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頼まれてもないのに。その42(令和4年大相撲夏場所を振り返る)


 5月場所。場所前に相撲とは全く関係のない大きな出来事がばたばたとあったせいでしょうか、そっちに気を取られているうちにぬるっと始まり、そのままぬるっと終わってしまった感。
 今場所からようやく観客の定数を増やせたと思ったら、これまでなりを潜めていた指笛やら手拍子やら声援やら、どうやらそういう人たちまで戻ってきてしまったようで。

 終わってみれば横綱照ノ富士が12勝3敗という成績で7度目の優勝という落ち着くべきところに落ち着いた場所でしたし、いつもの場所同様三役以下で頑張るお相撲さんたちの個々の活躍には日替わりでいつも楽しませてもらっているのですけれど、まあなんというか、だらだらとした場所でした。

 せっかくの恵体に必要以上の脂を乗せた小器用な若者たちが相変わらずの押されてかわして逆転勝ちのデブ相撲(あえて言葉を悪くいいます。あんなのただのデブ相撲です)を変わりばえなく披露し、見ごたえあるのはオーバー35歳と小兵ばかり。3大関は負けるのが当たり前。豊昇龍と霧馬山はせっかく期待してもすぐ変な相撲を取って目先の勝ちばかり拾いに行く。

 阿炎は今の地位が謹慎前からちょうど壁で、以前はこの壁に向き合おうとせず形ばかりの星をあげていましたけれど、今は逃げずに向き合っているのが伝わってきて、結果、当然思うように星は上がってきてはくれません。でもこの苦労が数場所後、必ず二桁の星、あるいはそれ以上のものとなって戻ってきてくれると思います。阿炎にしか取れない相撲が完全にものになる日を信じています。

 若隆景・若元春の兄弟はそれぞれ個性の際立った相撲を今場所も披露しています。私は兄の相撲のほうが好みですが、弟の相撲はおっつけのキレと鋭さが抜きんでていて、負けた相撲も見ていて十分に満足できるもの。あまり大関大関と騒ぎすぎず、さらに力を増していく姿をあせらず楽しみたい気持ちでいます。

 隆の勝はいつも通り淡々と取ってたら優勝争いのトップに躍り出ていたという印象を受けました。あれが隆の勝の本来の実力なのでしょうね。振り回されず自然体のまま、このペースで取り続けることができれば今度こそ。横綱戦での勝利はお見事でした。

 大栄翔もいつも通りすぎて、ごめんなさい、優勝争いに残ってたのも初日に横綱に完勝したのも忘れてました。押し相撲ですから劣勢になると土俵際の逆転劇になってしまうのは仕方なく、なのでいくつかはそういう星の拾い方もするけれど、それでもほとんどの白星は、見ていて実にすかっとする電車道の突き押し。四つに日和らず突きで勝負し続けているところも私には好ましく映っています。

 佐田の海、ただただ格好良かったの一言でした。なんという若々しさ、なんという思い切りのよい技。緊張と挑戦を楽しんでいるのが特に後半の相撲からは全身からあふれ出していて、今場所といえば誰を一人挙げるかと言われたら佐田の海なのですよね私は。

 土俵下での優勝力士インタビュー、照ノ富士があんなに力みのない、憑き物の取れたような顔でインタビューを受けているのにはびっくりしました。横綱にとっても相当長くてつらい15日間だったのでしょうね。
 休場明けで不調もおそらく引きずったまま15日間の務め、3敗は横綱としては決して万全とは言えない成績だとしても、賜杯が平幕力士に奪われる失態を回避し千秋楽まで完走するのは大変な重圧だったことでしょう。
 ほんとうにほんとうにお疲れさまでした。


 当たり前ですが私は大関経験者でも横綱経験者でもありませんので武蔵丸さんや北の富士さんみたいな厳しい言葉まではさすがに出てきません。でもあの厳しい言葉の数々を口にしなければならない悔しさ、わかる気がします。
 大関横綱を彼らがどのような思いで務めあげてきたか。人知れず悔しい思いもつらいやせ我慢もしてきたことでしょう、それでも俺たち結果だけは出してきたぞという自負がきっとあるのでしょうし、他の先人たちもそうしてこられたのでしょう。

 その点私のようなテレビ桟敷者はハードルが低い。そのうえ各大関の事情を頼まれてもないのに勝手に忖度してしまってるものですから、千秋楽に勝ち越しカド番をたった一人回避したというだけで貴景勝はなんとあっぱれなのだろうとなるわけです。あ、でもね最後、ちょっとガッツポーズっぽい腕の動きしちゃったのは見逃さなかったですよ。正直あれは見てて悲しくなりました。こんな低い達成で大関が喜んでちゃだめなのに。
 横綱の両膝と同様、貴景勝の首が良くなることはないのでしょうね。これからも勝ち越しが精いっぱいの場所が続いてしまうのかも。
 とにもかくにも今場所の三大関の中で良くも悪くも一番必死さが伝わってきたのは貴景勝でした。だから私は一定の評価をしたいなと。

 大関二場所目御嶽海の大不振はおそらくケガなんでしょうね。来場所までに快復すればカド番脱出はそう難しいことではないはずと、今回の負け越しにそれほど悲観はしてないのですけれど、一般のファンと親方衆とで御嶽海について知ってることが全然違うんだろうなというのはなんとなく察します。私たちが知ることのない面での評価が低いことは昇進前からずっと気になっています。
 こういうピンチの場所をどう乗り越えていくかが今後の貴重な経験になっていくはずと信じるばかりで、今場所の不振、ただただ見守るしかなかったです。

 正代の今場所はこれまで以上に大関として人様に見せていい相撲ではないと思いました。大関を名乗ってお金を取っていい相撲とは、言葉がきついのはわかっていますけれど、思いませんでした。
 言わないケガや病気をずっと抱えているのかもしれません。でもね、そういう可能性も考慮に入れ、さまざま割り引いて取組を見ても、無気力とまでは言わなくても、もがきだとか、工夫だとか、せめて必死さだけでも、そういう気持ちの伝わってくる取組が、数えるほどしかなかったんです。
 正代は本来大好きな力士で、本人今完全に見失ってしまってるけれど確実に持っている才能を信じる気持ちは変わりませんが、大関としての正代は日に日に受け入れづらくなってしまっています。
 優勝した頃に取っていた相撲を7月までに思い出せないようであれば、いっそ全休して大関の座をいさぎよく手放し、出直すくらいでもいいのではと思うくらいです。

 これまでほとんど意識しませんでしたが、大関という地位はご自身のためだけに相撲を取っていていい地位じゃないのですね。
 先人たちはそんなつまらないことファンに一切意識させてこなかったから今まで気づかずに済んでたんでしょう。
 自分たちの立場にファンを立たせない。自分たちの事情を考慮させない。それもまた大関の務めであり、きっと誇り。
 それぞれの勝ち越しのためだけにいっぱいいっぱいの今場所が、実際どれほどつまらなくダレた場所になってしまったことか。
 今場所の三大関の大不振を見ていてひどく思い知らされました。


 今場所もう一つ気になったこと。
 場所終盤、番付差の大きい取組が多く見られたこと。

 下で早い時期から9番10番勝ってるような力士は、どれほど若手でもばんばん上に当てればいいと思います。どこまでやれるか、面白いですもん。
 しかし勝ち越し前の力士たちまで上に当てるのはどうなんでしょうかね。負け越すと十両に戻りかねないラインの力士もいましたよ。本人たちは当然必死になるでしょうけど、いかんせん、それだけではとても乗り越えられない、実力差の目立つ取組のほうが多かったです。

 角界が八百長的なものを極力排除したがっているのは十分伝わってきますが、これはこれで実力差による星勘定の操作が起きてしまっているのでは、と疑わざるを得ません。
 東龍や王鵬はさすがにお気の毒でした。


 そしてこれは今場所に限ったことではなく。

 なぜか35歳前後の力士ばかり若々しく溌溂とした相撲を取っているのかも不思議なことです。彼らがたまたま長年の体調管理が優れているのか、ケガしにくいような相撲の基礎が一からしっかり身についているのか、幼少期からの生育環境・食生活等の違いから今の若い子たちよりも体の丈夫さが違うのか。モチベーションの質も世代によって違うのか。

 最近は出てきたときから太りすぎの子が多く、ちょっとがっかりします。大卒の子が多すぎるのもあるのでしょうけど、高卒の子ですらもう出来上がっている子も多くて、うーん、です。
 太っているほうが圧倒的に有利だから、なのでしょうけど。
 体格のわりには相撲が押して引いてと、小手先の技術の器用さが目立っちゃうんですよね。せめてスケールのでかい相撲を取ってほしいのに。
 アマチュアだと勝つ相撲優先に、気持ちがどうしてもなっちゃうのかな。

 序ノ口優勝決定戦に登場した15歳の丹治や、18歳の山藤とか、あれくらいの体型に今から筋肉をつけていくほうが将来が楽しみで仕方ないのですけどね。
 序二段で優勝した琴勝峰の弟さんも筋肉質のいい体つきしてました。高校生の体格、あのくらいで留めておいてほしいのだけれど。


 今場所は書くことないなと思っていたのに、結局たくさん書いてしまっています。相変わらず私は本当にどうかしています。
 素人の甘えもあって今回いくつか言葉を選ばず書いた箇所もあり、ちょっと怖い部分もあるのですが、そういう目で見てるファンも少数ながらいますよ、という参考までに。

 来場所はようやく朝乃山が土俵に帰ってきます。心から楽しみにしています。
 はやく大銀杏の世界に戻っておいで。待ってるよ。


武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。