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魔物
私の家には魔物が住んでいる。
私は冷蔵庫の中に、ジュースだとか牛乳だとかを入れていて、他には卵とか適当な野菜とかも入れている。
冷やしておかないと、それらは傷むからだ。
でも、冷やしていても、食材というものは少しづつ傷んでいく。
この"少しずつ“というのが曲者だ。
例えば私は、賞味期限が数日過ぎたものならば躊躇せず食べることができる。(全然美味しい)
でも、賞味期限が半年とか一年過ぎていたら、絶対に食べようとは思わない。
その境目が、私の中に確立していないせいで、しばしば私は頭を抱えることになる。
具体的には、現在私の家の冷蔵庫の中段の奥の方に、賞味期限が1年は切れているであろうバターが置いてある(と記憶している)のだが、これは絶対に食べない。
むりだ。
賞味むりだ。
実際に冷蔵庫の中身を棚卸しして調べたわけではないが、そのバターは確実にそこにはいると思うし、他にも予想だにしていなかったような期限切れの食材たちがそこに潜んでいると思う。
彼らが魔物である。
あと排水溝。
シンクとかお風呂場とかの排水溝を、私はこれまでに一度だってきちんと清掃をしたことがない。
気が向いた時に、パイプユニッシュを使ってやるくらいだが、多分それだけでは十全な清掃とは言えないだろう。
私にとって、パイプユニッシュを排水溝に垂らす作業は、祈りにも似ている。ほぼ儀礼的なそれとなっている。
特段臭ってくることとか、水が溜まってくることはないけれど、排水溝の底にあるトラップだかを外せば、そこは野放図に広がる微生物たちの楽園と化していることだろう。
それがわかっているのに、私にはそれをどうすることもできない。
ただダラダラと汚れていく排水溝。
彼らも魔物である。
あと家ではないんだけど、なんとなく返事をするのが億劫で未読のまま保留しているLINE。あれも完全に魔物だと思う。
「返事返さなくちゃな〜」とは思うし、具体的にどのように返事をすれば良いのかも頭の中では簡単にイメージできている。
それでも、だ。
ついつい放置しちゃうのだ。
そして、その「返事返さなくちゃな〜」という義務感(ほとんど債権のようなもの)を抱えたまま、YouTubeを見たり遊びに出かけたりしてしまう。
なお、この時気をつけていただきたいのは、その時私の中で
「義務から逃げて味わう快楽の心良きことよ」
などといったカタルシスは一切生じていないということだ。
普通にだるい。かったるい。
あーやんなくちゃな…
冷蔵庫の中がな…
排水溝の下とかやばいんだろうな…
LINEもめっちゃ溜まってるわ…
という焦燥感が、常に心の片隅に陣取っている。
そんな気持ちを歌にしました。
それでは聴いてください。向田民子で『魔物』
▼vt.tiktok.com/ZSLALsSs8/
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