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頼まれてもないのに。その33(令和3年大相撲秋場所を振り返る)


新横綱の照ノ富士が13勝2敗で賜杯を手にし、秋場所もつつがなく終わりました。新横綱の場所で優勝するのは史上9人目とのこと。

おめでとうという気持ちはもちろんあるのですが、いまいち強い感動に欠けるのは、だって今場所の顔ぶれではね。よほどの番狂わせがない限り照ノ富士の一強だったのは誰の目からも明らかでしたし、残念ながら今後もね。

新横綱の土俵入り。師匠旭富士直伝の不知火型。両膝のハンデを抱えているため深く腰を下ろしきることができないからか、照ノ富士のせり上がりは下からぐいぐい上げていくというよりも、さあ来い、すべて受け止めてやるとばかりに両手を広げて構えているようです。本来不知火型というのは攻めの型なのですが、攻めというよりは両手を広げた大きな体を張って何か邪悪なものを食い止めるようにも見えます。

これもまた今の時代と彼自身を象徴する土俵入りだなあと感慨深いです。

不知火型は短命というジンクスはすでに白鵬が打ち破ってくれたので、安心してどうか存分に綱を務め上げてほしいものです。

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千秋楽の結びの一番は照ノ富士と妙義龍で見たかったです。大関の顔を立ててあげる必要はなかったのではないかな。

今場所の妙義龍は体調が良かったのか久々に力がみなぎっていて技も冴え、豪栄道引退後四つ相撲の速攻派に飢えていた私は「やはり相撲はまわし取ってなんぼですよね」と嬉しくてたまりませんでした。

今場所10勝をあげた隠岐の海の活躍もそう。隠岐の海は速攻はしないけど安定の四つ相撲。なんでこの人横綱やってないんだろうという相撲を一場所に1回は披露してくれます。力ずくでない、無理のない投げをきれいに打つんですよね。西武源田の守備みたい、たまらん。

四つは四つでもほとんど投げない、愚直に押し込んでいく志摩ノ海も引き続き見守っていきたい力士。上位では大勝ちをすることはないかもしれないけれど、信念を感じる相撲です。

策を弄さない実力者、宝富士もいいですね。稽古で積み重ねた地力だけを頼みに取るから7勝8敗の悔しい場所も多いけれど、それでも相撲がぶれないところが見どころ。左四つですよ左四つ。左が下手、右が上手になったら宝富士の形。覚えてね(自分自身に強く言い聞かせています)。

そう、四つ相撲が好きと言いながら、それぞれの力士の得意な型はまったく頭に入っていないのです。私は相撲取ったことないからねえ。なお夫は小さい頃に遊びで相撲を取ったことがあるからなのか、それとも男性特有の闘争本能なのか、各力士の得意の型がどちらなのか気にしながら観戦しているようすなのが興味深いところ。それはさておき。

勝つことのみに執着しているからなのか己の相撲の定まらない力士も多い中、こうしたブレない力士たちに注目してみるのも面白いです。

追記。押し相撲では大栄翔。

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大関貴景勝、地位を守るのはもう無理だと見てました。よくぞ勝ち越しました。大関としての執念と意地。すさまじ。勝ち越しを決めた後はやはりでしたけど。首の負傷なので同業の先輩方ならともかく私なんぞに物申せることなどなにもなく。もしこのままハチナナの場所が続こうが相撲を取れているだけですごいことだと思いますもの。でもこのままじゃ大関としての務めは到底果たせないことは大関が一番わかっているだろうし、次の九州場所、どうなるんでしょう。

御嶽海は一場所に数回「ああこれは今場所優勝だね」という圧巻の相撲を見せてくれるのを今後も繰り返すのでしょう。夢は見ているときが一番楽しいのでそれもまたよしとしなければ。勢いで思わず夢を叶えてしまった正代の今を見るにつけ考えさせられます。正代は昇進時に一度掴んだ自分の相撲を見失い、また迷子になってる感じ。それでも勝ち越すんだから強いのは間違いないのに。

高安は先場所に引き続き持っていないにもほどがあります。不戦勝を2つももらえたというのにご自身も怪我。腰もかなり悪そう。

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立浪勢。まとめちゃいます。一つ一つの取組はやはり捨てがたい。でも二人とも外連味が捨てきれない。明生は今後は地道路線を貫くのかと思いきや、なんでまたやったかね。あの白星があったおかげで関脇の地位は守れたけれど個人的には評価が下がりました。せっかく横綱にも勝ったのに。豊昇龍は持ち前の運動能力とずば抜けた器用さがいずれ仇になるかもという予感。

霧馬山、悪くないけど、強いんだけど、次に大関を狙えるのはこの力士だと私は期待しているのも確かなんだけど、どっかケガしてるとか理由があるにせよ変化癖、間違いなく霧馬山にもありますよね。鶴竜も変化する力士だったしそれでも横綱まで駆け上がったのだから、時に変化を組み込むのも否定しきれませんが、なんていうんだろ、正直、冷めます。こんな実力あるいい相撲取れる力士が何をやっているのかと。堂々と勝負しろよ、力でねじふせなさいよと。

「勝ちたいという気持ちの強さがもっとも大事なのだ」という言い訳のもと「勝てばいい」相撲ばかりが土俵を席捲する未来が来てしまうのでしょうか。

勝ちたい、のではなく、負けたくない力士ばかりがあふれる土俵。

いくら普段はいい相撲を取る力士でも、でもいざという時にはこの人、自分の事情を優先して何が何でも勝つことを選ぶんだよな、と思うと心からは応援しづらいものがあります。

とかいいつつ応援するんですけどね。

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「もしも貴景勝が四つ相撲を取れたなら」ということを想像してみたことがあります。その答えの一つが阿武咲なのかなと。

こちらもきっぷのいい突き押しが魅力の力士ですが、四つでも痛快な相撲を見せてくれます。組み止められてしまったのちに四つ相撲で拾った星が毎場所1、2番はあるように思います。組んでからの内容も実にいいんですね。

ところがどっこい、押し相撲しか取れない貴景勝がなんと大関になり、いざとなったら四つでも器用に取れる阿武咲は(ケガもありましたが)未だに平幕を上がったり下がったりしています。

でもきっとこれこそが相撲の妙であり真髄なんだろうな、とも思うのです。

そんな阿武咲、今場所はなんと14日目まで優勝争いに名を連ねる絶好調っぷり。とくに13日の正代戦(また正代……今場所は完全にかませ犬)、目の覚める内容といったら!でも悲しいかな、14日目、わりとよくある負け方であっさり脱落してしまいました。あれは阿武咲のほうにも大いに非があります。7敗で後がない新関脇にどうして無防備に突っ込むかなあ。

変化する力士は強くなることを放棄していると思いますが、変化される力士は力士でいくらなんでも相手を信じすぎです。なんで皆が皆、ロケットみたいに突っ込んでくる自分の全体重を真正面から受け止めてくれると思うのか。お人よしすぎます。それでもいいのだ我が道を行くのみというスタンスなら構わないのですが。

貴景勝にないものをいくつか持っているがゆえに現在の地位から抜けきれないという印象を持っています。魅力的なお相撲さんの一人であることには違いなく、そこが惜しい感じ。

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場所明けの月曜の朝、横綱白鵬が引退するという一報が入りました。30日に引退が正式に承認されるであろうとのこと。

白鵬については場をあらためて綴りたいことがいっぱいあります。

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照ノ富士が圧倒的に強いのは嬉しいけれど後に続く力士がいないのはどうしたものかと再確認させられた場所でした。皆いいものは持っているのに、どうも帯に短したすきに長し、どの力士も圧倒的な強さを15日間持続できそうにないのが残念です。

このままでは九州場所の楽しみが一場所遅れの新十両・北青鵬のお披露目と親方ちゃんねるやNHK解説に間違いなくお呼ばれするであろう白鵬のトークだけ、というお寒いことになってしまいます。

毎場所無事に開催できることがまずは素晴らしいということを、このコロナ禍で学ばせてもらいましたけれど、そろそろ日頃の稽古で培った技量審査の場としての本場所も戻ってきてほしいなと思います。稽古自体がなかなか難しいこともあるのでしょうが。

来場所もよい場所になりますように。

※おまけ 親方ちゃんねる 今場所4日目の大山親方編

相撲ファンにとっては相撲教習所の教官を29年間務め上げた角界一の知識人としておなじみの親方。お相撲豆知識もさながら、お話のはしばしにこれまで育ててきたお相撲さんたちへの愛があふれていて心があたたかくなります。


武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。