時空の歪みで~タイムマシーンに乗って~

【詩】

 

時間管理局の最新マシンを振り切って

ぼくは2068年のきみとぼくを確認することができた

そして帰り道、ぼくの乗るマシンはもちろん捕獲され

ぼくは記憶をなくす液体を注射されて時空の歪みに放り出された

何もない形而上学的な空間にぽっかりと浮かび

ぼくはぐったりと拠り所もなく身体を横たえる

頭がぼんやりとしてなんだか眠い

だけどもうひとりのぼくが眠ることに抗っている

たぶんこのまま落ちてしまえばきっと

ぼくはすべての記憶をなくし

怖さも怒りも愛しさもせつなさもぜんぶなくし

きみのことさえ忘れてしまうだろう

ぼくは眠さを堪えながら片端から消えてゆく記憶を眺める

ブラックホールに引きずりこまれるように記憶が消えてゆく

小学校の夏休みの河原

中学校のグラウンドの白線

高校の美術室の聖ジョルジョ

大学の図書館の明かり採りの窓

ぼくの記憶が巨大な穴に吸い込まれてゆく

それを止める力はぼくにはない

出会ったときのまだ幼さの残るきみの笑顔

怒ったときの出口を求めるような視線

まっすぐに未来を見つめられない青い瞳

そして、最後の記憶がやってくる

3年後、2068年のきみとぼく

世界の終わりの西の果てでふたり並んで

手を繋いで夕陽を眺めている

後ろ姿しか見れなかったけど

とても穏やかなやさしさに包まれていた

もう何も心配ごとなどなく

もう誰もきみを縛るものなどない

そんなふたりの後ろ姿が記憶の縁から落ちてゆく

これでよかったんだと最後の意識が浮かび

涙が一粒流れ、ぼくはようやく眠りにつく

 

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tamito

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