ある不機嫌な目覚め

【小説/詩】

 

 冬の香りがする朝、目覚めると僕は腐葉土に埋もれていた。とてもぬくぬくと暖かい。となりにはまだ幼い熊のこどもが寝ている。吐く息が白い。ここはWindowsもAndroidもましてやiOSなど遠い昔に死滅した世界。僕は心から求めていた世界にいるよろこびに浸りながら、もう一度瞼をとじる。

 もう一度目覚めると、僕は自分の部屋のベッドのなかにいた。腐葉土は羽毛布団に変わり、子熊はどこかへ行ってしまった。代わりにAndroidがいつもの電子音を鳴らしている。ああ、と朝から僕はため息をつき、仕方がないからまた眠ってしまおうと再び目を瞑る。

 三たび目覚めると暗闇のなかにいた。あれ?夜まで寝ちゃったんだ、とちょっと罪悪感を覚える。でも変だ。部屋のベッドに寝ているにしては暗すぎる。こんな真の暗闇なんていったい僕はいまどこにいるのだろう、と思って目を開けたら開いた。枕元の目覚まし時計を見るとさっきから5分と経っていない。

 目覚まし時計の針は10時30分をさしている。僕のお腹がぎゅるぎゅると音をたてる。そう言えば昨夜はつまみ程度のものしか食べていないとアルコールにまみれた脳が面倒そうにつぶやく。僕は洗面所で顔を洗い歯をみがくとキッチンで目玉焼きとトーストをつくりコーヒーを淹れた。窓の外は曖昧な空模様だ。

 朝食を食べながらぼんやりと考える。 WindowsもAndroidもましてやiOSなど存在しない世界を。腐葉土に埋もれて子熊と戯れている世界を。明日が今日に喰われずに昨日がキャタピラーに潰されてぺしゃんこにならない世界を。そして、僕は自分が猛烈に不機嫌であることを自覚し、一編の短くなげやりな詩を書く。

 

『キャタピラー』
目が覚めると明日が今日になっていた
いったい寝てる間になにが起こっているのか
昨日から明日へと進み続ける今日はまるで
ガタガタと回るキャタピラーのようだ
もうこれ以上明日を喰われないために
もうこれ以上昨日を押し潰されないために
もう寝るのはやめてしまおう
そして、永遠の今日を生きよう

 

tamito

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#小説 #詩

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