといつも新聞が置いてある。けれども読んでる姿は一度も見ていない。いつもきれいなままだ。紙面も見える。「悪魔」という文字が見えた。

僕も大人だ。全てを察することができる。かといって差別はしない。彼もそれを察したのか、遠回りにどっぷりは否定している。そんな悪魔兄さんとのお喋りは楽しかった。僕も田舎暮らしをはじめたから話のレパートリーは豊富になった。加えて以前の仕事場や野球の話だけでネタが尽きることも無い。ごはんもよく食べに行った。

悪魔兄さんはおもしろいのである。なにかとやらかすのだ。透明なガラスに突っ込んだり、雪道で車がスピンしたり。うどんを食べてて噴出したこともある。ソフトクリームを買えば一口も食べずに落とすこともあった。車も良く壊れる。鹿のアタック回数も多い。おそらく生まれつきなのだろう。それは悪魔も倒したくなるわけだ。

僕の会話回数は増えた。思っていたよりめんどくさくもない。なんならちょっと良いとも感じている。会社が心配しているといけないので報告書にも書いておいた。

懸念事項:独りは寂しいかもしれない
対策案:お友達を増やす
結果:仲良しが増えた

それ以外にも対策は可能な限り施しておいた。すこしめんどくさいことも増えたが、それとは別に何か大切なものも得たと思う。今後もそれは大事にしていきたい。人は変わる。僕はまた一歩成長したみたいだ。


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