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討論のススメ - ディベートにおける日米の温度差

長女が所属しているディベート部がエリア大会に出場するということで、ボランティアで審判を務めてきました。

・・・ってサラッと言ったけど、英語のディベート(討論)の審判って半端なくありえないから!まさか英語が微妙にやばい移民の私はそんな高尚なお役目は門前払いだろうとタカを括ってたら、普通にリクエストきたからね。というのも審判ボランティアは難しいし拘束時間も長いため、みなさんやりたがらないそう。でも出場できる生徒数はボランティア審判につき2名、つまりそろそろやらないと娘が出場させてもらえないという脅迫案件でしてね・・・。

ここでディベートについて少しご説明をしておきます。アカデミックディベートにはいくつかスタイルがあり、長女が挑戦した部門はリンカーン・ダグラスというフォーマットです。リンカーン対ダグラスの連邦上院議員候補討論会にちなんで呼ばれているそうです。議題に対し、Affirmative(肯定)1名と、Negative(否定)1名、で立証、反芻、質疑応答を繰り返します。

  1. 1st Affirmative Constructive(肯定側・立証):6分

  2. Negative Cross Examination(否定側・質疑応答):3分

  3. 1st Negative Constructive/1st Rebuttal(否定側・立証):7分

  4. Positive Cross Examination (肯定側・質疑応答):3分

  5. 1st Affirmative Rebuttal(肯定側・反芻):4分

  6. 2nd Negative Rebuttal(否定側・反芻):6分

  7. 2nd Affirmative Rebuttal(肯定側・反芻):3分

これを1セットとして、4ラウンド(それぞれのラウンドの対戦者は代わります)もあるので、朝9時から始まり、終わるのは4時ごろ。最後は美味しいビールが待ち遠しくなります。

ここでは名前が示唆するような政策に関する命題でなく、価値命題(Resolution)が事前に指定されます。今回の命題は「The appropriation of outer space by private entities is unjust」(宇宙空間を私企業が占有することは不当である)。さ、みなさんで言ってやりましょう、せーの・・・「知らんがな!」。

何が難しいって、非英語話者にとって肯定と否定がごちゃごちゃになるからってのが第一のハードルです。unjust(不当)という言葉そのものが否定じゃないですか?でもこれが命題なので、Affirmative(肯定派)がunjust(不当)なんですよ。なんとも紛らわしい!私は壁に「Affirmative=宇宙の私物化ダメ!」と書いた紙を貼って、混乱しないように頑張りました。つまり肯定派は宇宙の私物化を禁止、否定派は私物化を応援、ということです。この時点で既に難しい(笑)。

このディベートの最終目的は、証拠を示すことも大事ですが、それによる自分なりの分析を基に聴衆を説得することです。審判、僕に投票してください、とかガッツリ説得してくるので、選ぶのが申し訳なくて大変。

ちなみにスピーチや反対尋問のためにそれぞれの側に割り当てられる総スピーチ時間は16分と同じなのですが、上のフォーマットを見て分かる通り個々のスピーチ時間は同じではありません。否定側は肯定側に比べ立論時間が1分多いのは、否定側の立証では肯定側の問題点にも言及できるから。でも仕組みをよく考えると肯定側が得な気がするなぁ。だって肯定側は3回スピーチ(立証、反芻含めて)できるけど、否定側はたったの2回。最後は肯定側のスピーチで終わるので、そこで言い返すチャンスがない否定側は不利だと思います。

実際のスピーチはこんな感じ。

  1. 肯定側・立証:環境汚染につながる。裕福な国が得する不平等。宇宙戦争が起こるかも。

  2. 否定側・質疑応答:地球における社会は完璧?ロケットの環境汚染の実際の例は?

  3. 否定側・立証:宇宙開発は医療面の開発に役立つ。宇宙をあまり汚さないロケット開発が最新のデータ。裕福な国は途上国の手助けをするはず。

  4. 肯定側・質疑応答:裕福な国が途上国を助ける保証は?医療面の開発が独占されたら?宇宙をあまり汚さないロケットって言うけど、飛ばさないに越したことはないんじゃない?

  5. 肯定側・反芻:月から飲料水をとってきてアフリカの国々を助けることもできる。医療の開発は既に行われてるが高すぎてどの会社も手をつけてない。手をつけた会社は倒産している。温暖化への影響の証拠が示されていない。

  6. 否定側・反芻:会社が手をつけないというのは嘘。まだ初期段階でみんな始めたがってる。

  7. 肯定側・反芻:月から飲料水を摂る試みは日本の会社が資金不足で断念した例がある(ほんと?)。論文によると宇宙開発における環境破壊が深刻。

これで判断するのはとても難しいのですが、一番簡単なパターンがどちらかがもう片方のContention(主張)を落としたら、その時点で負け。上の例では肯定側には環境汚染、不平等、宇宙戦争という3つの主張がありましたが、否定側は宇宙戦争についてはどこでも反論していません。これは大きな失敗となり、肯定側の勝ちになります。でも実際はこのパターンは少なくて(今回私が審判を務めた4ラウンドでひとりだけこの失敗をしてました)、どっちがうまく反論しているかを即座に判断する形です。反対尋問の技術が勝敗を決めるということですね。

私が愛するTwitterなんかで、時々言葉尻を捉えて、支離滅裂に見えるコメントで噛みついている人を見かけますが、そういう人はディベートを練習することをお勧めします。全体像を見渡しつつ、ひとつひとつの論点を潰していく。言葉尻を捉えている時点で退場となるディベートは義務教育に取り入れたらいいとさえ思います。それか私のように強制的に審判をさせられるとか!

娘たちは小学校、いやなんなら幼稚園にいた頃から定期的に人前での発表をしていました。人への説明の仕方、論文の書き方、そしてそのための論理の組み立て方を何十年にもわたって学校教育の一環として学んできたアメリカ人は会議でもそれはそれは上手に発言をするので、私は苦労が絶えません。せめてこちらの大学でディベートや論文の機会が多くあればよかったのですが、コンピューターサイエンスというガッツリ理系を専攻したこともあり、その手のプレッシャーは少なめでした。社会に出て苦労した典型的なタイプ。

ディベートは相手を打ち負かすことのようなネガティブな印象もありますが、実は自分自身の思考の整理にも役立ちます。論理的に考えを組み立てていって自分の中で決断を下すこともできるわけですから。時々ランニングの途中で脳内ディベートをして思考を整理することがありますが、スッキリしますよ。娘は今回のディベート大会で上位の成績をおさめましたが、まだまだ私にアドバイスを求めてくる15歳。ここはいつも通り、子供たちと一緒に学んでいくしかありませんね。

とりあえずはお疲れビールを飲んでから・・・。

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