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頼まれてもないのに。その45(令和4年大相撲九州場所を振り返る)
今年締めの場所を振り返る前に。今年も一年お疲れさまでした。
まずは令和4年6場所の幕内総合優勝力士と年間最多勝力士をあらためて書き出してみましょう。
初場所 御嶽海(東関脇 13勝2敗 場所後大関昇進)
春場所 若隆景(東関脇 12勝3敗・優勝決定戦)
夏場所 照ノ富士(東横綱 12勝3敗)
名古屋場所 逸ノ城(西前頭2 12勝3敗)
秋場所 玉鷲(東前頭3 13勝2敗)
九州場所 阿炎(西前頭9 12勝3敗・優勝決定戦)
年間最多勝 若隆景(57勝)
一覧にしてあらためて眺めてみても心に思うところは人それぞれ、千差万別といったところでしょう。優勝力士が6場所すべて違う力士、57勝で最多勝、顔ぶれに番狂わせ感はなく誰もが認める実力者ばかりとはいえ、うーん、どう評価していいものか。
群雄割拠と表現してしまえばかっこいいのですけれど、全勝や1敗での優勝者がいないことからもうかがえる通り、これは結局のところ頭一つ突出した力士が不在、残念ながらどんぐり状態というだけの話。
一人横綱照ノ富士が辛うじて5月に優勝を果たしているものの、その後は古傷の両膝がついに悲鳴をあげ、九州場所前いまふたたびの手術に踏み切り現在療養リハビリ中。復帰場所がいつになるか、そう簡単には見通せないのではないかと思いますので、年明けすぐの場所は貴景勝の一人大関で幕を開けることになるのでしょう。
貴景勝は今できることだけを一番一番、必死で大関の務めを果たしていますが、相撲スタイルや首の爆弾を考えると、一場所二場所はともかく一年を通して強さを維持できるかというとなかなか難しいのではないかというのが現状だと思っています。
来年もこの状況に変わりはないのではと。
個人的には実に落ち着かない一年だと感じました。
逆に言えば先の読める展開なんかつまらないと、毎場所毎場所つねなる波乱を楽しみに見ているようなファンにとって今年はとてもスリリングな一年だったのではないでしょうか。
良いこともありました。
今年一番の収穫は若隆景とその兄若元春、この二人が一年通してそれぞれ独自の存在感を示し続けてくれたことでしょうか。
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さて、あらためて九州場所の振り返りに入りましょう。
阿炎。
12勝3敗。巴戦による優勝決定戦の末、優勝。
妥当。まちがいなく妥当。幕内復帰後は人が変わったかのような気持ちの入った相撲を取る力士へと変貌しており、いつ優勝したっておかしくなかったです。
もしこの優勝が高安との本割との一番で決めたものであれば。あの相撲ですべてが決まっていたならば、私は初優勝おめでとうと言っていたと思います。あの一番は不祥事を経て厳しく精進してきた阿炎の集大成のような、本当に素晴らしい内容でした。
だけど巴戦の第一戦は。これはこれで違う意味でまことに阿炎らしい相撲となってしまいました。本人もインタビューで話していたように、多少の計算はあったとはいえ、あそこまでしたのはわざとじゃないってのはわかるんです。ああいうのは勝手に体が動いちゃうやつなんでしょう。
だから変化を普段から体に染みつけちゃってる力士は怖いんです。
でるんだよ、ここぞというときに。いちばんやっちゃいけないときに。
あの一番から何かを阿炎がくみ取ってくれますようにと願います。
変化という技じたいが悪いわけじゃないんだけれど、あの変化はほんとうに技としての変化だったのかと問いたいわけです。あれは技としてのものじゃなく、あなたの心の弱さが思わず出ただけだったんじゃないかと。
そしてその結果、相手に与えてしまった思わぬアクシデントをどう思った?
貴景勝。
実質の一人大関を課された場所で12勝3敗。十分に責任を果たしたと思います。立派だと思います。結びの一番を勝利で締めたのち、息も整えられないうちに優勝決定戦が始まります。運よく2戦目からのくじをひきます。
と。目の前で思わぬ変化をくらった高安が土俵真ん中にうずくまり、そのまま動けなくなってしまいます。(これに関しては高安も、本日2回目の対戦なんだから多少は予測しなきゃだめだろう、とも思いますが、それをバカ正直にくらってしまうのも高安の生真面目さというか自分しか見えてないというか……)人の手を借りることでなんとか土俵下に降りる状態。
これ、貴景勝、無理でしょ。目の前の一戦に集中できないでしょ。
ぜったい瞬時にいろんなこと考えたと思いますよ。こんな状況下でそんなの関係なし勝利あるのみと平常心で鬼の相撲を取れるとしたら、そんなの力士の前に人間じゃない。
いや勝つ相撲を取ったと思うんです。本人必死でそっちに気持ち持ってったと思いますよ。でもできないでしょこれ。
そりゃ全盛期の横綱白鵬ならね、この一番全力で勝って、次の一番どう高安に負担なく勝とうかとかそういうこと考えて実行もできるかもしれませんが。
もちろんあの一番、実力で、相撲の内容で阿炎に負けたんですよ。それは見てりゃわかるけれどね。わかるけれどもや。
渾身の相撲は取れないよね。
高安。14日を終えて単独トップ。ついにその日が来るぞと終わってみれば12勝3敗かつ優勝決定戦敗退。
しかも最後の最後、肝心の一番で首をやっちゃうというツキのなさ。
いくらなんでもそんなことある? 高安って前世かなんかで何かしたのとさすがに疑いたくなるレベルのピンポイントな不運さ。
変化にただ落ちるだけならまだしも、こんなかたちで首ケガする? うそでしょ? しかも最初の見た目は脳震盪で、脳震盪だったら次の相撲取らせちゃだめでしょだし。
相撲の神様が高安に問いかけてる課題、いったいなんなんだろ。いつもいつもあまりに厳しすぎて気の毒になるけれど、相撲の神様からしたら「なんでわかんないの?」ってことなのかもしれないですね。
でもさ、今場所通してずっと強かったなあ高安。足首ケガしてたんだよね。阿炎も肘の手術明けの場所だったけど、阿炎にしか取れない相撲を今場所も完全にものにして。貴景勝は貴景勝で横綱不在、番付最上位の責務と優勝のダブルプレッシャーを初日からずっと背負って頑張ってきて。
誰が優勝しても賜杯にふさわしかったと思っています。
ほんとうに、ほんとうに、3人ともお疲れさまでした。
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王鵬の相撲、ついに光明が見えてきました。上と対等に取る力はまだまだ足りないけれど、あら、あんがいプレッシャーにも強いのかなと。
もちろん偉大なおじいさまの血が花開くのを多くの人が待ちのぞんでいるのだと思うのですが、このお相撲さんには同時に貴闘力の血が半分入っていて、あの向こうっ気の強さや頑固さこそがここぞというときの彼の相撲の支えになったりする日があったりするのかな、なんてことを私は楽しみに考えていたりするのです。
とにかく前に出る相撲を。力で勝つ相撲を。土俵際で勝つ小手先な相撲を癖づけないでほしいなと。
翠富士、錦富士、平戸海、来年さらに飛躍してほしい。飛躍する。
佐田の海や妙義龍はなんであんなに若々しいんだろう。隠岐の海もまだまだ土俵にいるべき相撲を取る。もちろん玉鷲も。
千代大龍、お疲れさま。ぶちかましの威力といえば、の記憶に残る力士です。
豊山の引退は早すぎるよ。悲しい。
二人とも相撲協会には残らず第二の人生を歩みます。
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豊昇龍は、なんだろなー、技のセンスは間違いなく天性のものだと思うのだけれど、なまじっかセンスが高すぎるせいでかえって本当の技能はまだ身についてないのかもしれないですね。
今場所見てても、あーまだまだ軽量だなー、もっと増やさないとダメだなーと思ってたら、すでに150キロあるとは。実際より相撲が軽いぞ。
お相撲って面白いなあと思うのは、逸ノ城みたいな超重量級の力士があまりにするすると押し出されてしまったり、やっぱり全然押せなかったり。
ああいうのも技能なんでしょうかね。体の重みをそれ以上の重みに変えるような体の使い方。守るほうもそうだけど、攻めるほうもきっとそうなんでしょうね。今場所の翔猿なんてまさしくそうで、負け越しはしたけれど重心を感じるいい寄り多かったなあと。
相撲の重さという点では御嶽海はずいぶんと相撲が軽くなってしまいました。もっと重たい相撲を取る力士だったのにな。ケガで自分の相撲も見失ってしまったのかなあ。
また一から出直しになった今場所。大関昇進したときに「調子のよいときは当然強いけど、ケガ等で調子の悪い時にこそどういう相撲を取れるかが課題じゃないかな」と心配した覚えがありますが、まんまその通りになってしまったのが悲しいです。
正代はついに大関陥落。
ケガか病気か、そんなの観客には一切わからないこと。ここ数場所一貫して覇気が感じられないのがあまりに致命的でした。
こちらもご自身の相撲を取り戻せますように。
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なんだかんだでお相撲は楽しい。
九州場所が始まった当日は、照ノ富士も休場な上、私自身もあまり体調がよくなかったこともあって「今場所は私も休場かなあ」と自嘲していたのですけれど、やっぱり見ちゃいます。
今場所は「私の選ぶ今日の一番」みたいなものも試しにやってみたりしたのですが、これがけっこうおもしろかったので来場所もやってみようと思います。
ちなみに今場所の「今日の一番」は以下の通り。一般目線の客観性や玄人目線のこだわりで一番良かったということではなく、私の中で一番印象的だったよという一番ですのであしからずなのです。みんなちがってみんないい。
初日 ●若隆景-高安〇
二日目 該当取組なし
三日目 〇若隆景-明生●
四日目 ●翔猿-霧馬山〇
五日目 ●翠富士-豊昇龍〇
六日目 ●逸ノ城ー若隆景〇
七日目 ●逸ノ城-明生〇
八日目 ●熱海富士ー王鵬〇
九日目 ●阿炎ー錦富士〇
十日目 〇貴景勝ー霧馬山●
十一日目 ●翔猿-翠富士〇
十二日目 該当取組なし
十三日目 〇貴景勝-豊昇龍●
十四日目 〇平戸海-錦富士●
千秋楽 ●高安ー阿炎〇
今年も一年ありがとうございました。
来年もケガなく病気なく、皆がベストを尽くせる一年になりますように。
武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。