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雲の背くらべ

どの子がいちばん、大きいかな。
浜名湖の湖面のむこう、山の手前からふかふかと雲が並ぶ。

隔週で行ったり来たりしていた頃は、あまり外の景色を気にしてなかった、と思う。

だって、景色はあっという間に通り過ぎる。
窓が開くわけでもないから、東京で閉じ込めた空気ごと名古屋や大阪へ向けて運ばれていく。それは、まるで東京で過ごしていた時間ごと切り取られ、別の土地へ運ばれていくようで。連続した土地の上を動いている実感がなかった。

でも、どうだ。
動けなかった数ヶ月を挟んで、やっと動き始めたら。これまでと同じはずの移動が、なんとも愛おしい。

あっという間に通り過ぎるはずの景色すら、一枚一枚、カードになって目の前に並べられていくここちする。早いのにゆっくりと展開する景色。

そのおかげで、雲が背くらべしてるのを見られた。
風の匂いがなくても、外の風景と内にいる自分とが繋がっていく。

山へ出たわけではないけれど。
森の近くにいるわけでもないけれど。
森や木のかおりが、ふるりと近づく。呼吸がふうっと深くなるようなここち。

あと少しで、森のなか。森に触れる。
雲の背くらべに、わたしも混じる。



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