きみと音声認識
5歳になる息子は、もうすっかりタブレットの虜である。たやすくパスワードを解除して、いつもの動画アプリをタップする。スワイプだってお手の物だ。
スイスイ、と慣れた手つきでお好みの動画を見つけては生き生きとした表情で画面を見つめている。車が大好きな息子は最近よく知らない人が運転している様子を定点カメラで撮影している動画や、カーレースゲームの動画を好んで見ている。
ポロン、とタブレットから音がした。続けて息子がタブレットに話しかける。
「消防車の動画」
さすがにフリック入力はまだ使えない彼が編み出したのは音声認識機能。タブレットはすかさず消防車に関連する動画をずらずらっと並べた。彼は満足げに好みの動画を探し出した。
息子とタブレットの息のあったやりとりに感心していると、タブレットからまたポロン、と音が鳴った。
「ぼくがさっき見たおもしろいやつ」
その言葉に息を飲んだ。機械なんだから、という概念など息子にはないのだ。きっとわかってくれるだろう、という信頼を感じた。
しかし、タブレットは残念ながら彼の思いを汲んでくれなかったようだ。検索された動画をみて彼は眉を潜めて不満げに「ちがう」と呟いた。
いずれは子どもが思ったままの言葉で話しかけても理解して返してくれるような機能になっていくのだろうか。それが今の世代の人たちが作っていくのか、今タブレットに話しかけている息子たちの世代が受け継いでいくのかはわからないけれど、さらにきみとタブレットの息のあったやりとりが見られる日が来ることを、今は楽しみにしたい。
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