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頼まれてもないのに。その49(令和五年大相撲夏場所を振り返る)


 横綱照ノ富士が土俵に帰ってきました。
 両膝の手術を経て4場所ぶりの土俵。場所前の巡業の様子など表に出ている情報を見る限り「出れる状態に仕上がっているから今場所は出ます」という感じでした。ですのでそこまでの大きな不安はなかったとはいえ。
 横綱の場合無理に出場すれば復活場所が即引退場所になってしまうことも多々あるものですから一抹の不安は常にありました。もしこの取組でなにかあったらどうなるんだと。
 でもまあ……なんでしょうね、不安になる取組はいくつかありましたけれど、終わってみれば、うん、「十分休んでもう出られるから出てきた」だけ、いつも通りに相撲取って勝てるから出てきたんだよねと。

 この安心感こそが横綱なんだなあ。
 うれしくなっちゃったなあ。

 横綱昇進を決めたときには「喜ばしいことだけどこれで次膝やったら本当に終わりだぞ」と覚悟を決めていたものですが、なんの、まだまだたっぷり応援できそうです。
 いずれもっと強くなる若い人たちに力づくで引きずり降ろされるその日まで。

 14勝1敗、8回目の優勝、おめでとうございます。

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 とにかく今場所は面白かったのです。

 横綱が問答無用に強かった15日間。そして期待の4関脇が4人とも二桁勝利達成というとんでもない快挙を達成。こんなことありえないです。
 この人たちのあおりをくらった琴ノ若や錦木は前半ご愁傷さまでした。でもこのお二方も終わってみれば勝ち越しなんだから大したもの。特に錦木の後半戦は素晴らしかったです。個人的には敢闘賞あげたい。
 今場所大関獲りがかかっていた霧馬山(来場所から霧島!)も11勝4敗と、勝ち星だけでなく内容的にも特に後半怒涛の充実っぷりで無事大関昇進を手中におさめ、カド番の大関貴景勝も13日目になんとか勝ち越すことができたため、来場所は1横綱2大関の場所となります。

 やはり番付の上のほうが充実していると落ち着きますね。

 そして来場所も新たな大関獲りが繰り広げられます。
 こんなことあるんですね、豊昇龍、大栄翔、若元春の3関脇がそろって大関獲りの場所を迎えます。
 この中では後発ながらここへきて急速にぐいぐい力をつけている四つ相撲の若元春が最有力候補かなと思うのですが、大栄翔の見せるここ二場所の押しの切れ味、勢いも無視できません。地力よりも天性のセンスのほうがまだ際立つ豊昇龍が少し出遅れている気がするとはいえ、この人の気の強さを考えると火事場の馬鹿力で一気に大関かっさらうことも考えられ。

 残念なのはケガさえなければここに若隆景の名前もあったでしょうに。
 でもね先人たちが証明しています。どれだけ落ちても戻ってこれます。大丈夫。私たちは若隆景の相撲を見たいよ。あの厳しいおっつけは天下一品だよ。しっかり治して戻ってきてください。

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 朝乃山。幕内復活の場所。東前頭14枚目で12勝3敗。
 星を落としていいのは照ノ富士戦だけかなあ。北青鵬戦は落としちゃだめ。12日目の大栄翔戦の負け方も個人的には衝撃でした。
 朝乃山が初顔で勝てなかった北青鵬ですが、彼、今場所の関脇衆、同じく初顔の若元春、豊昇龍、霧馬山には軒並み勝ててないのです。これが何を示唆するか。

 朝乃山が幕内を離れていた長期間、傍目にはどんぐりの背比べにしか見えなかった幕内上位陣、実力が似通っていたからそう見えていただけで、一人一人の実力としてはどうも相当強くなっているらしい、ということです。
 
 朝乃山、幕内に戻ってきさえすればすぐ大関復帰だろうと思っていましたがもしかしたら思いのほか苦戦するかもしれません。
 さすがに来場所に向け本気の調整をしてくると思いますが……来場所の「答え合わせ」が待たれます。

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 明生、前半よかったなあ。後半の失速は場所中のケガの要因も大きいでしょうね。
 横綱に唯一土をつけた相撲はお見事でした。今の照ノ富士が一番嫌がる相撲を過不足なく取れたというのは素晴らしい。
 一方で常識の通用しない北青鵬、実力者の朝乃山に勝てないあたり、そうはいっても今の上位陣と比較すると一段力が足りてないということなのでしょうね。
 豊昇龍や天空海にも同じく言えることなんですが、せっかく関取衆がこんなにいる部屋なんだから地力のつく稽古を互いにちゃんと積んでいってほしいのだけどなあ。どうもこの部屋の力士の相撲にはケレンミがですね。
 立浪部屋では明生の相撲が一番好きですしもっと伸びていい力士だと思っています。来場所も引き続き活躍を!

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 剣翔、大翔鵬、碧山という巨漢力士が何気に良い相撲を取っていたのも今場所の見ごたえの一つでした。あの体格の力士は前へ出て圧で勝ってなんぼですので。
 見てる分には楽しいけれど取ってる本人たちはしんどいんだろうな。
 でも巨漢力士の見どころってそこだと思うんですよね。

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 宇良。
 千秋楽で負け越してしまったけれど、宇良の相撲は勝っても負けても私の心を満たしてくれます。
 一番一番を大事に取っているのが伝わります。
 二度も地獄を味わったからでしょうか。負けても悲壮感がありません。取組のある15日間、誰と対戦してもいつも生き生きしていて楽しそう。内心ではご本人どう思っているかわからないですけど、少なくとも一観客である私にはそう映ります。
 そして観客の目にそう映っているということは、この人はプロの力士として超一流だということです。

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 他の力士たちに言いたいです。
 いろんな言い分が各々あるでしょう、ちゃんとした理由があるんだからどんな相撲を取っても仕方ない、自由ですよね。
 だったら観客があなたがたのそういう相撲にどういう感想を抱くか、どういうイメージを抱くのかも当然自由だと言うことです。
 それでもついてきてくれるファンだけ相手にするからどうでもいいのでしょう。

 14日目に数年ぶりの入り待ちをしました。
 テレビで見るだけではわからないものもいくつか見られました。
 素敵なもの、感心するもの、意外なものもたくさんあって楽しめた一方、悪い意味で今後が思いやられるものも実は少数ありました。
 数年前はこんなことありえたか? とかね。

 いくら表を取り繕ってもおのずと出てしまうものはあるんじゃないでしょうか。
 答えはいつでも問わず語り。
 そして……相撲にもそれは出てる。

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 数年前の入り待ち、照ノ富士は十両復帰の場所でした。
 今は横綱ですので入り待ちで声をかけることはできません。大関や横綱は車で直接中の駐車場まで入れるのです(※まれにそうしない大関もいるようですよ)
 照ノ富士に応援の声をかけられないのが残念でもあり、嬉しくもあり。

 前を向いて歩いている人たちは日一日と変わっていくのですね。
 だから気づくとあっという間に遠くに行ってしまってる。

 次に遠くに行ってしまうのは誰でしょう。
 名古屋場所はさらに楽しい場所となりそうです。

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今場所の印象に残った一番

初日 〇北青鵬-●大翔鵬
二日目 ●翔猿-〇若元春
三日目 ●金峰山-〇明生
四日目 ●琴ノ若-〇若元春
五日目 (体調不良で観戦に集中できず。すみません)
六日目 ●大翔鵬-〇平戸海
七日目 〇大栄翔-●琴ノ若
中日 〇錦木-●若元春
九日目 ●照ノ富士-〇明生
十日目 〇照ノ富士-●琴ノ若
十一日目 ●北青鵬-〇若元春
十二日目 〇大栄翔-●朝乃山 
十三日目 〇照ノ富士-●朝乃山
十四日目 〇照ノ富士-●霧馬山 
千秋楽 〇大栄翔-●若元春 

皆様今場所もお疲れさまでした。
次は暑い暑い名古屋場所。ますますのご活躍を!

武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。