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たのしみに待つ

フィルムの早回しを見るように、あっというまにつぼみが開いた。明日の来客(といっても、オンラインのカメラごしなのだけれど)にそなえて、早めに準備した花だった。

昨夜はまだ固いつぼみだったのに。どうしたことだろう。友人たちに会うのが待ちきれなかった、わたしのよう。すっかり、満開。わたしも、そわそわ過ごしている。

オンラインで会うならば、カメラの中におさまるだけしか部屋は見えない。それなのに、花を飾り、カーテンまで洗って!準備万端。勢い余って、床の水ふきまで終わらせた。

仕事の進みが悪かったのは、ご愛敬。あしたのことで、こんなにうきうきするのに、おとなしく仕事なんてできない。

少しだけ先に在る未来のことをたのしみにするだけで、日常がこれほどうれしくなる。いつもしている、小さなこと。先延ばしにしてみた、ここちよさげなこと。あれもこれも、やっていて心おどる。

心おどったついでに、読みかけで手を止めてあった論文を確認したり、哲学系と心理分析系の本を重ね読みしたりする。

そのうちの1冊。友人たちと買ったのは冬のころ。心理学系の勉強会で、読みあわせながら勉強することになったときの本。
あのとき、一緒に読み合わせしようねと言った友人たちも、今、それぞれの部屋でこの同じ本を読んでいるかもしれない。

真ん中の先まで読み進んだ頃、ページの隅に「? 読み返すこと」と書いた、半年前のわたしに会った。

心軽くおどっていると、カチコチの言葉たちも、かたかたと踊るように頭に飛び込んでくる。読み返して理解できたとは思えないけれど、前よりはわかった(ような気がする)。ふっと、息が漏れた。

視界の端を、真っ白なかたまりがふわりふわりと動く。洗ったばかりのカーテンは、驚くほどまぶしい。

いつのまにか、夏が来てるんだ。

ふと、思った。


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