コンピュータおばあちゃんをプロデュース
私が幼稚園の年少組の頃、「コンピューターおばあちゃん」という曲が流行った。
歌詞によると、「明治生まれで算数国語社会、英語もでき足腰の強い入れ歯のばあさん」なんだそうだ。プログラムもでき、その博識たるやコンピュータと疑われるほどである。その曲のとりことなった幼い私は「歳を取ったらコンピュータおばあちゃんになる」ことを決意した。
しかし、その決意は中学で早々に潰えた。数学と社会が苦手だったのである。
かろうじて大学で情報学部に入った私は、自身に「パソコンを使うのは好きだが、プログラムがそんなに好きではない」という、コンピューターおばあちゃんになるには致命的なバグがあることに気が付いてしまう。もはや今世では叶わない夢なのである。しかしあの軽快なビートと幼少の決意が私を思いもよらぬ方向性に向かわせた。
あれ?うちのばーちゃん昭和2年で算数得意じゃね?
プロ野球選手になれなかった男が息子に自分の夢を託すかのように、私は自分の祖母に自分の夢を託したのである。鳴かぬけど、鳴かせて見せようホトトギス。幸いにも祖母の頭の回転はi7搭載だった。
まずは、パソコンで毎日日記を書かせるところから始まり、プログラムはfor,if,and,orまでなら理解できるようになった。そこまで理解できたら、VBAが組めるといっても過言ではない。しかし、「ふーん。で、これが出来たところでなんかあるの?」と言われ、回答に詰まったので私の中で「コンピューターおばあちゃん」を再定義することにした。
なんかよくわかんないけど、時代の最先端をいくババア
手始めに80代でfacebookデビューさせ、ipadでネットの検索を教え込ませ、自分が最先端と思うガジェットを見つけては与え続けてみた。
で、十数年後。どうなったか。
先日祖母の部屋を訪ねたら、アレクサにどーでもいい天気の話をしながら、ipad見つつ、switchで遊んでいた。恐るべし93歳のマルチタスキング能力。目が疲れればアイマッサージャー、耳が聞こえづらいのでテレビはBluetoothヘッドホンで聞いている。最近はオキュラスもお気に入りである。facebookはUIが変わる度に、なぜか私に小言を言う始末である。
怖い。自分のプロデュース能力が怖い。歌手能力は低いのにやたらプロデュース能力の高い音楽プロデューサーのようだ。ちなみに明治生まれの低スペックな入れ歯ばあさんと違い、うちの祖母はインプラントである。カクカクなんてしない。シャンプーはボタニスト、ハンバーガーは菜摘のオニポテとジンジャエールセット。特技はクックパッド検索である。
しかし、思いもよらない弊害があった。年寄りというものは老人会と称して体調と昔話と愚痴をこぼす会を生きがいにいきているところがあるようだが祖母はこれの参加に気が進まないようだ。
年寄りにipadの話をしても理解できんからなあ。
そりゃそうだ。
奇しくも、老人としてはスタンドアロンとなってしまったのである。
令和となっても夢の宇宙旅行はまだにはまだ遠い。私は祖母を夢の宇宙旅行までプロデュースできる日がくるのであろうか?そしてその日が来るまでいくつのガジェットを与えるのであろうか。
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