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『トムとジェリー』全話解説を試みる。【♯1 Puss Gets The Boot】

みなさんこんにちは。髙橋多聞です。


いよいよ始まります。
『『トムとジェリー』全話解説を試みる。』


第一回は1940年2月10日公開の作品、

『Puss Gets The Boot』です。
(邦題:上には上がある)


監督はおなじみのジョセフ・バーベラとウィリアム・ハンナのハンナ=バーベラコンビ、制作はルドルフ・アイジングとこちらもおなじみフレッド・クインビーです。


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ところがクレジットにはルドルフ・アイジングの名しかありません。
ルドルフ・アイジングはトムとジェリーファンからするとあまりなじみのない名前ですが、元ディズニーのアニメーターで、『オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット』の制作に携わったり、ミッキーマウスの元となるスケッチを描いていた人だそうです。さらっとすごい人出てきた。


題名を直訳すると、「猫ちゃん、クビになる」になります。
「Get the boot」は「クビになる」というイディオムですが、単語の意味をそのまま取ると「ブーツを得る(=食らう)」になるので、蹴っ飛ばされる的な意味もあるかと。いわゆるダブルミーニングですね。


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タイトルバックの「トムがジェリーに蹴られているシルエット」はその辺の理由でしょう。たぶん。

これは日本語ではそのまま綺麗に訳せないので、内容から意味をとった『上には上がある』という邦題になったと予想されます。邦題あるある。

まあ、KISSの悪魔のドクター・ラブ』よりましですね。


本作が制作された1940年は和暦だと昭和15年。
世界史的には第二次世界大戦の真っただ中です。
日本史的には日独伊三国同盟の前夜、太平洋戦争の直前ですね。

8月にはかの有名な「贅沢は敵だ!」の看板が東京市内に設置されています。

他の有名な作品だとチャップリンの『独裁者』、アニメだと『ピノキオ』や『ファンタジア』が公開された年です。アメリカすげえな。


将棋棋士の加藤一二三さんが生まれた年でもあります。
デヴィ・スカルノ、志茂田景樹、板東英二、王貞治、張本勲も同じ年に誕生。すげえ濃い。

海外だとジョン・レノン、ブルース・リーなんかもこの年に誕生してます。

さあ前置きはこのくらいに、いよいよ中身に触れていきましょう。



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尻尾を掴まれながら逃げるジェリーからスタート。
なんだか首の骨が脱臼してそうな角度ですが、基本的にデザインは大きく違いません。トムとジェリー特有のポップさはまだ無いですね。

もっとポップじゃないのはこちら。

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お前誰やねん。
全体的にふさふさしてます。リアルネコとアニメネコのハイブリッドのようなデザインです。正直かわいくはないです。


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しばらくトムがジェリーを弄ぶ様子を見せられます。
イヤ~な感じ。トムの目がイヤ。

ジェリーを執拗に口の中に入れようとしますが、入ったところで舌で押し戻してます。ただのイヤな奴じゃねえか。


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さんざん弄ばれてジェリーはこんな感じ。たまにコンビニの前でこういうおじさんいますよね。ワンカップ持った。


そしてそれを見たトムはこの表情。

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お前本当にイヤな奴だな。

その後ジェリーの軽い報復によって、パルテノン神殿の柱のミニチュアみたいなよくわからない家具と鉢植えの下敷きになります。
ざまあみやがれ。

ちなみにジェリーが仕掛けたわけではありません。ただの神罰じゃん。


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その音を聞きつけておなじみのお手伝いさん登場。
このDVDは後のテレビ放送時に「お手伝いさん=黒人というステレオタイプはいかがなものか」という声を受けて修正されたバージョンだと海外のレビューには書いていたのですが、黒人さんのままでした。


お手伝いさんが「ジャスパー!あんたはほんとに悪い猫だね!」的なことを言いながら歩いてやってきます。


そう、ここまで「トム」と言ってきましたがこいつは「ジャスパー」なのです。
第一回製作時のみ「トム=ジャスパー」「ジェリー=ジンクス」という名前が設定されています。

このフィルムはパイロット的な意味合いがあったらしく、デザインだけでなく名前も違います。いいねぇ、パイロットフィルム大好き。マニアにはたまりません。

ちなみに僕個人の話で恐縮ですが、バンド名に「ジャスパー&ジンクス」という名前を考えたことがあるのですが、お笑い感が出てしまうのでセルフ却下した思い出があります。


さてそんなジャスパーですが、これが初めてではないらしく「あんた次やったら追い出すからね!!」と説教されています。

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見たことない顔してます。てかお手伝いさんデカくね?

指が四本しかないのは古典的なアニメの表現手法です。理由は「十分自然に見えるから」だそうです。そうかあ?


一連のやり取りをジンクスはこんな感じで見ています。

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こいつもイヤな奴かよ。他人の失敗を喜ぶタイプです。友達にしたくないですね。


お手伝いさんとジャスパーの間には絶対的な力関係があるようで、ジャスパーは怒られたとたんに急にしおらしくなります。自分より弱いやつには態度がデカく、強い者には頭が上がらない。なんだか見ていて悲しくなってきます。

そんなジャスパー、不注意で花瓶を割りそうになりますがナイスキャッチ。そりゃそうだ。次にやったら野良猫生活ですもの。こういう性格ですから、外の世界では生きていけないでしょう。


その姿を見て爆笑するジンクス。
本当にいい性格してるなお前。

笑い声は何かの楽器です(管楽器?)。BGMに組み込まれていて、ちゃんとコード感が感じられます。

こういうところが初期~中期のトムジェリ「らしさ」ですよね。スコット・ブラッドリーによる素晴らしい作曲センスを感じられます。


ここからジャスパーが追う→ジンクスが何か壊すと脅す→ジャスパーがひるむ→ジンクスが調子に乗る→ジャスパーが追う→……のパターンがしばし繰り返されます。
トムジェリメソッドですね。


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ジャスパーを出し抜いた(と思いこんでいる)時のジンクスの顔。しかしいい顔をしている。

全体を通して見ると、ジャスパーがジンクスを手玉にとっていた冒頭からアクシデントを経て、ジンクスがジャスパーを手玉にとるという攻守逆転の構造になっています。
いつもさらっと流して観ていましたが、実はこの辺り巧妙ですね。

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そして疲れ切ったジャスパーはこんな感じ。高校時代、10キロのマラソンを走りきった後の筆者みたいな顔をしています。


そこにジンクスとどめの一手。ジャスパーの手を封じた上でとんでもないところにお皿を投げます。

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「打つ手なし」を悟った瞬間のジャスパーの顔。顔芸アニメかよ。


ここでお皿の割れる音を聞きつけて怒鳴りながら階段を降りてくるお手伝いさんと、積み重なったお皿を駆け降りるジャスパーがオーバーラップするような演出が入ります。巧い。


ジャスパーはミルク風呂に入ったジンクスにタオル扱いまでされた上にケツを思いっきり蹴飛ばされ、手に抱えてたお皿をすべて割ります。
まさに「Gets The Boot」ですね。


そしてお手伝いさんの怒号とジャスパーの断末魔。

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尻尾を引きずられるという動物虐待ギリギリの行為で玄関へ連れていかれるジャスパー。僕らが知っているトムの顔に近いです。ところで、眉毛はいつの間に剃り落としたのでしょう。

さっきからお手伝いさんがトムに「O-U-T!OUT!」といっているのですが、言い方がラッパーみたいで妙にかっこいいです。


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宿敵を追い出したジェリーの素晴らしい笑顔でEnd。
嬉しすぎて首から上が180度回転しています。

一作目ということでトムとジェリーでおなじみの「人(猫・鼠)体変形描写」が無い分、こういうところが妙に気になりますね。


ということで第一話『Puss Gets The Boot』でした。
作品時間は8分50秒。


一作目ということで少々地味、かつストーリーも単調な感じはしますが、80年前のアニメでこのクオリティ、かつキャラクターの原型も出来上がっているということで素晴らしい作品だと思います。
この一本が無かったら『トムとジェリー』は無かったのだから。

ちなみに、こないだ別の記事で言及しましたが『BATMAN』のジョーカーも初登場が1940年。やっぱりアメリカすげえや。


以上、
『トムとジェリー』全話解説を試みる。【♯1 Puss Gets The Boot】
でした。

次回もお楽しみに!!



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